第4話 おにいさんとマジ天使
レインと名乗った大男を連れて、子供たちの下へと戻ると、お昼ご飯は食べ終わったようで食器を洗いに行っている子以外は皆めいめいに遊んでいるようだった。
ほぼ1日中幌付きの馬車に乗せているので、表に出る事の出来る食事の時間は遊びたい盛りの彼らにとって貴重な時間なのだ。
草や花を摘んだりしている女の子や木登りや馬とびをしている男の子達も俺が戻ると一斉に
「「「おかえりトリオお兄ちゃん」」」
と迎えてくれ、中には飛びついてくる子もいる。
しかし、俺の隣にいる大男に気付くと、皆一斉に警戒し始め、離れていく。
そんな子供たちの目と態度を見て、隣のレインは少しショックを受けたらしく、しょんぼりとしたのだが、気を取り直して
「こんにちは、みんな! 俺は旅人のレインと言うんだ。さっきこのお兄ちゃんに会って、みんな遠い所から旅をしていると聞いて、君たちにプレゼントを持ってきたんだよ」
とにこやかに話しかける。
それを見て、俺は少し感心した。
プレゼントと聞いて子供たちは興味を示したらしく、声を上げる。
「プレゼント~?」「プレゼントっておみやげ?」「何々~」
「それはね」と言ってレインと名乗った大男は地面から太目の乾いた枝を拾い、1人の女の子を手招きする。
手招きされた子が、俺の顔を見て『どうしよう』と目で訴えてくるので、俺はその子の手を取り「大丈夫だよ、俺と一緒だ」と言って近づくとレインはその場にしゃがみ、なるべく女の子に目線を合わせようとするのだが、それでもレインの方が頭1つ高いのはご愛嬌と言う物だろう。
「こんにちは、お譲ちゃん。君の名前はなんて言うのかな?」
そう聞かれた女の子はもう一度俺を見るので、軽く頷くと
「メイです。もうすぐ11歳です」
と言って丁寧にお辞儀をすると、レインは少し感心したように笑い
「そうか、メイちゃんはリスさんとか鳥さんは好きかな?」
「うん、リスさんも鳥さんも好き! でも一番好きなのはウサギさんだよ」
「そうか~ウサギさんが好きなんだね、じゃあ見ていてごらん」
と言って何処からか1本のナイフを取り出し、枝の先端を綺麗に切り落とし、なにやら枝を削り始めた。
俺は今こいつの動きが分からなかった事に驚きと共にショックを受けた。
俺は目を離していない。
当然だ、子供たちがいるのだ、侮りも油断も無くレインを見ていたはずなのに、ナイフを取り出し子供の前で枝を削るまで、全く反応が出来なかったのだ。
会った瞬間から、かなり強いとは感じていたが、ここまでの強さとは驚いた。
俺が驚いているとメイちゃんの声で我に返る。
「わぁ~ウサギさんだ~」
時間にして1分くらいのはずなのに、確かにそこには先ほどの枝を削って出来たのであろう、小さなウサギの木彫り人形が出来ていた。
それを見た子供たちが一斉に声を上げる。
「すげぇ~~!」「かっこぃぃぃぃ!」「やるじゃん!」「俺も俺も!」「私にキツネさん彫って~」「おっさんすげぇぇぇ」
「今おっさんって言ったやつには彫ってやらん、お・に・い・さ・ん・だ!」
「「「お兄さん、彫ってください!」」」
子供は現金だが、このレインと言う男も子供たちにお兄さんと呼んでもらったことで機嫌が一瞬で良くなり
「よ~し、じゃあ彫って欲しいものが決まったら、乾いた枝を拾って『お兄さん』の所まで持っておいで~」
と言うと、子供たちは「「「は~い」」」と元気良く返事し、一斉に枝を拾いに行く。
レインはそれを見て
「子供はいいな」
と呟くのが聞こえたので
「あんたは、子供はいないのか? もうあのくらいの子供がいてもいい年齢だろ?」
そういった瞬間レインは急に立ち上がり
「お前、俺がいくつに見えているんだ?」
「ああ? そうだな……ぎりぎり30手前か31~2くらいか? 25以下ってことは無いだろ? あんた見た目も結構良い男だから嫁さんと愛人の2~3人くらいいるんじゃないか?」
そう言うとレインから一瞬殺気が漏れ、やつの右腕が振るわれる。
俺は咄嗟に左上段をガードしようとするが、俺の本能が『違う! 逆だ! 』と叫び、躊躇うことなく本来逆であるはずの右上段を両手でガードした瞬間、腕に衝撃を感じ弾き飛ばされる。
フェムがそれを見て、瞬時に投げナイフを2本同時にレインに投げつけるが、レインはそれを腕で払い飛ばす。
おいおい、今コイツ素手でナイフを払い飛ばしたぞ……内気か?
