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真美が弁当を手に慌ただしく友達達に向かうのを見つけた昼休み。
「まぁちゃん。今日は天気良いから外に行こう。」
俺も慌てて腕を捕まえた。真美は困った顔で俺を見たけど、また友達達に目を向けた。友達達は、にこやかに手を振ってくれた。
「まぁちゃん。行ってらっしゃい。」
「いつも一緒に食べてたのにごめんね。」
ありがとう。助かる。と気持ちを込めて言う俺。
「え〜。匠なんで〜。」
「一緒に食べようよ〜。」
他の声も聞こえたけど、相手にしていられない。かまわず真美の手を繋ぎ教室を出て中庭に向かう。
「ここで食うか。」
ベンチに並んで座ると、ため息をついて、弁当を開ける真美。
軽く凹む。けど、どうしても聞きたい。嫌われては無いはずだ。…多分。
ガサガサコンビニの袋に手を入れた。
「あれ?たっ…谷沢くんはコンビニ?」
谷沢くん…って、手元を見ると彩り綺麗なお弁当が目に入る。
「うん。今日はコンビニ。まぁちゃん。卵焼きちょうだい。」
パクリと食べた卵焼きは、俺好みの出汁の味。
「美味しい。」
「私が作ったの。美味しくて良かった。」
ほんわり笑うまぁちゃんにドキドキしてきた。やばい。
「ちょっと自販機行ってくる。食べてて。」
落ち着け。まずは落ち着くんだ、俺。
自販機に行くまで自分に言い聞かせる。
お茶を買い戻ろうとしたらミキが声をかけてきた。
「匠。」
まぁちゃんが気になり目線だけ向ける。
「なに?」
やばい。奴らだ。俺のまぁちゃんに近付くな。
「最近、忙しいの?」
「ん?別に。」
目線の先に回りこまれ、腕を組み引っ張られた。
「じゃあ週末どこか行こうよ。」
以前はこんな風にされても気にならなかったけれど、今はすごく嫌だ。
「悪いけど無理。」
あ。あいつら、まぁちゃんの弁当食うな。
「佐藤さんがそんなに気になる?最近、噂になってるし。」
その言葉にミキを見るとすがるような顔で見られていた。
前は、皆とよく一諸に遊んだ。見た目は派手だけど面倒見もよくて落ち着いた良い奴。
好意を向けてくれているのにも気が付いている。だからごまかさずに、ちゃんと伝える事にした。
「近くにいてほしいとても大事な子なんだ。だから無理。断ってばかりでごめん。」
気持ちには答えられないんだ。
「そう…。けど諦めないから。」
ミキはプイとどこかに行ったけれど、何だか疲れて自販機横のベンチに座り一気にお茶を飲んだ。
三人とにこにこお茶を飲み、まったりしている真美を見ていると肩に入っていた力が抜けていく。
立ち上がりゆっくり向かうと、それに奴らが気付いた。
「まぁちゃん。そろそろ行くね。またね。」
「ありがとう。今度も弁当がいい。」
「まぁちゃん。おかず美味しかった。ごちそうさま。」
「じゃあね〜。」と立ち去る三人に何か言う気にもならず黙って見送り、まぁちゃんの隣に座った。
驚いてる?俺、まぁちゃんの中で存在薄い?
「あの…先にお弁当食べちゃってごめんね?」
おずおずと言われた。
忘れられてたな…。
聞きたい事も聞けず、一緒に昼も食えれず慣れない事をして疲れた俺は、ムスッとパンを食べ続けた。