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昨日の帰り、松山の言ったとおりボンヤリした真美。
話しかけると返事はくる。けれど、俺の顔をボンヤリしたり、泣きそうな顔で見上げて俯いてまた考えこむ。
教室で何があったか聞いたけど、緊張して。とごまかしの答えだ。とても、そんな風には見えない。
もうすぐ家に着いてしまう。
繋いだ手にギュッと力を込めて、俺は小さな真美をじっと見つめた。
「まぁちゃん、話して欲しい。何があった?」
「明日どうしようかって考えてただけ。
たっくん。ありがとう。気をつけて帰ってね。」
困り顔で言われてしまった。
繋いだ手を離して、門を開けてドアの中に消えた真美。
その時、このまま、まぁちゃんが俺の前から居なくなってしまうような気がしてならなかった。
デートの朝が来た。
昨日の真美の様子が気になりながら、真美の家の前で待つ事にした。
着いてすぐに、真美の家のドアが開き真美が出てきた。
門を閉めコツコツと靴音をたてながら俺の前に立つ。
「おはよう?」
ドアを出てきた所から見惚れてしまっていた。
やっぱり、まぁちゃん。可愛い…。
ふわふわとした髪に、じっと俺を見上げ続ける目がいつもよりクッキリ綺麗だ。テカテカベタベタじゃなくてプルンとした柔らかそうな唇。
胸元を覗きこめと誘う見えそで見えない微妙な開きのニット。制服のスカートは長めなのに、俺の大好きなミニ。
はいているブーツの踵が高いから、いつもより顔の距離までもが近くて余計にドキドキする。
今すぐ家に連れて帰って、まったりラブラブデートしたい。
だめだ俺。そんな正直に言ったらまぁちゃんがどう思うか…。
「なんかびっくりした。いつもと全然違う。可愛い。」
途端にパアッと満点笑顔になる真美。
よしっ。なんとかクリア。俺、かっこいい!
素直な感想ができた自分を褒めた。
「いつも家でジーンズにトレーナーとかだもんね。服とか桜ちゃんが選んでくれたの。」
俺の為にそうまでして装ってくれたかと思うと自然に顔がにやけてしまう。
けど、真美が腕を組んできた。
「え?」
「行こう。」
にっこり笑う今日の真美は、今までや昨日の帰りと全く違う。
突然の行動に驚く俺の腕を引き歩き始める真美。
まぁちゃん。やっぱり何かあった?
駅前のファーストフードで昼を済ませた。
これから何の映画を見るか、あとはどうするかワクワクする事を話た。真美も普通より笑って楽しそうで俺まで嬉しくなる。
駅でバスに乗りショッピングモールの中にある映画館に着くと、予定の映画はもう始まっていた。
真美は残念そうにしていたけど、一緒にいられて遊べる事が楽しい俺は全く気にならなかった。
せっかくだからと、少し遅くはなるけど次の上映時間を待つ事にする。時間もあるので、ショッピングモールを手を繋ぎブラブラ歩いてた。
「たっくん。あそこ見てきていい?」
雑貨が見たいと真美がいうので、俺は何か飲んで待ってる事にした。
まぁちゃんが楽しそうに雑貨を手に取るのを眺めてた時
「匠じゃない!きゃあ。偶然。」
声と共に腕に何かが巻き付いた。驚いて見るとミキと友達がいた。
すぐに真美に視線を動かすと気が付いてこちらを見てる。
なんでよりによって今日なんだ…。
「やめてくれない?」
「やだ。匠こわい。何してるの?」
やっと、まぁちゃんとデート出来て楽しく遊べてるんだ。
大事な日なんだ。邪魔しないでくれ。
嬉しそうに笑顔を浮かべている二人に、苛立ってくる。
「匠。お待たせ。」
声に思わず振り向いた。そこには固い表情の真美。
匠…?
初めて呼んでくれた。ミキ達に付き合ってると思わせたい?だとしても、何の為?
何かおかしい。今朝からの違和感が増した。
「悪いけど、もう行くから。せっかくのデートの邪魔しないでくれ。」
真美の前だ。ひどくなる苛立ちを抑えつけ、腕を軽く払いのけ真美の隣に行く。
「なんで?」
「俺が付き合ってる子だから。じゃあ、また学校で。」
ミキに聞かれ真美に倣って答える。
学校で俺の気持ちは言ってある。まだ、わからないだろうか。ミキは友達としか見られない。
見せ付けるように真美と手を繋ぎその場を離れた。
下を向く真美の手を引いて歩く俺。
嫌だよな。デートにあんなの。俺が好きなら。
俯いてるって事は、少しは気にしてくれてるのか?
「ごめんね。まぁちゃん。」
「なにが?全然大丈夫。たっくん、もてるね。」
軽く笑顔で返され、俺は大きく凹んだ。
微妙な空気のまま着いた映画館。
上映が始まり隣の真美は食い入るようにスクリーンを見ている。途中、涙も流す。映画のエンドロールまで座ったまま見終わり、満足そうな真美を見てると自然と笑みが浮かんできた。
外にでるとブルッと寒い。冬の夕暮れ時は過ぎてもう暗い。
広場に大きなツリーが飾り立てられて点灯している。
「すごく大きいな。」
ツリー見上げる。ツリーがあるからクリスマスも近い。年末年始もある。何だかワクワクする俺の好きな時期だ。
これからのイベントを真美と過ごせるかもしれないと思うととても楽しみになった。