12
放課後、真美の荷物を持ち昼休みに絡んだ三人にキッチリ話をしてやった。顔が青くなっていたが知るか。
そのまま保健室に向かうと、ベッドにはスヤスヤと眠る真美。あまりにも気持ち良さそうなので、起こすのが申し訳なってくる。
無防備なその姿に少しドキドキながら、そっと真美の頬にかかる髪をよけて唇を指で撫でる。身動き一つしない。
じっと見ていたら、他にも色々としたくなってきたので仕方なく声をかける。
「まぁちゃん。」
起きない。けど、これ以上は触れたらいけない気がする。
「まぁちゃん。起きよう。」
「…ん〜?」とか言いながら、やっと薄く目を開けてくれた。可愛いい…。
「…ちゃんと起きてる。」
あぁ…寝ぼけている。ここが保健室で良かった。家なら絶対俺が危ない。
「いや。寝てたし。もう下校時間。」
「…なんでここに?」
少し掠れた寝起きの声に、ぼぅと寝ぼけている姿は無敵に見えた。これ以上は勝てそうにない。無理だ。
目覚めてくれるように、伝わるようにゆっくりと言う。
「5時間目の休憩に見つけたけど、よく寝てたから。帰ろう。」
返事もない。目は開いているけれど、さっきよりぼんやりしている姿に悪戯心が湧いてくる。ベッドを軋ませ背中に触れながら後ろに手をつき隣に座る。さりげなく必要以上に身体を近付け手を伸ばし額に当てる。
「熱はないね。」
…反応も無いね。
わざと軽く力を入れて真美の肩に手を乗せ、耳元に触れそうなくらい顔を寄せ低く言う。
「おはようのチュウしなきゃ目が覚めない?」
やっと真美の顔が動き目が合った。すぐにも触れてしまいそうな距離で。
「起きます!帰ります!」
ハッキリと言い切った真美は、それから別人だった。赤い顔で素早くベッドから降り、あっとゆう間に保健室を出ようとしている。そんな後ろを二人分の荷物を持ち着いて行きながら、起きて良かった様な残念な様な気持ちになった。
その帰り道。
寝ぼけた姿を思い出し真美をからかい笑いながら、指を絡ませギュッと繋ぐ。
昼休みに戻らないから、桜ちゃんがメールをしたら鞄の中から着信音がした事。
保健室に居る事だけは、5時間目に少し遅れて来た青井が真美を見かけて教えてくれたと話した。
「痛む所ない?何があったか、ちゃんと話せよ。」
青井が覗いた時、押されてこけていたらしい。色々と心配になり聞く。
「何もないよ。お腹痛くなっただけ。もう治ったよ。それより谷沢さま。そこのコンビニでノートコピーさせて下さい。」
コンビニを見ながら指さし、何事も無かったかのように嘘をつかれた。
何故話してくれない。頼り無いか?
もとは俺が原因で絡まれた。まぁちゃんに絡まず俺に直に言えばいいだけなのに…。
だんだん自分に腹が立ち、色々な事にいらついてきながらコンビニに向かった。
それからは穏やかな毎日。
まぁちゃんからは、相変わらずあまり近付いてこない。けれど観察していた時のように、やんわりとよく笑っていた。
登下校も都合が悪くない限り一緒にして、弁当もたまに一緒に食べた。たまになのに青井、柳、松山の三人組が邪魔をしによく来る。そして当たり前にまぁちゃんのオカズを食う。俺が取る前に…。なんて羨ましい奴ら。いつの間にかまぁちゃんの弁当のオカズが増えている。
あいつらは、いつか絶対に蹴り飛ばすと心に決めた。
入院の事を話してくれた翌朝。母さんにその事を話した。険しい顔の母さんは、いつの間にか電話していて一度真美が夕食を食べにきた。おばさんも、話しを聞いてから一週間後くらいに退院した。
俺は、まぁちゃんが夜の家に一人で大丈夫か心配で入院を知った日から退院までの毎晩、家に電話をかけた。出るのはまぁちゃんだから気楽にかけれた。
本当は家に行き、そばにいたかったけど我慢できた俺は偉い。
おばさんが、退院してから家の電話にかけにくくなった。今だに浮かれて、携帯番号を聞けてない俺って何してんだろ…。
結局、まぁちゃんと繋がり話しがしたい願望に負け何回も電話かけた。
そんな毎日を過ごすうちに、お試し期間も残り少なくなっていた。
まぁちゃんの靴に手紙を入れたあの日より確実に俺の中でまぁちゃんとの距離は縮まり、好きな気持ちも大きくなり、今更離れるなんて考えられない。まぁちゃんも俺に慣れてくれた感じがする。
元より、お試し期間のチャンスから本当の付き合いになるように持っていく以外、俺は考えてはいない。強気に言えばだけど…。
このまま、ご近所のまぁちゃんを見ていただけの時のようには戻りたくない。まぁちゃんは、少しは俺を意識してくれているはずだ。もしかしたら好意も…。多分。弱気になるのは、とても簡単だった。
そんな帰り道。
「まぁちゃん。この土曜にデートしよう。」
「は?」
「おばさんも元気になったし。どこがいい?」
俺には、登下校も短いデートのような物だけど、やっぱり休日デートもしたい。
前半から、おばさんの入院があり誘うのは遠慮していた。
やっと誘っても大丈夫な気がしてきて嬉しくなっていた。
待ちに待ったデート。その日はお試し期間最終日。俺はやるぜ!
「映画でも見る?」
「そうだね。」
約束は出来たものの浮かない顔の真美がとても気になった。