表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/36

     ■準備(5)




「・・・依琉、今、なんて」

「だからあと半月ほどで勇者が来るから。で、そのまた半月後にはパーティ開くから。魔王は勇者と一緒にレッツ、ダンシン!だよ?」



もちろんダンシングといえるほどの動きじゃないんだけどね。











いつもの時間のいつもの部屋にいた魔王。

誰かを呼ぶわけにも行かないので仕方なく私がお茶と手作りのクッキーを用意した。もちろん最初の一口は絶対吏一くんに食べてもらうんだと決めているので、もうすでに数個はあげに行った。


なのに魔王ってば失礼なのよね。せっかく作ってあげたのに一口食べた途端に顔をしかめて、いらないっていうの。

しかも、味見した?なんて聞くから私も心配になって食べてみたけど何の変哲もないいつも通りの味。

あげくの果てにこんなにもおいしいお菓子を食べる私をみて「依琉って味音痴だったんだ・・・」なんて随分と失礼な口だこと!

確かに独特な味かもしれないけど、そこがいいのに。

吏一くんはいっつも何も言わずにたったの数枚をゆっくりゆっくりゆっくり長時間をかけて食べてくれるのよ?

きっと味わって食べてくれてるんだ。吏一くん大好き!

それに比べて!魔王のほうが味音痴なんじゃないの?



まあ恋人自慢もそこそこに私たちはいつものようにガールズトークしてたんだけど、途中で私は今思い出したのを装ってさりげなく本題を引き出した。



「あ、私明日からは忙しくなるから会いに行けない。ようこそおいでくださいました、勇者歓迎パーティー!をこの城でやるから、その準備で」

「へぇー。勇者様の、パーティーかぁ…。あの舞踏会みたいなのやるの?きっとカッコイイんだろうなぁ〜!私見たら倒れちゃうかも・・・でもみたい!・・・うん、行きたい。でもこっそり見るのもなぁ・・・」

「なんか人ごとみたいに言ってるけど、魔王は強制参加だよ」

「・・・・・・・・・・・・ぇ、」



魔王の動きが止まった。

で、冒頭の会話に戻る、と。



私が回想している間も魔王は変わらず、ずっとぽかん状態。

目は大きく見開いたまま、口は小さく開いたままだし、手にした紅茶は揺れる様子すらない。

でもさすがに長くない?

暗くなっても困るから出来るだけ陽気に話したんだけど、もちろん魔王には効果無し。

私おもいっきしすべったんだけど。



「もうずいぶん前から計画してたことなんだってさ!もう、吏一くんのバカ!」

「・・・・・・」



ひとしきりぽっかーん、としていた魔王はようやく我にかえると今まさに飲もうとしていたティーカップを音をたてながら戻していきなり大否定してきた。

ちょっ、そのカップは吏一くんからのプレゼントなんだから大切に使ってよ!



「な、なんでっ!!?私関係ないもん!そ、それ以前に私、魔王だよ?人間に疎まれてるんだよ!?」

「魔王のために私が出会いを作ってあげたんだよ。だから楽しめ!そして勇者と踊っちゃえ!」

「ムッーーームムムムムムムリムリムリッ!!ダンスなんて出来ないしやったことない!人の足確実に踏むズカズカ踏んじゃうボロボロにする!パ、パーティがめちゃくちゃになっちゃうぅぅっっ!!!!」

「大丈夫、私も出来なかったから。それに安心して」



私は魔王を安心させるべく、いな逃がさないように両肩をがっしり掴んで言ってあげた。

力が強すぎて魔王は痛そうだけど気にしない。気にして緩んだら絶対逃げられる。




「・・・私の場合、1週間でマスター出来たから。だから魔王もあの地獄をまた一緒に味わえば絶対できる!・・・がんばれ、ね?」




―――魔王の悲鳴が外にもれなくて良かった。









*********









「ほら、一緒にドレス選んであげるから」

「うぅ・・・つ、疲れた・・・ぁ・・・」




なんとか基本のダンスは今日一日で頭に叩き込ませた・・・・・・と思う。先生なしに私だけだとかなり不十分で不安なんだけど、これは仕方がないか。後は宿題の紙を渡しておいたので自分で練習してもらうしかない。

私だっていろいろと忙しいんだもの!



