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     ■計画(4)




「・・・ねぇ、吏一くん。魔王を帰してあげ」

「だめだ」



言い切る前に、言い返された。

・・・普段喋らないのにこう言うときだけ断言するんだから。








吏一りいちくんが机の上で山積みにされた書類に目を通しながら答えたズバッとした返事に、私は唸った。

彼がこう強く言ったら私がどんなにお願いしても絶対に無理なことは、とっくの昔に知っている。

でも、それでも私は一応の抗議くらいはしてみる。



「私と吏一くんはこのお城に呼ばれたんだから、逆も出来る。なのに、何でダメなの?いくら魔王でも地球で魔力は使えないだろうし、帰したって大丈夫だと・・・」

「帰したって無駄だ。魔の者達はまたあいつを呼び戻す」

「それは・・・」



完全には否定できない。

あの魔王は私たちと同じ地球から呼び出されたのだ。

彼の言うとおり再び戻される可能性がある。




「でも、やって見ることにはきっと意味はあるよ!」

「・・・・・・それによって魔王を返還させたこの国に怒り狂った魔の者たちが攻め込んだとしても、意味はあるんだな」




・・・なんか今日の吏一くんはかなりねちねちしてる気がするんだけど。

そこまで私を追い詰めて楽しい!?吏一くんの陰険ーっ!


いや、吏一くんが言っていることは全部正論なんだけどね。

でも今回のはやけに嫌味っぽく聞こえるなぁ・・・。




「・・・もしかして吏一くん、私が魔王と交流してること、まだ怒ってる?」

「・・・・・・・・・」




…今度は無反応、なのね。

これは完璧怒ってる・・・・・・というより拗ねてるのかな?



「・・・魔王がお前を傷つけないとは限らない」

「そんなことしないよ!」

「・・・たとえ依琉の髪を一線でも傷つけたら、俺は殺す気でかかるが」

「・・・・・・」




ごめんなさい、このだんまりは怒ってるんじゃないの。

呆れているわけでも、怖がっているわけでもない。







悶えを抑えるのに必至で声がでないだけなの!





あぁ、ダメ!緩んだら叫びながら吏一くんに抱き着いちゃいそう!

お仕事中なんだから邪魔しちゃいけない!あぁ、でも身体が震えるー!


幸い吏一くんは書類に長々しく何かを書いているから私の様子には気付いていない。

…私の反応を知ってて、あえて見てないのかもしれないけど。


吏一くん、か、可愛いぃ!

普通の人から見たら無表情に見えるだろうけど、幼なじみで恋人の私にはわかるの。

言った後に恥ずかしかったのか微妙に頬はむくれてて、拗ねてるのがまるわかり。

普段無表情だからこそ、このギャップが可愛すぎる!吏一くんの見た目から可愛いは似合わないんだけど、でも可愛いの!!


しかもその言葉は私を案じてくれているんだから、喜ばずにはいられない。

吏一くん、一生大好きーっ!













−−−−−−−−−−−−−−−はっ!

違う違う!これで話は終わりじゃないよ!

本題を話さないと!




「ねえ、吏一くん。ちょこ〜っとお願いが・・・その、魔王絡みで」

「・・・・・・・・・っ・・・」

「??今何かいった?」

「なにも」




本当?なんか、また魔王かよ、みたいな言葉が聞こえたような・・・。

ううん、そんなことあるはずないか!

だって吏一君はすっごく優しいし、私でさえまだそんな言葉を聞いたことないし。




「ベタが迎えに行ってからだいぶたつけど、そろそろ勇者が来る頃合いだよね?忙しいのはわかっているけ」

「二人きりでの話なんて許さない」



だから、なんでまた私の話を遮るかなー!?

吏一君という大好きな恋人がいるのにそんなことするわけないでしょ!?




「違うよ!魔王と勇者の二人だけで話し合いの時間をこっそり内緒でつくってほしいって言ってるの!秘密裏のお茶会とか、パーティーの裏側とかで!」




分からず屋のはやとちり王に私は偉そうにも机を叩きながら叫んだ。

もともと私は言いたいことを言わないとすっきりしないし、まどろっこしいことが嫌いなんだから!

吏一君も知ってるくせに!わざとだ、わざと!



「・・・・・・・・・」



しかも吏一君は私が怒るのをわかってて、あえてそのあとは放置するんだもん!




