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第1話 プロローグ 不可視の魔術師

以前書いていた商人メルカトラーの改訂版です。

第1話~第9話までの部分を大幅に改定し、原型が無くなってしまった為、再投稿の形をとらせていただきました。

 

 

 プロローグ

 精霊の日、この世界で最も精霊が人間にとって身近となる1年に1度の日。

 そんな日にある場所で一組の男女が何か大事なものを抱え、満天の星空の元で寄り添っていた。

 男の名前はバクスター・ノウラン。

 この世界では英雄と呼ばれ、数々の偉業を達成した事により、最も商人メルカトラーに近い男として有名であり、ノウラン商会の頭領として知られている。 

 女の名前はマロリー・ノウラン。

 バクスターの妻であり、パートナーでもある、世界有数の冒険者で、単純な強さだけなら世界で10指に数えられる女傑としてその筋では有名ではあるが、やはりバクスターの妻として名の方がっている、ノウラン商会の副頭領である。

 そんなマロリーの胸にはまだ乳幼児にゅうようじと呼んで差し支えの無い赤ん坊がスヤスヤと大人しく寝ている。

 

 

 

「ようやく、このアイテムを使う日が来たな」

「ええ、あなたが私にプロポーズをしてくれた日から数えたら、長かったわ」

「長いって、まだ5年程度しかたっていないじゃないか」

「あたしには充分長いと言える時間よ。5年ほど?冗談じゃないわ、5年待ったのよ!」

「分かった、分かった。でもその分だけ溜まった・・・・と思わないか?」

「そうね、私の魔力」

「そして、俺の身体能力」

「「この二つがあれば」」

 

 

「最高にモテ男になれる!」

 

 

 

「ぐほっぉぉぉぉ」

 バクスターがそう言った瞬間マロリーの蹴り的確にバクスターの鳩尾にクリーンヒットする。

「あんたね、いい加減にしなさいよ。この子もあんたみたいになったら困るでしょ?」

「じゃあ、お前はこの子にどうなって欲しいんだ?」

「あなたの身体能力と、私の魔力を継ぐのよ。当然最高にカッコいい男になるにきまっているじゃない! ねぇ~トリオ」

 そう言ってマロリーは赤ん坊に頬ずりする。

「あのさ、その最高にカッコいい男はモテルとは思わないのか?」

「そうねぇ~、確かにモテルかもしれないけど、トリオとお付き合いしたい娘は、まずあたしを倒してからね。話はそれからよ!」

 と息巻くと、バクスターがあきれながら

「そりゃ無理だろ、神弓マロリーに勝てる女性なんてこの世界に片手もいないぞ?」

「何を言っているの? あたしは誰にも負けないわよ。そう例え相手があなたでも! トリオを物にしたければあたしを倒すことね!」

「ふっ良いだろう。今日のトリオのお風呂当番もいつものように俺のものだ、お前がどんなにトリオを愛していても、俺の愛の深さには届かない事を再度確認させてやろう!」

「言うわね。母の愛の強さはこの世で最も強い事をその足りない頭に叩き込んであげるわ」

 そう良いながら、片手を挙げると、その手には金属上の棒が握られる。

 それを見たバクスターは慌てて

「待て待て!お前それはいくらなんでも反則だろう! それに……そう! 今は継承の儀が何より大事だろ!」

 それを聞き、マロリーも落ち着きを取り戻し

「そうね、もうすぐ月が中天に差し掛かるわね。さっさと準備を始めましょう」

 そう言いながらマロリーは地面に黒い布地を地面にひき指先から魔力を出し、魔方陣を書き始める。

 バクスターはあらかじめ用意してあった、少し深めの透明な皿を取り出し、四隅に配置していく。

 そして、魔方陣を書き終えるとその中心に赤ん坊を置いた後、2人は自分の胸元に光るネックレスを外し赤ん坊の胸に置く。

 さらに、バクスターは配置された皿になにやら白い液体を注ぎまわり、全ての皿を満たす。

「さて、これで準備は完了だが、上手く行くかな?」

「上手く行くと思うわよ、確かに継承の儀は既に伝説化されてはいるけど、それはアイテムの入手難易度の問題で、手順そのものはそれほど難しくないからねって、そろそろ始めましょう」

