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     ○夜(12)

話し合いがなんとか一段落したところで、ようやく大人しくなった村は眠る頃合い。

飯食ったらみな早々と寝ちまった。

俺は眠る気が全くしないので手頃な木の上にのぼった。

勇者のすることではないのかもしれないが、つい一年以上前まではこうするのが普通だったのだ。俺にとっては変でもおかしくもない。



あの日、俺がいつものように上で昼寝してたのに目が覚めたら王座の前で横になっていたのにはさすがに驚いた。

気付かなかった自分に。王の御前ということに。急な展開に。王の前だというのに俺を起こさないどこかの馬鹿に。

そして、初めて『紅心の珠』『玲心の珠』の存在を知った。

普通の一般民はそこまで詳しいことは教わらないのだ。


………明日、いやもう今日か。

予定としては明日の早朝からレイシューを捜して、……昼には出発することになった。

それはあまりにも短すぎる時間だと思う。




『…もう少しだけ、待ってくれないかしら』




だがこれはフィアナがねばりにねばった結果だった。

強引なあの遣いは最初、問答無用で「断固、早朝出発」と言って聞かなかったが、最後の最後にようやく折れてくれた。




『ただし昼までですぅ〜…。これ以上はさすがに待てません〜…。山で野宿は嫌ですしぃ、かといって延ばしのばしにするのも〜…』




時間は限られている。フィアナは破る約束などしない。

昼過ぎにはレイシューがいてもいなくても山越えになる。


俺は心配していない。

心配はしていないが、……少しまずいな。

俺や魔王は『紅心の珠』や『玲心の珠』の気配で、お互い近くにいるか遠くにいるかが何と無くだがわかる。

今ここを離れてアスフォン国に行けば、もれなく魔王が着いてくる。

アスフォン国に俺は行ったことはないがあそこは『竜の国』『自由の国』とも呼ばれている。

………何か、すごく嫌な予感がするんだよなぁ…。

魔王があそこにいたら何かめんどいことになりそうな気がする。何だろうか……。




「フェイル」




下を見れば自分と似た金髪に自分と違う琥珀の瞳。

そしてこいつは父親違いの『義理』の妹。




「フィアナ、起きてたのか。さっさと寝ろ。明日は捜すんだろ、体力つけねえと。」

「寝るけど一つ忘れてたの。…昼間の続きよ。あなたがそんなに余裕なのもそれが関係しているのかしら」




………まだ、覚えてたのかよ。




「………どういう意味だ」

「わかってんでしょっ」




怒ったように言う。

…もう、ごまかしはきかなさそうだ。




「ねぇ……魔王じゃなきゃいけないの?」

「………」

「あなたには彼女以外にも、もっと、いろんな…」

「………」

「………だめ、なのね…」

「………他に出会えたら、そうするさ」




でも、いないんだよ。

目をつむってもあいつしか出てこない。

前向きでいようとして会うたびに必死で勝負を挑んでくるが、本当は素直で内気で臆病で馬鹿なあいつ。




「…………会えると、いいな…」




それはどちらを思って向ける言葉なんだろうか。


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