俺自身はと言えば弾き飛ばされたと言っても、半分以上は自分で飛んだのでたいしたダメージが無かった。
そのため冷静に相手を見ることが出来たのだが、フェムは冷静では無くなっていた。
森の木々を足場に、高速で移動し、レインの視覚をごまかし、残像を作っていく。
あの馬鹿! と思い、大声でフェムを静止する。
「フェム止めろ! 止めないと1ヶ月添い寝無しだ!」
そう言った瞬間フェムは相当ショックだったのか、「ピッギャッ」と声がして木々の間から落ちてきた。
落ちてきたフェムにビックリしたが、急いでフェムをお姫様抱っこで受け止めると
「そのお仕置きはしないって言ったじゃないですか、酷いですニャァ、奴隷虐待ですニャァ」
と言いながら、優雅な尻尾で俺の手を撃ってくる。
そんなフェムの耳元でレインに聞こえないよう
「お前の本気は俺が良いと言う時以外は出さないって約束だろ?」
「ごめんなさいです。ご主人様……」
そう言ってしょぼくれるフェムを地面に降ろし
「随分物騒な突込みをしてくれる。なんだ今の技は?」
「まさか、防がれるとは思わなかったぞ……王都全部の正規騎士団を探したって、今のを初見で防げるのは5人もいないぞ」
「へぇ~~、王都の正規騎士団の人達って思ったよりも弱いんだね」
と言って笑ってごまかすのだが、レインの目は笑っていない。
「お前何者だ?」
「あんたこそ何者だ? 『王都全部の騎士団を』って表現が出来るってことは少なくとも正規騎士団の相当な上層部ってことだろ?」
「「…………」」
「まぁ、いいさ。それよりも」
そう言いながら、俺の後ろに隠れている子供たちに
「大丈夫だよ、俺たちはちょっとふざけていただけだ。このお兄さんは怖くないよ」
と言って、一旦何人かの子供たちを抱き抱えた後、レインに向けて押し出してやる。
「まぁ、いい。お前が何者なのか非常に興味はあるが、今はこの子達のプレゼントが先だ。それと!」
「ん?」
「俺はまだ21だ! 嫁も愛人も子供もおらん! ってか紹介しろ!」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ」」」
「「「うそだぁぁぁぁぁ!」」」
「「「ありえないよ~」」」
と言う声が響き渡ると、レインは悲しみのあまりがっくりと膝を付いた。
そんなレインをフェムは枝でつつき、さっきの腹いせからか
「ご主人様は私を含む超絶美少女3人に絶賛思われ中ですよ」
と言ってトドメを刺していた。
- レインがフェムにトドメを刺された1時間後 -
クッマックマ♪クマクマク~♪
小さな男の子を傍らに意味の分からない歌を歌いながら、機嫌よく器用に枝を削る馬鹿が1人いた。
そうさっきまで落ち込んでいたはずのレインなのだが、とんでもないきっかけで不死鳥のように立ち直ったのだ。
それはフェムにトドメを刺され、どん底にいたレインの元にメイちゃんという天使が舞い降りたのだ、メイちゃん曰く
「レインお兄さんはお父さんみたいで好き、大きくなったらお嫁さんにしてね」
と言って頬にキスされたのだ。
その瞬間のやつは凄かった。
いきなり立ち上がり、メイちゃん10歳を抱え
「大きくなったらと言わず、今すぐでもおにいさんはOKだぞ! ああ、そうだ! まずはご両親に挨拶を」
「ゴッッッン!」
慌てふためく大男を見るのは面白いのだが、メイちゃんを抱えているのだ、ちょっとは自重させようと棒で精神安定剤を処方する。
「落ち着け、メイちゃんは孤児だ! 可哀想だが、お父さんとお母さんはいないんだ!」
「な、ならば! 誰に挨拶に行けばいいのだ? 俺はすぐにでも!」
「ゴッッッン!」
またもや、慌てふためく大男に精神安定剤を処方し、危ないのでメイちゃんをやつから取り上げる。
「落ち着け! メイちゃんにお父さんとお母さんはいないけど、お父さんの代わりとお母さんの代わりならいるぞ!」
「ど、どこだ! 教えてくれ!」
「ここだ」
と言って、俺が自分自身とフェムを指し示すと、フェムはその瞬間、真っ赤になり
「ご、ご主人様と、わ、私がおおおおおお父さんとおおおおおおおお母さん……」
そう言ってフェムはそのままパタリと倒れて、動かなくなった。
そして馬鹿がもう1人
「は、始めましってって、レ、レイレレレイエイレイエイレイエと言いまままま」
「ん? ま? ま、ま、ま、……マッスル?」
「違うわ! 結婚の挨拶に決まっているだろ!」
「じゃあ、ちゃんと話せよ!」
「メイちゃんを僕に下さい!」
お~一人称が変わって、男らしくはっきりと言ったつもりなんだろう、しかし貴様がはっきりとくるなら、俺もはっきりと言ってやろう!