「ああいいぞ、君の魔力を引き継ぐわけだから、最後の準備は君がしたほうが良いんじゃないか?」

「そうかも知れないわね。じゃあいくわよ」

 そう告げたマロリーは短く呪文を唱えると、右手に茶色い空気の渦が、左手には緑の空気の渦が表れ、それを白い液体に満たされた皿の上に置く。

 更に青い空気の渦と、赤い空気の渦を生み出し、まだ空いている皿の上にのせる

「これで、準備は完全に終了ね、後はこの子が精霊に愛されている事を願いましょう」

 そう言った瞬間、この場にいる2人以外の声が聞こえ始める。

「始めまして~」「およよ~」「こんばんは~」「おっす」「何これ!」「綺麗ね~」「可愛い~」

 2人はその声を聞いても慌てることなく、静かにひざまずくと、バクスターがおもむろに

「精霊様、精霊様、こんばんは。今日はお願いがあってお呼びしました」

 と丁寧に告げると

「「「「こんばんは~~」」」」

「何々~?」「お願いって?」「このおっさん面白~い」「人間だ、人間」「にんげ~ん」

「私たちのお願いとは、この継承の儀を見守っていただきたいのです。そして出来ますれば、この子にどなたかの祝福をお願いしたいのです」

「祝福~」「しゅっくっふっく!」「あはは~」「誰に~」「え~」「おもしろ~い」

「どうかお願いします」

 そう言いながらバクスターとマロリーは再度頭を下げると、赤ん坊の胸元に1つの光が降り立つ。

 その光は、最初は弱々しい光を放っていたのだが、段々と光は強くなり、最後はうっすらとした人型をした強力な光になった。

「こんにちは~、いや、こんばんは~だったね~。私の名前は%&◎△%#。この子は私が祝福するわね~。いいでしょ~?」

 その人型の光がそういうと、周りの声は一斉に収まった。

 なにやら「ヒッ!」「こわ~いのがきた~」「こわい~、こわい~」

 とか聞こえた為バクスターとマロリーは内心物凄く焦ったのだが、人型の光は気にした様子も無く

「なんか、ボーっとしているからもう一度言うわね、私の名前は%&◎△%#。あなたたちの継承と私の祝福を認めます。どう嬉しいでしょ?」

 そう、人型の光が再度確認するのだが、バクスターもマロリーも答える事が出来ない。

 返事をすることが出来ず、固まっている2人に光の人影は不信感をあらわにし

「なによ~私にはお話できないの~、ちょっと怒っちゃうかも~」

 それを聞き、バクスターは正気に戻ったように

「失礼しました、精霊様。どうかお怒りをお治め下さい。ところで、お名前が良く聞き取れませんでした。できるならば我々人間の言葉で分かるよう、お名前をお教え下さい」

 そう言って、再度頭を下げると、その人型の光は2人の耳元に近づき

「私の名前はアネックって言うの、よろしくね~と言っても、あなたたちに会うことは二度とないけどね」

 それを聞いた二人は非常に驚いた顔をし

「そ、そのようなお名前は聞いたことがありません。ど、どのような加護がいただけるのですか!?」

「う~ん、口にするのは難しいな~。でも悪いことじゃないよ~、楽しみにしていてね~」

 そう言うと、精霊は赤ん坊の近づいて行き、胸元にあるネックレスをもち

「いただきま~す」

 と言ったあとネックレスを口に入れる。

 なにやら「ボォッリ! ボリッツ!」と租借する音が聞こえ、そのうち「ゴォックン!」と飲み込む大きな音が聞こえると

「いや~、人間からこんなに良い力と魔力を食べられるとは思わなかったよ、それに私の祝福……面白い事になりそうだね」

 と言ってクスクスと笑う。

 それを聞き、バクスターもマロリーも一瞬青ざめるが

「「どうか、この子の行く末をお願いいたします」」

 と言って2人とも深々と頭を下げる。

「だいじょうぶ~、私にまかせてね~、それじゃバイバ~イ」

 そう言って、精霊は赤ん坊の中へと消えていく。

 精霊が消えると同時に辺りを静寂が包む。

 虫の声1つ聞こえない、静寂をマロリーが恐る恐る打ち破る。

「ねぇ、精霊ってもっと無邪気なんじゃないの? あんな成熟したしゃべり方をする精霊なんて聞いたこと無いわよ」

「ああ、それに……精霊の名前は体を現すはずなのに、『アネック』なんて名前に心当たりが無いぞ」

「そうね、火水土風氷雷光闇の自然を司る現象系ではないわね」

「ああ、陽岩草花月影時等の事象を司る物質系でもなさそうだ」

「「じゃあ、なんだ?」」

 と言って2人は顔を見合わせるが、その答えが出るわけではない。

「と、とりあえずこうしていても何も変わらないからな、帰ろうぜ」

 そう言いながらバクスターはスヤスヤと寝ている赤ん坊を優しく抱き上げ、マロリーに帰宅を促す。

 

 

 

 

 - 14年後 -

 

