○勇者の葛藤(5)
俺は前々から聞きたいことがあった。
「なんで勇者様?」
彼女の名前を聞くという問題もあったが、とりあえずこっちを先に。
俺は普通に魔王と呼ぶが今彼女は明らかに勇者”様”と言った。
・・・なんで?
「秘密っ」
・・・お前はどこまで可愛ければ気が済むんだ。
なんだ、ふてくされる様に言いやがって。
可愛すぎるのだが口にも態度にも出せない自分が憎たらしい。
・・・ちくしょうっ!
「ふ~ん。まぁいいや聞くのめんどいし」
魔王が明らかに落胆した。俺だってしたいさ。
悔し紛れに髪以外も触ってみた。
白い肌は思ったとおり柔らかく、彼女の身体はいとも簡単に折れてしまいそうなほどだった。
ここで結論。
俺にはこいつは倒せない。
たとえ彼女が本気で俺にかかって来たとしても
仲間たちが倒せと言っても
彼女と世界を天秤にかけても
俺は魔王を傷つけられない。
彼女が襲い掛かってきても俺は避けるだけ
怒られるかもしれないけど
フィアナやベルガやレイシューや(こいつはそんなこと言わないな)リッツェルとかに命令されても剣は向けない
怨まれるかもしれないけど
天秤にかけたとしても俺は絶対に彼女を倒すことなんて出来ないんだ。
・・・どうすりゃいんだよ。
なんで俺は勇者なんだよっ。
なんで彼女が魔王なんだよっ。
こんな、こんな頭触るだけで嬉しがるようなやつ倒せるわけねえよっ!
・・・・・・、・・・だが、倒さなくてもいい方法がある。
簡単な話だ。先に『珠』を奪っちまえばいいだけ。
こうすれば魔の者達以外は全員万々歳になる。
なるのだがこれには不安要素がいくつかある。
もしも『紅心の珠』を盗れば、その後どうなるんだ?
魔王や魔の者達の結末に対してはどの研究者にも想定できないことらしい。
『紅心の珠』を手に入れても人間たちの平穏はあるのか?
魔力を失った魔の者達の力なき復讐はあるのか?
そもそも魔力無しで魔の者達は生存できるのか?
・・・魔王は、消えてしまうのか?
シリアス多めになってしまいました