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       ○出会い③

目を開けて最初にみたのは頬を染めた少女のきょとんとした顔。

いや、少女といっても十代後半か。

薄暗かったが彼女の濁りのない真っ黒な目と俺の青の目がぶつかる。


俺はもちろん、彼女もぎくりと固まった。

彼女が驚いている理由はもちろん寝てると思っていた俺がいきなり起きたからだろう。




「………………」

「………………」




両者無言のまま相手から目がはなせない。

目の前にいるのは明らかに魔だ。

いや、……………魔王だ。


勇者としての直感なのかもしれないが、俺には確信があった。

黒目黒髪の人型でうっすら白い肌に少しだけ童顔な顔。

なぜ魔王が真夜中に俺んとこに来て、なぜ彼女は真夜中に暗い中で寝てる俺を見ていたんだ?

本当ならここで逃げるなり切り掛かるなりすればいいんだが、俺はどうしても目を離せなかった。


理由はわからん。

だが殺伐とした雰囲気ではないのは確かだし、俺の中ではこの時何故かいつもと違っていた。

どこがって言われるといつもならすぐに頭の中が切り替えられるのに、例えば『彼女が光り輝いてみえる』とか『いつまでキョトン顔なんだ。おもしろいやつ』とか『なんか俺の心臓バクバクしてんぞ』とか『なんで俺こいつの顔から目がはなせねえんだろう?』とか『いつまでこのままなんだ?…まぁ、いいか』とか思ってたりする。

………なんなんだろうか、これは?


隣で寝てるレイシューもまさかすぐよこに魔王がいるなんて思いもしないだろう。

いつまで動かない勇者と魔王。

沈黙を破ったのは向こうが先だった。




「あ、あああなたが…勇者、様?」

「…そうだけど?」

「こ、こんにちは、魔王です!早速ですけど…『玲心の珠』、も、もら、もらったぁー!」




と、いきなり俺の胸に手を置こうとする魔王。

そしてようやく我に返る俺。

魔王に見とれてしまいまんまと『珠』を盗まれる勇者。

………そんなのカッコ悪過ぎるだろ!

俺は条件反射でベッドから飛び離れると同時に枕元にあった剣を掴み、窓付近へと身を寄せる。

城でしごかれた成果というものは俺にとっては嬉しくもなんともないものだな。


俺は次に来るであろう攻撃に身を固めた………が。

またもやポカーンとマヌケな顔をしだした魔王。

あまりのほうけように俺の体も緩んでしまう。

……何やってんだこいつは?

よくみれば顔がどんどん上気してきてる気がする。



「……ひゃぅ〜…っ!」



かと思えばいきなり真っ赤な顔を両手で覆い始めた。

完ぺきなる油断の姿。さっきまでの威勢はどこにいったんだよ。

これも作戦のうちなのか?


………でも、なんとなく抱きしめたくなるその動作。

なんだ、その、……あれだ、周りにこんなやつは今までにいなかったからだ、きっと。

だから……だから、そう、妹的なやつだ!

あれ?でも妹に抱きしめたいは変だよな?

待てっ!俺も混乱してきたぞっ!!

そしてまた何もしない時間がしばらく過ぎていった。

我に返ったのはまたしても魔王が先。




「はっ!!あ、あの、『玲心の珠』、を………そのぉ」




なぜ目を逸らす。かくいう俺も魔王の目を見ることは出来ないんだがな。




「……普通に考えて、渡さねえからな」




とりあえずこれだけは言っておく。

お前だってこの状況で渡すわけねえだろ。

……あれ?こいつだったら別に『紅心の珠』を盗るのに悪戦苦闘する必要ないんじゃないのか…?

見た目明らかに弱そうな魔王だ、魔力にさえ気をつけていれば魔の者を呼ばれずにかつ楽に盗れてそして旅が終わる。

………あまりに呆気なさすぎる。

まだ旅を始めて一週間だ。

これでは俺はたった一週間のために辛くめんどい一年を城で過ごしたことになってしまう。

…普通に考えて、ふざけんなっ!

俺はそのためだけに一年放棄したわけじゃねえんだ。

少なくとも長期戦にしてくれなきゃ割にあわねえよ。

こんなおバカな性格してんだ。別に盗るのは次の機会でもいいよな。

……なぜか今はまだ、取りたいとも思わねえし。

と、ものぐさの俺にしては珍しい考え…………………だったのによ!



バァンッ!



「何事だ!?」




来るの遅すぎるだろっ!

つーか来なくてよかったんだよややこしいっ!

……人生ってそう都合よく行かないもんなんだな。




「っ!!貴様…もしや魔王かっ!」




やってきたのは声でわかる通りベルガ一人………ではなくもう一人いた。




「魔王ですって!?」




なるほどフィアナのほうで時間がかかってしまったのか。

意地張ってベルガの話を本気で聞かず机にかじりつきでもしたにちがいない。

ベルガは俺の部屋の異変にいち早く気付いたのだが、自分の力量をわかっているあいつのことだ。単身で殴り込んでも勝機は薄いかもしれないから人手にフィアナを選んだんだろう。

……結果的には来てくれたが、だいぶ苦労したことだろう。

って、そんなことよりも……………。




「ぇっ……えぇーっ!?あ、いや……えっと、そのぉ……ぁ…」




みろっ!魔王が急な闖入者に怯えちまってるじゃねえかよ!脅かすな!!

…………。……なんで俺は言い返してるんだ?しかも自分仲間にだぞ?

普通ここは魔王を邪険にするのが正しいだろう。

別に魔王が怖がろうが悲しもうがなんとも思わないはずだ


……あぁ、くそ!考えんのもめんどくせえ!

とにかくこんなやつなんだからチャンスはいくらでも現れるはずなんだ。

今回は何とか逃がさなければ…。




「これが……こんな女の子が、魔王…?」

「あの黒髪黒目は間違いない。……一気に叩き潰して『紅心の珠』をとるぞ…!」




おい、ちなみに倒すのは勇者の役目だし、『珠』を取るのも勇者にしかできないことだからな。

このベルガとかいう筋肉バカ男。使命感に燃えるのはいいが、変なとこで空回りしてやがるな。





ベルガはもっと渋くなるはずだったのに…

どんどん残念な人になってしまいます。(汗

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