○アスフォン国2(3)
フェイル視点ですが、途中でほんの少しだけキーダ視点が挟みます。(本当に少し…)
「…というかそもそも、人間とドラゴンの間に子供なんてできるの?」
ベルガと同じセリフになるのは嫌だがあえて言おう。……そんな馬鹿なっ!
動物同士ならわかる。現にベタはヤットとラータから産まれているからな。
だが人間相手にドラゴンは…。
「一応出来ることには出来るんですよ〜。ドラゴンの血は濃いので何千年たっても血が消えることはなく、その伴侶もみな人間なので、王は人間にもドラゴンにも姿を変えられますしね〜。………ドラゴンの王はですねぇ、子供が一人だけって決まってるんですよ〜」
「じゃあ、世継ぎも一人だけ…?」
「…ドラゴンの子作りの最低条件は、"愛"なんですよ〜」
「…………あ、い?」
……夢とか希望みたいな幻想的なことを言われた気分だ。
「ようは心から愛し合った人でないと子供が出来ないんです〜。だからぁ、たとえ第三者が無理矢理王に夜ばいしにきても子供は絶対にできません〜。……むしろ大変なことになります〜……相手がぁ」
「愛ごときでそんなに障害が?それに大変とは……」
「…それはぁ、人間とドラゴンの交尾はとってもとっても難しく、無理矢理交尾をすると人間の身体が耐え切れなくなって先に死んでしまうんです〜。ですのでいつまでたっても子が出来ません〜」
「そんな…。だが今、王の血は……」
「はい〜。ですが心から愛する者ならば話は違います〜。愛があると王は交尾のさいに無意識にとても慎重になり人間の命は助かりますね〜。ですがこれは最高で二回だけと立証されていて、これ以上は人間は死んでしまいます〜。ですのでできれば子は一人だけにしたいんでよ〜」
好きな人に触れるときに、自然と触れ方や表情が変わるのと同じようなものか?
……俺も魔王相手にそうなっているのだろうか。もししているのならそれこそ無意識というやつか。
……もし王が、運命の相手に出会えなかったときは…。
……これは俺の勝手な憶測なんだが、それはないような気がする。
魔王と勇者の争いが何千年と続いてるのと同様に、何千年も前のドラゴンの代は今も受け継がれている。
歴代の王全てが出会っているのだから、彼らはこれからもそうなるような気がするのだ。
「混血ドラゴンはかなりデリケートなんです〜。ですので国でさとても貴重にされてますよ〜。それにリイチ王の政治は国にはとても良いことばかりなので、逆らったりイル様に害をなしたりする者は人っ子一人いません〜!」
だがもし外部の良からぬ者が二人を狙って来たとしたらどうするつもりだ。
「……それは、企業秘密なのです〜」
その変な間と企業は?
………これ以上聞くのはいけない気がした。
夜になったので野宿をすることになり各々が準備をしているとき、一人サボって本を読んでいたリッツェルはふと興味深そうにベタの蹄に触れる。
「いくらドラゴンがおさめる国とはいえ、ただの動物が姿を変えるなんて一体どういう仕組みなのですか?」
「この体ですか〜?アスフォン国でトップクラスの『賢者様』方が、嫌がり、荒々しく、激しく、抵抗する、可哀相で、哀れな僕に無理矢理変えられました〜。」
…いかにも同情しろと言わんがばかりの言い方が腹立つ。
俺は準備なんてめんどくさいことこの上ないことは絶ッ対にしないため、一人また休憩という名のサボりをしながらそう思っていた。
用意が整うまで眠ろうかとも思ったのだが、リッツェルの質問は俺も気になったのでとりあえず聞くことにする。
それは俺だけでなくベルガやフィアナも同様だったらしい。
ちなみにレイシューはまたもや就寝中なので、実質動いてるのはいつもの二人なのだが、まぁこの際それはどうでもいいか。
どうせ二人もそのことに慣れてるだろうし。
「賢者様って?」
「賢者様というのは簡単に言えばぁ、とても賢い人のことをいうんですよ〜。さらに数百年前にその素晴らしい知力によって魔力とは別の同等の力を発見しました〜!そしてにそれを学び抜いてその力を自由に使いこなせる偉大な方のことを『大賢者様』といいます〜!。今、学び中の人は賢者見習いということになりますね〜」
つまりは、大賢者>賢者>賢者見習いということか。
