○危機(6)
しばらくして魔王が静かなことに気がついた。
気が伏せっていた俺も徐々に回復。
・・・さっきまであんなに騒いでいたのにどうしたんだ?
腕の力を弱めて顔を覗き込んでみると涙目になりながらも決して流さないという意志を持った目とぶつかる。
「・・・もっと・・・ちかくで」
・・・やばい。
これ以上は俺自身も止められない。
俺が倒せなくても魔王が俺を倒すときはくるかもしれない。
けど今、この時だけは・・・
ドタドタッガチャン!ドンドンガタ!
・・・嬉しいような恨めしいような邪魔者、もとい天の助けがきた。
「おい!フェイル!無事か!?」
「いたら開けなさい!だめなら強行突破するわよ!」
名残惜しいが魔王を解放してやる。
魔王から感じた体温がどんどん無くなっていくのが少し・・・結構寂しい。
そして魔王は去っていった。消えて行ったとも言うが。
捨て台詞を残し。
――次こそは、勝つからね
――だから、その時ちゃんと戦ってよね!
気のせいか声が沈んでいたような気がする。
次に発した声も空元気というやつだった。
・・・俺なにかしちまったかな?
考えてる間に魔王が行ってしまって声をかけることすら出来なかった。
「まったく鍵なんか閉めて!どういうつもりよ!」
「・・・あ、あぁ、閉めたんだっけ?」
「とぼけるなっ!真面目に聞け!」
魔王が消えると同時になだれ込んできたのは義妹のフィアナと大柄なベルガの二人だけ。
子供なレイシューは昼寝、無感心なリッツェルは我関与せずだろう。
どうやら微かな魔の気配と俺の部屋から聞こえてしまった女の声で魔王とばれてしまったらしい。
「あーぁ、ドア破壊してどうすんだよ。後でめんどくさいことになるじゃねぇか」
「黙れッ!どうしたんだ、最近のお前はおかしいぞっ!やけに一人になりたがるし、上の空になったり考え込むことが多いし、おまけにものぐさに磨きがかかっちまった」
そんなには不審な行動をとったつもりはないのだが、真面目で堅い彼が言うからには変だったんだろう。
それからたっぷり2時間くらい説教された。
その間俺はずっとだんまり。
ベルガの言うことはもっともで反論することはなかったし、だからといって俺は魔王とのことを話そうとは思わない。
「言え!魔王と何があった!」
「・・・」
俺は話を聞き流しながら外を見ると空が橙色に染まっていた。
彼女は今何やってるんだろうなぁ・・・。
ちなみに彼女が今、厄介事に首を突っ込んでいることは彼にわかるはずもない。
「おいっ!話を・・・」
「・・・ねぇ、フェイル」
と、今まで黙っていたフィアナが口を開いた。
・・・なんだかすごく嫌な予感がする。
「これは私の推測にすぎない。だから聞く。前々からずっと、思っていたことがあるの」
ベルガが傍にいて、怪訝な顔をしていることを承知の上で彼女は話そうとしている。
そしてそれが何なのかも俺はわかっている。
・・・やめてくれよ。
どうする。話す前に止めるのはあまりにも不自然でベルガになにかしらばれてしまうおそれがある。
かといってフィアナに話されてしまえば、そしてその内容をベルガに聞かれてしまっては、駄目だ。
しらばっくれればいいだけなのかもしれないがそんなことをしてしまえば、今までの不審な俺の言動からフィアナは自身の考えに確信を、ベルガは合点がいき怒り狂うだろう。
何か、何か・・・。
そう考えても時は無情にも待ってはくれない。
「あなたもしかして魔王のことが」
ドオオォォォーーーーン!!……
何の予兆も無しに起こった外からの爆音が部屋中に響いた。