○出会い②
今日は国の近くの小さな町に泊まることになった。
トラウジェナ国をようやく出発してから今日で………まだ一週間か。
俺のなかに『玲心の珠』が宿ったことが判明したのはずいぶん前で、それまでただの庶民でしかなかった俺は城で剣技や勉学の最低限を短期間でかなり叩き込まれてしまった。
………正直に言おう、魔王を恨む。『珠』も恨む。ついでに教育者全員も恨んでやる。
城ではめんどくさくて仕方がない日々だった…。
それまで俺はただのんびり自由気ままに暮らしていたはずだ。
そしてこれからもそうなる一生だと気楽にしてたのに、知らぬ間に俺の中に『玲心の珠』が宿っているという。
そんなの関係あるかっ!!俺の平穏を返せっ!!
こういったら周囲に睨まれるだろうが俺は正直魔王とか『珠』とか勇者とかどうでもいい。
たぶん、俺にはそこまでして生きる気力はないんだと思う。
魔の者が来ても俺はそこそこ抵抗はするがプライドを捨てて生にすがることはないだろう。
……いつからこうなったのはわからない。
何をしてもやる気など起きない、ただ周囲に流されてやっているだけの毎日だった。
「フェイル〜!」
と、部屋で思考にふけっているとレイシューが部屋に入ってきた。
ちなみに基本的な部屋割りはレイシュー&フィアナ、ベルガ&リッツェル、俺一人になっている。
本来ならば「勇者を一人部屋にするか?」という話しなんだが、これは俺の独断で決めたことなんだ。
何が嬉しくて宿の中でまで一緒に居なければならんのだ。
特にベルガとフィアナの徹底ぶりがひどくカンに障る。
野宿の時、二人は交代で見張りをしている。レイシューはまだ子供だし、リッツェルはそもそも城から派遣された研究者だから見張りなんてする必要がないし自分から見張りなんてしないだろう。
仮にしたとしても、それは見張りとは言えない形になると思う。
「どうした。もう夜遅いのにまだ起きてたのか」
「フィーがまほうの本よんでていっしょにねてくれない。だから勇者とねにきた!」
あいつ……熱中すると回りが見えないフィアナの悪い癖だ。
特に魔法関係ときた。
もしこれで本が分厚いのなら朝まで読み続けるに違いない。
まぁ幸い明日はこの町で一日留まるらしいから旅に影響はないだろう。
「………めんどうだから」「いっしょにねるのはいいけど、子供をねかせるのはめんどうだからいやだ、っていいたいんでしょ?そこまで子供じゃないよ!ただとなりのベッドでねるだけだもん。二つあるから、いいよね?」
………レイシューを侮ってはいけない。
レイシューはかなり頭がいいのはそういう教育をされてきたからだ。
さらにはまだ小さいのに治癒の魔法まで覚えてしまっている天才だ。
だがそれは普通の子供よりかは頭がいいというだけであって、旅をしてても身体や精神は他の子供と変わらない。
昼寝だってするし、体力だって極端に低い。たまにだがわがままを言う甘えん坊の子供。
「それならよし。じゃあもう寝るか」
「………」
って、もう寝たのかよ!さっきまであんなにくっちゃべってたのに!
……よほど眠かったのか。
明日はこいつのためにもフィアナに注意くらいはしてやるか。
「………魔王」
どんなやつなのだろうか。
確か前回は魔の者の女がなったという。
今回は人狼だろうか、それともまた魔の者か。
まさか人間のはずはないだろう
男か、女か、メスか、オスか。
……ダメだ、まったく想像がつかない。
まあ会えばわかるだろう。いやそれは当たり前か。
とりあえずこれ以上めんどくさいことにならないことを願うばかりだ。
だが意外にもそのすぐ後、俺の第一の願いは届き、第二の願いは無情にも続くはめになるとはその時の俺にわかるわけがない。
その日のたぶん深夜。
目を閉じてもなかなか眠れなかった俺は何度もごろごろしているとなにやら違和感を感じた。
違和感というより、何者かの気配がするのだ。
でもいっこうに動く気配がなくただ見られているだけのようだ。
誰だよ、俺の時期に来るであろう安眠の睡眠を妨げたやつは…!
俺は目を開けずに考えてみた。
レイシューだろうか?
でもあいつはぐっすり寝てるはずだし、用があってもじっと起きるのを待っているわけがない。
ならば様子を見に来たフィアナか?
いや、あいつは一度くいついたらベルガ並に頑固だしリッツェル並に腹立たしいからそう簡単に読書を中断したりしないだろう。
それに本を読み始めるまでに部屋割のことで少し言い合ったから、どうせイライラ解消にでも本を読んでいることだろう。
あいつは昔から周りにあたったり自身のストレス発散法を知らないが故に、自分の好きなことに熱中することで怒りをしずめていた。
ベルガはこんなきもいことしないし、リッツェルの場合は今頃俺は実験台になっているだろう。
………じゃあ、いったいこいつは誰なんだ?
いっそのこと殺気でも出してくれれば一思いに倒せるのに、ただ観察するだけ。
「………わぁ…」
しばらくすると近くで感嘆するような声。
……………女?……それも若い…。
思いきってゆっくり目を開けてみる。
さっさとそうしてればよかった。
そうすれば俺の目に輝いてうつった少女をもっと早くに見れたのに。