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第十三話

 フレードリクは現在、王都平民街にある市場のほうに来ていた。

 主である、エルネに頼まれた買い物と自分の用事を済ませるためだ。

 

 

 エルネに頼まれた買い物とは、彼の服だ。

 シーヴを救ったときに、荷物一式を失い、間に合わせの服を用意してもらったのはいいが、所詮間に合わせである。


 エルネ自身はそれほど服にはこだわりは持っていないが、水晶宮に住む事になり、いつ王族と鉢合わせするか分からないので、私服と言えどそれなりの服を用意しなければならないのだ。 


 

 そのため寸法は後日、本人と来て合わせなければならないが、その前の下見と言うわけだ。

 またフレードリク自身も、愛用している槍の手入れをしてもらおうと、鍛冶屋を探していた。

 緊急時や、警備についているわけではないので、もちろん抜き身ではなく軽く包んでいる。



 そして、人気の無いところまで来て、行き過ぎたかと思い、引き返そうとしたとき、彼の前方から、なにやら荷物らしきものを、抱えながら歩いてくる幾人かの男達が視界に入った。



「なあ、レンナルト様はどこに行ったんだ?」

「ああ、あの人なら、仕事は終わった、ちょいと一杯ひっかけてくらあっていって消えちまったよ」

「なんつーかあの人らしいな」

「だけどよ、こうもうまくいくなんてな。精霊様のお導きか」


 そんな事を言いながら、フレードリクの横を通り過ぎ去ろうとした時、フレードリクの視界にほんのわずか、いやもしかしたらそれ以下かもしれない似袋の中身が見えたのだ。



 なんだ? 今のは? 人肌のような感じだったが……わが国では人買いは禁止されているはずだ。

 それに、あの色はこの国では滅多に見れない小麦色の肌……

 いや、本当に人肌だったのか? 見間違いかもしれない……


 


 そこまで思考したときに、彼の脳裏の浮かんだのは、あの元気な少女のことだった。



 待て待て、あのお姫様は今日は王女殿下と街見物のはずだ。護衛だってついている。滅多なことなどおこるはずがない。

 しかし……例えあの少女ではなくても、どの道人買いは犯罪だ……しかし本当にあれは人だったのか?



 もし彼が子爵位の身分であれば、多少の難癖をつけて中身を確認することも出来たのだろうが、残念ながら今は違う。


 そしてその思考を頭の中で巡らせながらも、彼の体はいつの間にか男達をつけていた。




                ────────────



 王都平民街にある、木が多く植えられている一角にある、木造立ての建物の中で、男達が話し込んでいた。

 