つーことはこいつを変えたのは大賢者集団に違いはない。
「それはレイシュー達が使う魔法とは違うのですか?」
「はい〜。魔法はその人が持つ能力からですがぁ、賢者様の力は学んだ知識や構成を複雑に組み合わせて生まれる力を使われます〜。二つのやり方は多少似ているのですがぁ、明らかな違いは魔法は限られた者にしか使えませんが賢者様が使える力は個人差はありますが学べば一般人でも使えるところですかね〜」
「そ、そんな興味深い方がいらっしゃるとは…ぜひとも会って……〜、〜…」
待てコラ。後半部分が聞こえないぞ。
一体何やら貸すつもりだ変態研究バカ。
いくら嫌がっていても俺が勇者なのは変わらないんだ。
それくらいは防止しなければ上の奴らに何言われるかわかんねえ。
『アスフォン国の偉大な奴らに怪我させた』なんて知れたら、……俺の信用一気に失うだろうな、別にあんまり気にしないけど。
「…別に役目が終われば元に戻してもらえるんでしょうけどぉ、やっぱり人間の身体はとても不便すぎます〜…。早く戻りたいです〜…」
「戻るのですかっ!?それではあれをする機会が………しかたない、ちょっと急ですが今これからあなたの身体を解体するというのは…」
「む、無理です駄目です絶対に嫌ですぅーッ!!やだぁーーーッッ!!」
嫌がるベタを無視して実験をし始めようとしたリッツェル。
それを俺が止める頃には、野宿の準備どころか飯の準備の全てが完了していたのだった。
…あいつは変なくらいに研究にばかりこだわる。ある意味、粘り強い頑固者だ。
そいつを止めるのすげぇ苦労するんだぞ!?
普段ならあの二人がリッツェルを止めて俺はそこらへんで飯の時間まで昼寝するというのが、自然にできた役まわりだった。
なのに今回、あいつらときたら眠りかけた俺の目の前で魔の者のような恐ろしい顔をしながら怒鳴り始めてきた。
あまりに煩い二人に苛々が増してきたんで、俺にぶつけ始めたんだろう。
…つーかなんで人間であんな顔出せんだよ…。
『あんたいい加減、自分で動きなさいよっ!!』
『二人がかりでの準備の上にあの騒がしい二人の仲裁だと!?ふざけるなっ!!』
『少ない人数でただでさえ時間かかるし、止めるのにも疲れるというのに一人昼寝ですってぇ!?』
『今までならしぶしぶ許せたが、これ以上厄介事を増やされるのはごめんだっ!!』
『『いい加減手伝えぇっ!!』』
…いくら面倒とはいえ、こんな言われて無視できるほど俺は傲慢でもないし…怖い者知らずでもない。
……なんか俺、このままだとベルガと同じような残念な役まわりになりそうだな…。
それだけは勘弁してほしいが。
「ん…?兄貴、何見てんだ?」
「あ、あぁ。レイシューからもらった。ペンダントで、友達の証らしい…。あっ…や、やらねえからな!?」
「…心配しなくても、兄貴が大事にする物は盗らないし、そんな高い金にならなそうなの売らねえよ。…あの魔王様が約束を破らない限りはな」
「…あの人、おっかねえけど、俺とクリュウの話をちゃんと聞いてくれた。…そんなの初めてだ。だ、だから、大丈夫だ。少なくとも俺は信じたいなぁ…」
「…………」
「………。それにしても不思議だ…。中に入ってる変なバツを見てると目が少しおかしくなってくるけど、でも綺麗だ、これ……」
文字も読めず無知な二人は知らない。
そのバツが『十字架』ということを。ペンダントの裏に書かれている言葉の意味を。
キーダは知らない。
それを渡した少女のその時の気持ちを。
クリュウは知らない。
そのペンダントの本当の価値を。
二人は気付かない。
このペンダントが何なのかを。
彼女が捨てた一つのモノを。
「ん……?レイシュー、あのペンダントどうした?無くしたのか?」
「ううん、友達にあげちゃった」
「友達……?いいのか?肌身離さずずっと持ってたのに。大事な物なんだろう?」
「…いいよべつに、あんなの。大事だからもってたんじゃないから…。もうあんなのいらないから、あげたの」
「?お前がいいなら、別にいいけど」
「……魔王はあのとき、きっと素直に言ったんだから。…だから私もしょうじきに思いついたことをしただけ」
−−この日、ある王女が人知れず故郷を捨てた。
レイシューの昔話については、悩んだ結果番外として話したいです。