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     ●その頃の魔王さん(13)

「あんた、魔王って本当か?」



尋問もとい質問が始まった。



「…はい」



村人が言っちゃったし、魔力は使っちゃったし、髪は黒いし弁解しても無駄そうだったので正直に話した。



「私からも質問が…」

「なんだ」

「………どうしちゃったんですか、あの人」

「……気に、すんな」



いや、でも私は気になる。

兄貴さんは隠れようと思ったのか木の陰に隠れるけどがたいがでかいから隠れきれてない。

しかもなんか恋する乙女みたいだった。

………正直、きつくて、私が「隠れてませんよ?」って言ったらどうしたと思う?今度はレイシューを顔の前まで抱き上げたんだよ。

だから隠れきれてないから!

そして今度はレイシューが恋する乙女みたいになった………がたいがいい、レイシューが…。

まあ本人は高いところにいるので喜んでるみたいだけど。



「で、その魔王様がなんでこんなとこにいんだよ。しかも俺達の邪魔までして」



あ、そっか。一般人は私達の『珠』争いを知らないんだっけ。

勇者様じゃないけど、説明めんどくさいなぁ…。



「簡単に言っちゃえば、悪いことはしちゃだめです!私は魔だけど、そこらへんはちゃんとわかってんだから」

「人を襲う魔の者の王が人間に人を襲うなだと?馬鹿かお前は」

「……ぁ、れ?怖く、ないの?私、黒髪だよ?黒目だよ?…魔王だよ?」

「出会いがあれなのに今更恐怖なんてわいてこねえよ。それに気付いてんだろ?………兄貴は魔だ。だから魔関係には少しだが耐久はついてる。…兄貴は力の弱い魔だから、魔王に殺されねえか恐れてるみたいだが」



………嬉しいことなんだけど、なんだか半分が魔として嘗められてる気がする。



「ねえ……半分人間で半分魔の者っているの?私聞いたことない」



なんだかこの子に敬語使うのバカバカしくなってきた。



「聞いたことなくても目の前にいるのが現実だ。……親はとっくの昔に死んじまった。兄貴は、魔の仲間にもなれない。そして特異な見た目のせいで人間の仲間にもなれない。俺は兄貴の弟だからな。兄貴には俺がついてねえと」



人の気も知らないでいつの間にか兄貴さんはレイシューと遊んでる。

たぶん友達とかいなかったんだろうな。だから人間のレイシューが普通に接してくれてるのが嬉しいんだ。

レイシューも私と会ったときみたいにあまり怖がったりしてなくて、むしろ楽しそう。

…私、赤の他人だけどなんだか嬉しいな。



「今の兄貴さんは楽しそう……よかったね!」

「…まぁ、それは、そうなんだが……人質と仲良くなってどうするよ」

「……先に行っておくけどレイシューは行かせないよ?なんとしてもとめてみせるから」

「……魔王のあんたに勝てると思っちゃいねえ。さっきの兄貴の暴走で思い知ったさ。下手すりゃ俺も死ぬしな…。でもそしたら俺達はどうすりゃいんだよ、えっ?人売ってでも稼がねえと迫害される俺達は野垂れ死んじまうんだ。兄貴は働けねえが俺は働こうにもあいつを放って置けねえんだよ」



……でも、やっぱダメ!レイシューは勇者様の仲間なんだから!

でも、兄貴さんたちはお金ないから危ない状況だから、………どうしよう…。



<………見てられないわね…。簡単な話しじゃない。あなたのお金あげればいいだけよ。どうせありすぎるほど余分に貰ってんでしょ?>



え…!?な、何で知ってるの??


確かにシャニアさんからたくさん貰ってて城の中で貯金してるけど、それは増えるばかり。

ないよりはましだからむしろ膨大なお金に浮かれてたけど、私はあげても別に困らない。

でも、何で知ってるの!?



<ふふん!私にわからないことなんてないわよ。あなたが馬鹿なだけ!>



ふへぇ〜………………本当かな。というか明るくけなさないで。







*******







「魔王〜。いま、どこに行こうとしてるの?」



あのあとクリュウ君(兄貴さんは遊んでるからね)に話したけど向こうはだいぶ私の、正確には中にいる人の考えにだいぶ悩まされていたけど、まあ、結果だけでいえば要求をのんでくれた。