 天井は高く、絨毯はそれなりに高価なものが敷き詰められており、やや中央よりに豪華なベットがおいてある。


 間取りはかなり広くなっているが、部屋らしきものはこの広間以外にない。


「いやーうまくいきましたぜ」

「さすがレンナルト様の手際だよ。あの人が一回失敗したなんてな」

 そこまで男達が口にしたとき、壮年の男が、口を挟む。


「それで、肝心のレンナルトはどこへ行った?」

「ああ、あの人なら一杯ひっかけてくるって言ってどっかに消えやした」

「まったくあの男は……まあいい中身を見せろ」


「へいへい」

 そういって男達は荷袋を解き、その中身を見せた。


「いやーこうしてみて見るとすげえな」

「この肌、この金色の髪。たまんねえぜ」

「いやこっちのお姫様も捨てたもんじゃねえぜ。見ろよこの色の肌。この国じゃ滅多にお目にかかれねえ代物だ。味見してえな」


「まだ、ガキじゃねえか。胸だってちんけな胸だしよ。俺はやっぱこっちだな」

「一回でいいから抱いてみてえな」


「抱かせてやろうか?」

 壮年の男の一言が、男達の耳に響く。


「え? は? ほ、本気ですか?」

「なんだ嫌なのか? なら無理にとは言わないが……」


「いえいえいえ。とんでもない。へへへじゃあ早速」

「おい待てよ。何でお前が最初なんだ? ここは平等にいこうじゃねえか」

「とかいって、てめえ抜け駆けする気だろ?」

「落ち着けよお前ら、ここは一つまず俺が様子見てだな……」

「ふざけんな」

 やいのやいのとやりあう男達に再び壮年の男が口を挟む。


「まあ待て、そうがっつくな。意識の無いものを手篭めにしても面白みにかけるだろ?」

 そういって口元を吊り上げた。




 闇の中でシェシュテインは徐々に意識を覚醒していく。

「う……あ……」

 少しずつ少しずつ、意識が目覚めていく。


「こ、ここは……」

 そうして何とか目を開け、まず視界に入ったのは、見慣れない天井にいくつかのシャンデリア。

 火は灯されているようだ。


 そして自分の体がどうなってるか確かめようと思ったが、両の手の自由が利かない。

 どうやら、縛られているようだ。

 

 仰向けに寝かされており、両の手は自分の頭上に持っていかれて、そのまま何処かに繋がれているようだが、確認できない。服は着ているようだ。


 柔らかな感触によって、ベットに寝かされているということを把握する。

 ふと隣を見ると、見慣れた可愛らしい顔立ちをした少女が、自分と同じ格好をして寝息を立てているように、両の目を閉じていた。


「あ、シ……シーヴ」

 隣の少女に声をかけたが、別の場所から、そして別の声で返事が来た。


「ふむ……王女殿下が先に目覚めたか……まあいいだろう」

 その声の人物に何とか顔を向け確認した王女は、自分が攫われた事を、状況からようやく把握したが、精神を素早く立て直し、その人物に言い放つ。





「これはどういうことですか? ベルガー伯爵」



                ────────────


 

 時は少し戻る。兵からおおまかな情報を聞いたエルネは、兄に協力を求めるように指示を出し、ソードに声をかけた。


「ソードまずはフレードリクと合流しよう。気配は掴める?」


 精霊は精霊同士感知できる。

 精霊騎士が精霊の力を相手から感じ取れるように。

 エルネがシーヴを救ったときのように。

 


 エルネ自身も精霊の力を感知することは出来るが、精霊そのものと比べるとやはり一段落ちる。


 そしてこの王都には幾人かの精霊騎士と何人かの精霊術師がいるが、馴染んだ気配の特定の相手であれば、掴むことも可能だ。

 

 フレードリク自身も精霊を顕現させることは出来ないが、精霊術師の一人だ。

 フレードリクに力を貸している精霊は、彼らにとって充分特定できる、馴染んだ気配でもある。


 フレードリクが捜索に加わったところで、焼け石に水かもしれないが、今は一人でも多く人手が必要だ。

 ゆえにエルネはまずフレードリクと合流することを選んだ。


『うん、掴めた。あ! けど移動している。このままじゃ見失うかも』

「わかった急ごう!」

 そうして黒髪の少年は駆け出した。



                 ──────────




 ベルガー伯爵、その人物は50手前だろうか、髭を蓄えてており、体格も立派だ。

 貴族用の茶色い膝裏まで来る様な、コートのようなものを羽織っており、その身なりは、とても立派だ。


 しかし目からは何やら怪しげな光を放っていて、下手に触れたくはないという印象を与える。

 そして、彼の連れ合いは、ベルガー伯爵夫人。すなわちシェシュテインのサロン仲間でもあり、つい昨日、一緒にお茶を楽しんだ仲でもあった。


 そしてその隣には、シェシュテインが気絶している間に来たのか、彼女のよく見知った顔もあった。

 それを確認したシェシュテインは内心ため息をつく。


 つまりこれは夫婦揃っての共謀だと言う事を理解したからだ。

 なぜならベルガー伯爵夫人からも夫と似た目の光を放っていたからだ。

 そして王宮で様々な貴族や王族と接してきたシェシュテインにはこの二人が放つ種類の光をよく知っていた。

 

 嫉妬、憎しみ、恨み、憤怒、そういった類の負の感情を持つ特有の光だ。

 昨日のお茶会で……いや、今までシェシュテインに見せてきた顔など、どこにもない。

 もはや別人と言ってもいいような雰囲気だ。



「一応の予測はつきますけど、話してもらえるかしら? 王族である私と貴族筆頭の一人娘であるシーヴをさらったあげくこのような格好を強要するわけを」

 