「なあ、小僧。大人しくそこをどいてくれないか?」

「いや~、あんたらが、大人しく帰れば問題ないんじゃないですかね?」

「こっちは子供使いじゃねぇんだよ! さっさとどけよ!」

「俺は子供だけど、俺子供使いじゃないんだよね」

 そう言いながら鼻で笑うと、それに痺れを切らした1人の兵隊が

「もう、こいつ殺っちゃいましょう、小隊長!」

 と言いながら槍を俺に突き出してくる。

『おいおい、軍隊なんだからせめて隊長の許可が出てからにしろよ』と心の中で思いながら、棒の先で槍を払いのける。

 予想したよりもはるかに強い力で槍を払いのけられた兵隊は大きく態勢を崩し、そのまま頭から転がってしまう。

 すると、後ろで見ていたほかの兵隊からドッと笑い声が起こり、「しっかりしろよ~」とか「昼間から酔っ払っているのか~」と声が掛かると、更に笑いは大きくなる。

 そんな中

「静かにせんか!」

 と隊長と思しき人物が進み出てきて、俺に告げる。

「小僧、どかないなら力づくで押し通る。我々はこの先の街に用があるんだ」

「力づくですか? なるほど、それが帝国のやり方なんですね? じゃあ俺も力づくでいかせて貰いますけど……」

「けど?お前のような小僧1人で何が出来る!」

「1人? ああ、俺が1人に見えるんですね。まぁ確かにそう見えますが、本当に俺が1人だと思っているんですか?」

「なんだと? 今俺達の前にいるのはお前1人だろうが!」

「そうですか、じゃあ1人じゃないことを証明して見せますよ」

 そう言って馬首を巡らし、少し後方に下がる。

 それを不思議そうに見守る兵隊へ向かって、俺は優雅にゆっくりと片手を上げ

「ファイアーボール!」

 と叫びながら手を下ろすと、俺の後方からおよそ100個ほどの火の玉が現れ兵隊達に向かっていく。

 いきなり火の玉に襲われた、兵隊達は多少の混乱はあるものの、ほとんどの兵隊は大きめのタワーシールドを使用し、ある者は防御し、ある者は、はじき返す。

 しかし、何人かはまともにくらい、火に包まれ仲間に助けを求めている。

 先ほど出てきた隊長は憮然としながらも

「おい、今のは何だ? なぜ誰もいないお前の後ろから魔法が飛んでくる?答えろ、小僧!」

「だから言ったじゃないですか。俺は1人でここに来ている分けではないですよ」

「どういうことだ!」

「別に俺はそれに答える義理はないですよね?先ほど何人かは盾にリフレクションが掛かっていてはじき返したようですけど、重ねがけなんてしていますかね?」

 そう言いながら、俺は再度ゆっくりと手を上げる

「ま、待て!」

「聞こえませんね……エレキ!」

 と叫びながら手を下ろすと、先ほど同様に今度は電撃の矢が100個ほど飛ぶ。

 今度も魔法が来ると構えていた兵隊達はタワーシールドを構え防御するが、電撃の魔法であるエレキは鉄を伝導しダメージを与える。

「ぐぅわぁ」「あぎぃぃぃ」

 ダメージを食らった兵隊達は転げ周り、痛みを訴える。

 俺はそんな兵隊達を冷ややかに見つめながら、話しかける。

「隊長さんは運がいい、まだ一発も魔法が飛んできませんね。ですが、どうします? まだやりますか?」

「な、なんなんだ、貴様は! き、貴様は1人ではないのか!」

「だから、さっきから言っているじゃないですか、俺は1人でここに来ている分けではないですよ。何遍言わせれば気が済むんですか?」

 そう言って不敵に笑うと

「撤収だ、一旦引く!全員500メートル後退!」

 そう隊長が叫ぶと、後ろにいた兵隊達は、傷を負った仲間を背負い一斉に引いていく。

「小僧、覚えていろよ!」

 と言って最後に残っていた隊長も引き上げる。

「追撃はしませんから、どうぞ」

 と言って手を振ると、隊長は心底悔しそうな表情で引き上げる。

「さて、第一幕は上手くいった。次だな」

 俺はそう呟き、第二幕が上がるのをここで待つことにしつつ準備を始める。

 

 