『ただし、定期的に送らなかったり、足りなくなった時は迷わず人里で誰かしらさらうからな!』



盗みという危険な道よりは仕送りという安全な道を選ぶのもわかる。



「レイシューを勇者様に帰してあげようと思って。…でもその前に話しておきたかったことがあったから、ちょっと歩こう」

「………キーダとクリュウは?」

「キーダ?…………ぁ、ああ、兄貴さんね。見張り兼お見送りということですぐに後ろから追い付いてくるよ」

「…うん、だったらいいよ。歩く」



……たしかに魔王相手なんだから最低でもこれくらいの警戒が必要なんだろうけど、なんだろうこのむなしさは。

私魔王なのに半分魔の兄貴さんに信頼度で負けたし……。



「……兄貴さん達が来る前に言おうとしてた言葉の続きだけどね。私は魔力を持っているから、兄貴さん達と同じで居場所はないの。だから私は、唯一置いといてくれるあそこにいたいの。…帰る私の、最大の近道のためにも、私は答えなきゃ」

「……帰るって?」

「ぁ、う〜んとね……、私は本当は遠くに住んでたの。だから私、ここじゃよそ者でしょ?早く帰らなきゃ……」

「魔王はそこで待たせてる人がいるの?」

「ぇっ……」

「だったら早く帰ってあげなきゃいけないね」

「……………。………いない、って、言ったら…?」

「じゃあここにいればいいのに」

「なっ……!わ、私、魔王だよ!?悪の元凶だよ!?な、何で何で、そんな、こ、と……」

「……………なんで魔王泣いてるの?」



涙のせいでレイシューを見ることができない。


   『ここにいればいいのに』


……この世界で、初めて言われた言葉だった。



「………だからフェイルは魔王を倒せないんだね」



泣き出す私にそのつぶやきは聞こえなかった。









「だからさ、別によそ者でもここにいたいんなら、いればいいんだよ。少なくとも魔王自身は悪いことしてるんじゃないんだから」

「……………ぅん」

「あ、でも勇者から『玲心の珠』をとるのは悪いことかも」



今、私たちはそこらへんの原っぱで体育座りしながら話してる。

私が泣き出したのがいけないんだけどね。

それにしても大人びた子供だなぁ。

まぁ、それで今私の心は救われてるんだけどね。



私は帰らなきゃいけない。いちゃいけない人間なんだから。

………でも、本心は帰りたくない。

帰って、またあの毎日を繰り返すのがすごく怖い。

……ここにいて、いいのかな…?



「きっと勇者も魔王におなじこと言うよ」

「…………そうかな」



そういってくれたら嬉しいなぁ。

勇者様の、口から………。

…言われたいなぁ。



「そうだよ。……キーダ達まだかなぁ」



多分兄貴さんがごねてるんだろうなぁ。……ちょっとショック。



「ねえレイシュー。…ちょっと聞きたかったんだけど、あなたは、こわくないの?」

「なにが?」

「だって…村の人達は私を見てああなったのに、レイシューは最初から私を睨んだりは、…そういえばないよね」



戦うような子じゃないけどそれにしては敵意が全く見えない。見えなさすぎるくらいに。



「だって魔王はそうみえなかったんだもん」

「何が…?」

「魔ってのはみさかいなく誰かを殺すものだって先生におしえられたよ。…でも魔王、勇者しか襲わないんだもん。さっきだってキーダ達も庇ってたし」

「……だって、その、勇者様以外の人を倒してもしょうがないし、それに、私は魔力で誰かを傷つけるのは嫌だな」

「…魔王は、バカなの?」

「うん、バカだよ。…胸はって言えることじゃないけどね。でも戦うことが天才になるんだったら、私はバカでいいよ…」

<そうそう。逆にあなたみたいな性格はバカなほうが可愛いわよ?>



……忘れた頃に出て来るなぁ…。

これは誉められてんのかな?

たぶんこの人にとっての褒め言葉なんだろうけど、素直に喜べない。



「……私、わからない」

「え?」

「私は魔王を倒すために頑張ったんだよ?でも今は…、わからなくなっちゃった」



レイシューはきっと今も悩んでいるんだと思う。私を倒すのか、見逃すのか…。

でも、私はレイシューの言った言葉よりも先に気になったことがあって、そっちのほうで混乱してしまった。



「ぇ………わ、わたし?」



男の人で自分のことを、私、という人がいることは知ってるけど、レイシューのはなんか違う。

………あの言い方は、まるで…。



「……あの、レイシュー。性別…は…」

「?女に決まってるじゃん」



何を今更といった感じに言うレイシュー。



<だからさっきから言ってるじゃない「おバカさん」>



でも確かに間違えていた私も悪いけど!

レイシューは短い髪に男の子みたいな服着て、声がアルトなんだもん!

間違えちゃうよ!


あっ……………レイシューが『君』づけを嫌がった理由がやっとわかったよ…。


めずらしく長くなりました(汗

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