「・・・・・・うぅっ、う~・・・」




・・・で、それを見た私は無駄に使った怒りが風船みたいに飛んでいき、落ち着くんだ。

勝手に怒って、吏一くんは冷静で、これまた勝手なことに私の力は抜けていく。

これは飽きもせずに毎回続く、というか習慣づけられている。


私は吏一くんが書き終えた書類に頭を乗せた。

もう、ガクーッって感じに。

おでこにつく染みなんて知るもんか!




「・・・敵対する二人を自国で一緒に出来るわけがないだろう」

「・・・・・・ですよねぇ~・・・」




よくよく考えたらそもそもパーティーの裏ならともかく、お茶会に二人を招待したら、何人かの人が目撃することになりうるから絶対にダメだよね・・・。

なぜならお茶会をセッティングする、ということは発案者である私か吏一君は必ず出ることになるだろう。

それはつまり王、または次期王妃と勇者が揃うのだから、当然給仕する人がつくことになる。万が一魔王を呼ぶなんてばれたら大変な騒ぎになり王や国の沽券に関わることになってしまう。


たとえ人払いをした後に魔王を呼び、私たちは二人きりにするためはけたとしよう。

その場合、例えば入口の外にメイドさん方を追い払ったとして、私たちが出て来ちゃったら「勇者様を置いて、王族方はお戻りになる。つまりお開きになったのね。お片付けしなくては」となり、計画が大変なことになる。

そしてそれを引き止めるのも逆に変だし・・・。



やっぱ『二人きり!一気にらぶらぶ、いつかはダブルデート作戦!?』は無謀だったのかな?

でも魔王にはああ言っちゃったし・・・。




「・・・でも、せめてパーティーくらいはなー・・・」

「・・・別に、それについては抗議をしてはいないが?」

「・・・・・・?え、・・・い、いい、いいの?パーティーの最中に、いいの!?」

「・・・別にそれくらいならいいだろう。お前が誰かと二人にならなければ」

「パーティーってあれだよ!?キラキラした広く大きいところで綺麗な女の人やかっこいい男の人がたくさんのおいしいものを食べながら音楽聞いてクルクル踊ったりお喋りしたりする、アレだよ!?あの、あの裏で、二人の逢い引きを許してくれるの!?」

「・・・くどい」




うそ!?

お茶会が無理だからこれもダメだしだとばかり思ってたのに!

私は汚れた顔のまま吏一君に抱き着こうとしたけど、吏一くんが条件を言い出したからなくなく抑えた。



「・・・だが、依琉がもうそれ以上二人に関わらないのなら、俺は裏のことは黙認する。そして勇者を連れ出すときには二人きりではなく誰かもいること。・・・この二つが破られたときは」

「その時は?」



「・・・一生城の外に出さないし、他のやつにも会わ」

「絶対守りますっ!!」




記憶に刻み付けときますっ!

失敗したら大変なことになる!はいっ!今覚えたよ!!

・・・久しぶりに吏一くんが怖くみえた。

吏一くんって照れたときが一番可愛いけど、脅すときは一番怖い。

思わず敬礼しちゃったけど、敬礼なんて小さい頃にテレビでみて真似した以来だなぁ。



あ〜!でもよかったぁ!これでなんとか魔王に顔向けできる!

よーしっ!!パーティーでなんとしてもあの二人を・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?




「ねぇ、そういえばそういうのってかなり時間がかかるんじゃなかったっけ?よくわからないけど準備とか書類とか招待とか、少なくとも数日間はいろいろと・・・」

「・・・もうだいたいは完了している。後はこの書類の山と依琉のドレスのことしかない。依琉は会場に行かせないように仕向けていた。・・・そもそもこれはだいぶ前から予定してたことだ」

「へ?」

「勇者を国に招くんだ。・・・祝わないほうがおかしい」

「・・・えっ、じゃあなんで私はそれを知らないの?」


しかも私に見せないようにするなんて。


「・・・・・・」



働く手が止まり長い沈黙のあと、彼はつぶやくように言った。







「・・・・・・・・・、知るとうるさいから、黙った」






・・・私は綺麗で誰よりもかっこいい大好きな顔を叩いてやった。





依琉、たぶんそんな作戦が決行する日なんて来ない。

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