 

 シェシュテインはなんとなくではあるが、何故彼らがこのような行動に出たかを把握したが、今は時間を稼ぐことが重要だと判断して、あえて理由を聞いた。

 内心は長年、信頼していた友達に裏切られてショックを受けているにもかかわらず、いつもと変わらない口調だ。


「そうですな……まあ何も知らず汚され、理性を失う前にある程度のことは把握しておきたいでしょうね」


 そういってベルガー伯爵は語りだす。


 それは先の3公爵の乱に発端する。


 3公爵の乱を引き起こした、そのうちの一つの公爵家エイデシュテット公、現在の曽祖父にあたる人物が3代目の国王の第二王女を妻とし、侯爵の位から公爵の地位に引き上げられ、現在まで続いた家。


 そしてベルガー伯爵夫人の実家でもある家だ。彼女は公爵家から伯爵家に嫁いだ女性でもある。

 もっといえば、現エイデシュテット公の姉でもあった。


 そして3公爵の乱は彼女達がまだ若く、爵位を引き継ぐ前に行われた乱であり、その縁から当然、3公爵の乱に加わったのだ。


 そこには様々な思惑があったが、最も分かりやすく言えば、王家の権力を強くしたい王族と、貴族の権力を強めたい貴族の戦いでもあるが、当時のベルガー伯爵、すなわち先代は、3公爵と同じように俗物的な考えもあり、3公爵に家をあげて協力し、その中には当時、先代の息子である彼らもいたのだが、結果は見ての通りものの見事に失敗に終わった。



 そしてわずかではあったが、持っていた領地を召し上げられ、先代は、兵を実際に起こしたわけではないので隠居させられ、現在のベルガー伯爵が爵位を継ぐことになったのだが、では召し上げられた領地はどうなったかと言うと、大公領に近かったため、そのまま併合されたのだ。


「なぜ、あの時、大公様は我らのお味方をしてくださらなかったのか……大公様さえお味方してくれていれば、無条件降伏に近い形で膝を屈することなど無かったのに……そればかりか我らの領地まで……何故ですかシェシュテイン王女殿下? 王族の貴方なら分かるはずでしょう?」


 そんなものは少し考えれば分かるでしょう? と言いたかったがこのような目の光をした人物に何を言っても無駄だということを彼女は知っている。



 私は王宮で情報を収集するわ。

 なら俺はその情報を生かすための手ごまを見つけよう。

 

 


 そうして何年も暖められてきた狂気が、ここで芽吹いたのだ。

 もはや成功するしないに関わらず、彼らは狂気に支配されていたのだ。


 夫人は何食わぬ顔で、ずっと王女を騙し続けていて、王女はそれを見抜けなかった。


「それで、私達を……───いやシーヴをさらったと言うわけですか……内戦を再び起こすために!」

「ええ、そうですわ。いわば貴方は巻き込まれた形になりますわね」

 ここで口を開いたのは昨日まで楽しくお茶を飲んでいたベルガー伯夫人だった。



「ええ、貴方とシーヴ様の仲はよろしいと良く耳にしていましたからね。貴方にお近づきになればいつかチャンスは来ると思っておりましたのよ。幸い昨日、貴方とシーヴ様が街へお出かけになると仰っていましたからね、雇った者をやってここへ運ばせたのですよ。王家にも恨みがありますし、貴方はその生贄にでもなってもらおうかしら」

 そのあとを引き継ぐようにベルガー伯爵が言う。


「大公女殿下は下賎の身の輩にその身を汚された挙句、ここでお亡くなりになる。そうなれば大公様は必ずや兵を上げるでしょう。我らはそれにお味方する。そうして王族の権力を弱め、貴族中心の国を作るのだ」

