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第十話


 王宮の中庭にて二人の少年は赤毛の少女と鉢合わせする。

 二人の少年は膝を曲げ敬礼の仕草を取るが、赤毛の少女───イェリンはエルネに言葉を向けた。


「体を上げなさい。アステグ卿」

 その言葉を受けてエルネは敬礼の仕草を解き、イェリンを見据える。


「……陛下から聞きましたわ……もう決めたことなのですね?」

「は」

 簡潔にエルネは言葉を発し、相手の質問を肯定する。


「ふふ、そんなに堅苦しくなる必要はありません。そうですね……特に人目が無いのであれば、多少は言葉も楽にしてよろしいですわ」

 エルネは訝しむ。

 またこの王女は何かをたくらんでいるのか? と

 

「少し貴方が羨ましいですわ……」

 虚空を見つめながら、何かを考えるようにイェリンはエルネに言葉を向けた。


「羨ましいですか……?」

 相手の意図を測りかね、思わず聞き返すエルネ。


「ええ、そうですね。まあ多少は貴方に共感しているといえばいいかしらね。もう少し違う出会いをしていたら私と貴方はいい友達になれたかもしれませんわ」

 まるで以前とは違ったように、純粋な笑顔をエルネに向けてクスクスと笑うイェリン。


「ねえ、アステグ卿。時々でいいからわたくしの話し相手になってくださるとありがたいわ」

 それだけを言い残しイェリンはその場を後にする。


「なあ、フレードリク……さすがに今のは僕にも分からないぞ?」

「私にも分かりませんよ。それより、準備のほうは整っているのですか?」

「ああ、そっちのほうも陛下から許可を頂いたからな。こっちも通るとは思わなかったよ……」

 二人の少年はそのまま自室に戻る。


                ───────────



 すでに闇の精霊が王都を包んでいる時間帯に、貴族専用の乗馬道を走らせている者がいた。

 

 少女は馬の前に乗っており、少年はその少女を抱えるように手綱を握っていた。

 夜の星が二人を照らしており、静けさが辺りを包んでいる。


 やがて目的地の広場に着いた、少年は馬から下りて、少女の体を支え馬から下ろす。

 少女は少し顔を赤らめるも、少年の誘導にしたって、馬から下りる。


「……本当にお前はいつも驚かしてくれるな」

 小麦色の肌を持つ少女が黒髪の少年に言葉を向けた。


「約束でしたからね。避暑地では果たせませんでしたし」

 苦笑を噛み殺しながら少年は答えた。


「しかし、私はとても嬉しいぞ……避暑地では色々あったからな……もしかしたらお前は私の元を離れたのではないかと心配もした」

 最後の口調は照れによるものなのかゴニョゴニョと少し聞き取りにくかった。


「はは、まあ、あの王女様には色々振り回されましたからね」

「まったく気が気ではなかったぞ……あまり心配をさせるな」

 頬を膨らませ黒髪の少年───エルネに顔を向けるシーヴ。


「僕もシーヴ様に誤解されたままでは気持ちが落ち着きませんからね。陛下に特別に許可を頂いて、夜こうしてここまで来れたわけですし。いかがでしたか?」

 そういわれて、ここまで来る道のりのことをシーヴは思い出した。

 というより覚えていないといったほうが正しいかもしれない。


 エルネの体に包まれてここまで来たのだ。

 気が気ではないどころの話ではなかったのだ。

 夜風を堪能するどころか、エルネの服から伝わる体温のほうに気を取られ、一切の記憶が欠落しているといってもいいほどだ。


「う、うむ……う、馬は高くて怖かったのだがな……お前のおかげで好きになれそうだぞ」

 そしてシーヴはごくりと唾を飲み込み言葉を続ける。


「す、好きなのは馬だけではなくて、そのな……お前の……」

「シーヴ様、僕のことは聞いているのでしょう?」

 エルネは失礼を承知でシーヴの言葉をさえぎった。

 シーヴは言葉を詰まらせ、そして何かを考えるように沈黙する。


「僕はもう侯爵家の人間ではありません。エルネスティ・アステグ。これが僕の名前に変わりました」

「うむ……」

 エルネの言葉に少しうつむくシーヴ。

 エルネが何を言わんとしているか薄々勘付いたのだ。

 

「貴方は大公家の嫡子です。ですから今は貴方のお気持ちにすぐに応えられません」


 シーヴは沈黙を保ったまま相手の言葉を待つ。

 そこでエルネは笑みを浮かべた。

 

「ですので、僕が自分の力で貴方にふさわしい地位と実力を身につけたら、その時は貴方のお気持ちに応えられると思います」

「エ、エルネ!」

 思わず嬉しくなりエルネの体に近づくシーヴ。


「私もな、色々と考えることが出来た。だからお前に負けないくらい頑張って大公家にふさわしい女となるぞ」

 お互い色々と考えることが出来た。


 家名を背負うという重さを理解するために、少年は実家との縁を切り、そして自分が家を興し、当主となることを選んだ。

 そのことが理解できるようになれば、いつかわだかまりを捨て両親とも和解できる日が来るかもしれないと思いその道を選んだ。


 少女はこの王都に来て様々なことを学んだ。

 自分はいつまでも子供ではいられない。

 だから何かを考えなければならない。

 すぐに何かを思いつくわけではないが、それでもこれから先のことを考えながらやっていこうと決心する。


 二人の少女と少年を月と星の光がいつまでも照らしていた。

 

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