夕方になった今は当日着る服の下見。ちなみにドレス選びには吏一くんもいてくれるよ。

早めに仕事を切り上げてくれたのも宿敵の魔王と一緒にいてくれるのも、すべては私のため。

もう・・・!吏一くんたら・・・!!

どれだけ私のこと好きなのよ!私も大好きなんだからね!?キャッ!


部屋にはずらりと可愛らしいものからセクシーなもの、地味なドレスが有り余るほどにたくさん並んでいる。

・・・実はこれ、全部私のドレスです。私としてはこんなにいらないんだけどどれだけ断っても吏一くんが用意しちゃうから、もうあきらめた。

中には一度も着ていないやつだってあるくらい。



「・・・・・・ド、ドレス!」



あの幻の・・・!とか言いそうな顔でごくりと唾を飲む魔王。目をきらきらさせながらひとつひとつ丁寧に見ていった。

・・・昔の私にそっくり。

違うところは早く憧れだったドレスを着たくて先生にせっついて騒いでいて、挙句の果てに持ちながら走ってたら裾踏んで転んで汚して破いちゃったところかな。

あの時は子ども特有の夢を自分で壊しちゃった気がして大泣きしたっけなぁ・・・。ドレスが、ドレスぅ・・・!って叫んでまた先生を困らせてたっけ。吏一くんが頭をなでてくれたから数分で泣き止んだけどね。



「で、でもダメ!私が着たらそのドレスが可哀相だよ!絶対にすべって転んでビリッッビリッ!に破くに違いないんだから!!」



・・・本当に私そっくりだなぁ。そして昔の魔王だったら絶対にやるに違いない。

慰め役が勇者ならいいのにね。


そう思ったときにふと、私はある仮説を思いついた。たぶん、間違ってはいないはず。

・・・そういえば魔王はこのファグアラネルに来てからは不幸があまり訪れていないって言ってたっけ。

どうしよう、魔王に聞いてみようかな?



「・・・・・・・・・」



うん、やめておこう!

こうもじぃ・・・っと監視もとい見つめられてたら話しかけられない。

これがきっかけで閉じ込められたくないしね!

二人っきりで甘い眼差しだったら私もどきどきできるのになぁ・・・。



じゃあそれなら吏一くんに私の話を聞いてもらおうっと。魔王に話しかけるのがダメでも吏一くんならいいよね?魔王と話すわけじゃないんだし、許されるはずだよ!

ちょうど魔王が遠くのドレスを壊さないように慎重に触っている間に私はずっと私を見てくれている素敵な恋人の隣に並んだ。



「依琉・・・」



吏一くんが私の肩を抱き寄せてくれた。今この場には魔王がいるから私たち三人しかこの部屋にはいないけど、他の人が見たら幸せカップルに見えることだろう。

けど、そんなことよりも私の話を聞いてほしい。

ムードは好きよ。ロマンチックな雰囲気も好き。いつも忙しいかららぶらぶもしたい。

でも、今だけはそんなのいらないのよっ!



「吏一くん、魔王のことなんだけどね・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あのね、私思ったんだけどさ。魔王が地球でダメダメだったのって『紅心の珠』を宿していたからじゃないかな?こっちと向こう、ましてや魔の者にとっては時間なんて流れ方が違うらしいし・・・。地球は魔力を出せる環境じゃないから無意識的に抑えてたけど・・・それが零れでて、それが、魔王自身・・・に・・・」

「・・・・・・」



・・・り、吏一くん、肩痛い。



「依琉、約束覚えてるか」



覚えてますよ。忘れていませんとも。

私の今後がかかっているものね。



「・・・それ以上あいつのことを考えたら、俺は今すぐにあいつを殺してお前を誰も来られないところでかん」

「ごめんなさいっっ!!!」



吏一くんの目は本気だった。

たとえ難しいことでも吏一くんは絶対に実行する、そんな目をしていた。

・・・私は吏一くんを甘く見すぎていた。




一番に食べてもらう=味見は一切しない。そして吏一は美味しいなんて一言も言ってない。


意外と長くなってしまい、切りも悪いので二つに分けます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