「だが断る!」
「な・ん・だ・と……あ、あれか! 『娘が欲しければ、俺を倒してからに』とかってやつか! ならば今すぐ貴様をお星様にしてくれるわ!」
と言って、気合を込めて俺に飛び掛ろうとするのだが、その前にメイちゃんが立ちはだかり
「乱暴な人は嫌い」
と言うと、借りてきた猫のように大人しくなり、現在の至るわけだ。
ちなみにメイちゃんは今、レインへのプレゼントを作るべくお花を摘み行っている。
もし、今の状態でメイちゃんからプレゼントなんて貰おうものなら、……あいつマジですぐにでも挙式とか言い兼ねないな
ここは、はっきりと言ってやらねばなるまい。
そう決めて俺はやつの肩を強く叩きながら
「このロリコンが!」
と言って思いっきり蔑んだ目で睨んでやるのだが
「え? 何を言っているのかなトリオ君は。愛の前には年なんてたいした障害にならないのだよ。君ももう少しすれば、真の愛というものが分かるはずさ」
と言って、無駄に爽やかに言って来やがる。
ダメだコイツ……早く何とかしないと頭を抱えていると
「できたぞ~、ほらご希望の熊さんだ」
と言って、小熊を模した人形を男の子に渡すと男の子は
「ありがと~レインお兄さん!」
とお礼を言った後、元気良く仲間の方へと駆け出す。
その後姿を見つめた後、幸せ一杯の表情で寝ているフェムに
「フェム子供たちを馬車に乗せて、絶対に表に出ないように言いつけるんだ。それとお前は馬車の護衛だ、万が一の時は、俺が『許す』本気出していいぞ」
それを聞くと、フェムは静かに起き上がり、先ほどまでの幸せ一杯の表情から一転して厳しい顔になる。
そんな厳しい顔をすると、やはり猫じゃなくて豹なんだな~と場違いな事を考えるのだが、これじゃダメだなと思い
「フェム、俺を信じろ。敵がお前たちの所にたどり着く事はほぼ無い。だからそんな顔をしない」
そう言いながらフェムの頬に軽くキスすると、フェムはふにゃりと顔を崩し、「はいです」と短く言って子供たちの方へと駆けて行く。
それを見送った後、ゆっくりとレインの方に向き直りながら
「どういうつもりだ?」
と殺気を込めて言い放つ。
フェ「メイちゃん、本当にレインおにいさんのお嫁さんになるの?」
メ「なんで?かわいいじゃん!」
フェ「え?アレが、かわいい?」
(この子大丈夫かしら……)
メ「だって、あんな大きな体で、小さなナイフで使って木の人形作っている姿ってかわいいよ?」
フェ「なるほど、これがギャップ萌えですね、分かります。しかし、こんな年でギャップ萌えとか……この子の将来が心配ですね……」
メ「フェムお姉ちゃんは、強くて、優しくて、カッコイイ、トリオお兄ちゃんがいるからいいけど、あたしにはいないもん!」
フェ「え?ご主人様と私が…………確かにご主人様は強くて、優しくて、カッコイイですが……」
と言いつつ尻尾をこれでもかってくらい振り回す馬鹿豹
メ「レインお兄さんだって、強くて、優しくて、カワイイだよ!」
フェ「まぁ、人の好みはそれぞれですからね~」
メ「レインお兄さんは、私の王子様なんだからね!」
それを木の陰で聞いていたレイン(ロリコン馬鹿)は鼻血を出して悶絶していた。