「よっ! 今度は騎馬隊の皆さんですか?ご苦労様です」

 と言って俺は馬上で丁寧にお辞儀をする。

「お前か!ふざけた小僧というのは、そこをどけ、どかねばひねり潰すぞ!」

「おやおや、今度は最初から随分な方ですね。ならばこうしましょう」

 俺はそう言って、持っていた相棒である棒を全力で一閃する。

 気を込めた棒の一閃は見事に街道の地面をえぐり長さ10メートルの線を残す。

 それを見た、騎馬隊の面々に一瞬の緊張が走る。

「いいですか? その線を越えたら戦闘開始です。覚悟をしてください」

 そう言いながら俺は馬首を巡らし、30メートルほど後ろに下がる。

 俺が下がる間、俺の技を見た兵隊達はざわつきながらも、騎馬隊長の指示を待つ。

 騎馬隊長は慎重な性格なのか、離れた俺に向かい問いかける。

「小僧! 何故こんなことをする!」

「何故って? あんたらこの先のフレイムの街を蹂躙するつもりなんだろ? そんなこと俺が・・させねぇよ」

「貴様、俺達は帝国軍だぞ! 分かっているのか!」

 そんな傲慢な物言いに俺はカチンと来きて、売り言葉に買い言葉で

「だから何だ? ごたくはいいから、掛かってくるのか? それとも引き返すかを選べ!」

 と言い放つと、複数の騎馬が「待て!」と言う隊長の静止を聞かずに線を超え、一直線に俺に向かってくる。

 俺は軽く、魔力を込めて符を発動する。

『プチプロージョン』

 呪文を唱え終わると同時に、向かってくる複数の騎馬の足元で一斉に小さな爆発が起こり騎兵ごと、もんどりを打って倒れこむ。

 落ちた騎兵はピクリとも動けず、横たわっている。

 その光景を見た、騎馬隊長を含む兵隊達は息を呑む。

 そんな兵隊達をあおるように大きな声で

「線を越えるとこうなる! さぁどうする? 引き返すか!それとも俺と一戦するか!」

 その声でビクつく者も何人かはいたようだが、

「全員かかれ!」

 隊長が号令をかけると一斉に騎兵隊達がこちらに向かって動き出す。

 その動きは俺の中では予想されていたものだったので、俺は慌てず馬首を巡らせ更に後退し、再度魔力を込めて符を発動する。

『エクスプロージョン』

 先ほどと同じ、いや先ほど以上の爆発が地面から連続で巻き起こり、俺を追ってきた騎馬隊の一群は、あっという間に壊滅する。

 しかし、その爆発の直後を3騎の騎馬が駆け抜け俺に向かって槍を突き出しながら突撃してくる。

 俺は先ほどの地面をえぐった技と同じように、棒に気を込めて、横薙ぎに一閃すると3騎の騎兵は同時に吹き飛ばされ落馬する。

 それを尻目に俺は再度、魔力を込めて符を発動する。

『プチプロージョン』

 突撃を躊躇ためらっている、残りの騎馬隊の眼前でまたもや小さな爆発が複数起こる。

 残った騎馬隊の兵達は「ヒィッ」と小さな声を漏らす。

 一瞬で部隊の半数近くを壊滅させられ、隊長は呆然と俺を見つめる。

 そんな隊長に俺は無造作に馬を向け近づき

「俺はここから100メートル下がる。その間に吹き飛んだ部下を回収しな。いいか、本隊に戻ってあんたの大将にこう伝えるんだ。『この先は行き止まりでした』ってな。1日だけここで待つ」

 そう伝えると騎馬隊長は少しだけ震えながら

「待つとは、な、何だ?」

「う~ん、分からないか? 今度は俺がお前達の本隊を攻めるって言っているんだよ」

「俺達? 達とは何だ! お前は1人ではないのか?」

「あれ~、さっきの歩兵隊にはそう伝えたけどな、俺は1人じゃないぞ。じゃなきゃ同時に複数の爆発プロージョンなんてありえないと思わないか?」

「ど、どこだ! どこにいる! 姿を見せんか卑怯者!」

「魔法使いがこんな近距離で姿なんか見せるわけないだろ?馬鹿なのか?あんたは」

「な、何故見えない!」

「そんなの分かっているんだろ? でも認めたくない……違うか?」

「あ、ありえない! 魔法使いがHideスキルを使うなんて! そのうえ魔法を発動しても姿を見せないなんて!」

「まぁ、どうやってHideしているかはご想像に任せるさ、それじゃあ俺は少しだけ引かせてもらう。ああ、この場で撃ちかかってくるならそれでもいいぞ、死体が1つ増えるだけだし、俺の伝言は別のやつに頼むから」

 そう言って後ろを見せるが、騎馬隊の隊長は撃ちかかってくる気力もなく、静かに仲間の兵隊を回収して引き上げて行った。

「さて、次は第三幕、これで終幕だな」

 と先ほどと同様に俺は呟き、相棒の豹娘の無事を祈る。

 

 


いかがでしょうか?前回の雰囲気はまったくありませんよね……


ちなみにHideスキルは穏行の一種で姿が見えなくなるものです。

スキル、魔法、マジックアイテムなどで可能なのですが、色々な制約などもあります。

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