15
ツリーを見上げ首が痛くなった頃、いつの間にか広場には人もまばらになっていた。
隣で真美が無言のまま無表情でじっとツリーを見上げている。
いったい、昨日何があった。今日も絶対何か隠してる。
いつもの真美なら、綺麗ね、すごいねと笑顔を浮かべてるはずだ。それがツリーを見た時から無い。
体調も悪そうでもない。
気が付いた途端に悲しくなり真美を背中から抱きしめた。
どこかに行ってしまいそうな真美を引き止めたい。
「今日のデート出来て楽しかった?」
「楽しかったよ。本当にありがとう。」
前に回した腕に手をかけかれ、すぐにいつもの笑顔で答えられた。それでも俺の疑問は消えない。不安だけが増す。離したくない想いが強くなるだけ。
俺じゃあ、駄目なのか。それとも、他に好きな奴がいるのか…。けど、俺はまぁちゃんがいいんだ。
思いが募りこぼれた告白。
「まぁちゃん。好きだよ。」
「私もたっくん好き。本当に付き合いたいくらいよ。」
固い表情で手も声も震わせ答えられ俯く真美。
「まぁちゃん…。じゃあ、今からお試し期間も終わりで本当のお付き合い?」
「うん。いい?」
顔をあげ俺の顔を見るけど、口だけ笑って答えられた。
まぁちゃん。正直すぎ。無理がバレバレ。嫌なのか?ならなんでOKをそんなにしてまで出すんだ?
「そろそろ帰ろうか…。」
もう、いい。今、俺の方がこれ以上もう無理…。
腕をほどき声をかけ、広場を歩き始める。真美は後ろから着いて来ている。
とりあえず、付き合いを申し込んで了承はもらえた。どんな形であれ。
これでまた、今までみたいに付き合う理由になる。例え真美が嫌がっても強く出られる。
後ろを歩かれるなんて初めてだ。やっぱり側にいたくなり手を繋ぎたいけど、さっきの真美の様子だ。
拒否や振り払われたりされたら俺は、どうしたらいいんだ?
だめだ、俺。せっかく告白してOKもらっても全然嬉しくない。もういい。
これ以上してたら、まぁちゃんを責めてしまいそう。また告白でもいいや。後で考えよう。
それより、帰りに公園に寄って、何があって隠してるかきこう。昨日も今日もまぁちゃんは変だ。
その心配を先になんとかしないと。
まぁちゃんが辛そうだ。
「今日の映画よかったよね。」
バス停から楽しそうに話をする真美の話を聞きながら、駅に着くまでそんな事を考えながらバスに揺られていた。
駅から手も繋げず寂しくなりながら、公園に向かい歩いていた。
「公園よる?」
小首を傾げて迷う真美。おばさんの入院の前例もある。逃がすものか。
「せっかく普通に付き合えるのに、このままサヨナラは寂しい。少しだけ。何か飲もう。」
そう言って、通り道にある公園に連れて来た。
散歩道のある小さくはない公園。
自販機で飲み物を買い、暗い所は怖いだろうと思い街灯の明かりが届く薄暗い冷たいベンチを選んだ。
二人並んで座りカシュッと缶を開け飲みながら、なんて話を切り出そうか考える。
何かあった?と正面からは無理だった。けど、松山が見かけた情報しかない。帰りはどうだった?思い出せ…。
「ここで、オゥオゥお兄さん達、仲いいね〜。俺達寂しいのにさ〜。見せつけないでくれる?とか来たらどうする?」
は?
思いも寄らない問い掛けに思考が途切れ、知らず知らずに入っていた力が抜ける。
「俺、空手してたの知ってるよね?あれ黒帯で段まで行ったから多分大丈夫。まぁちゃんもいるし。」
前を見たまま、思考を取り戻そうとばかりに缶コーヒーに口をつけた。
「私は戦力外だよ。よく、うちの兄やんと匠のお兄さんと三人で習いに行ってたよね。」
コーヒーを吹き出しそうになった。
「違う。まぁちゃんなんて、出来たとしても俺に猫にゃんパンチじゃん。あてにしてない。まぁちゃんを守る為に俺も頑張れるって事。」
「いや、たっくんなら後ろから背中くらい蹴れると思う。」
「まぁちゃん、ちびっこいから足が届かないと思う。」
そこから聞こうとしていた話も出せず、いつかのように盛り上がり楽しく昔の話が始まった。大笑いも出来てスッキリした。
ちらりと時計を見るまぁちゃん。もう終わりかと寂しくなる。
聞けず仕舞いで終わるのは嫌なので、最後に聞こうと深呼吸した。
「さてと。帰りますか。これで賭けも大丈夫だよね。」
はぁ?なんだそれ。