 まるで演技をしているような熱っぽい語り口調で話すベルガー伯爵。


「さて、そう簡単にうまくいきますか? 我が父である陛下は聡明な方です。犯人である、あなた方を必ずや突き止めると思いますよ」

 はっきりいってその可能性は低いとシェシュテイン自身思っているが時間を稼ぐためにあえて口にした。


「ふふふ、内戦になればそのような暇などないさ。それに大公女殿下がこの、国王陛下のお膝元で汚され殺されるのだ。聞く耳など持たぬだろうよ」


 ここでシーヴが目を覚ました。


「う……な、なんだ……うるさいぞ……」

「おやおや、ずいぶんと遅いお目覚めですわね」

 勝ち誇ったようにベルガー伯爵夫人が言葉を発する。


「な、なんだこれは。なぜ私がしばられ……ベルガー伯爵夫人ではないか。一体どうしたのだ?」

 まるで状況が分かっておらず無邪気な瞳をベルガー伯爵夫人に向けるシーヴ。


「ああ、大公女殿下、そういえば貴方は火遊びに興味がおありでしたわね。ふふふ、そうですね、それを今から教えて差し上げましょう」

「さてお前達、あとは好きにしろ」


 その言葉を待っていたかのように男達はベットの上に上がり、二人の少女の服に手をかけ始めた。


「くっ、無礼者! 王族である私にそのようなことをして……やめなさい……くっ」

「おおおお、むしゃぶりつきたくなるような肌だぜ。へへへ、おいおいおいこりゃ役得ってやつか」

「ばか、こっちをみてみろよ。この小麦色の肌たまんねえぜ」

 シーヴは混乱と恐怖で何もいえない。

 

 何人かの男達の手がシーヴとシェシュテインの着ている服に手を伸ばす。


 なんだこれは……こんなもの私は知らない……この者達はなぜ私の服に手をかけるのだ? 

 

 

 フレードリクの言葉が脳裏によぎる。

「やがて、どういうときに肌を見せるべきか自然と身につくでしょう」


 違う、これは違うこんなの肌を見せるべき時ではない! 嫌だよ! 嫌だよ!


 しかし男達の手は止まらず、着ていた服が破かれていく。


「おやめなさい! そのような子供に!」

 それでもシェシュテインは気丈にシーヴをかばおうと、そしてせめて注意を自分に引こうと言い放つ。

 

「そうキャンキャンわめくなよ、お姫様。あんたもちゃんと俺が可愛がってやるからさ」

「そうそう、そういう声はもっと大事なときに聞かせてくれねえとなあ」

 

「おお、いやいやこれだけでも眼福だな」

 すでに上半身の服は破かれ、少女達の身を包むのは下着……コルセットのみになり、上半身の肌の大半が男達の視界に入る。


「マジかよ、この肌……なんつーのかな絹のような……ってこういうのを言うのか?」

「こっちの肌なんて珍しいだけあってもっとすげぇぜ。やべ我慢できねえよ」


 そして男達の手がシーヴとシェシュテインの肌を堪能するように這い回る。


 ぞわりと背筋が震えるシーヴだが、もはや何が起きているのかすら分からず、ただアイスブルーの瞳から涙がにじむ。

 

 男達の気色悪い感触の持つ手がシーヴを襲う。


 なぜ、この者達は私を触ってくるのだ? 気持ち悪いよ。やめろよ。なんなんだよ。


「おいおいこっちのお姫様泣いてるぜ」

「ばーか、お前の顔が怖いんだろ。へへへ」

「優しくしてやるからそう泣くなよお嬢さん。いや、これはこれでたまんねえな」


 

 この男達は何を言っているのだ? 私は嫌がっているのになんで喜んでいるのだ? なんでのしかかってくるんだよ……重いよ……嫌だよ! 触るなよ! 怖いよ! こんなの知らないよ!



 そしてシーヴの脳裏にある人物が浮かぶ。

 姉代わりの侍女でもなく、一緒に大公領の屋敷を抜け出した護衛でもなく、わずか短い期間しか過ごしてはいないが親友となった黒髪の少年。その人物が彼女の浮かべた人物だ。


 魔霊に襲われた自分を救ってくれた。

 第二王女にやり込められそうになったとき自分を助けてくれた。

 そして彼女の口からわずかな呟きが漏れる。


「エルネ……」


 瞬間、屋敷の壁が破壊され轟音が鳴り響いた。

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