○まざり(11)
「今回は僕、ベタが使者として参上しましたのですー。用件はえ〜っと一つ、いや二つ、間違えました三つ。………まあいいですぅ」
どんだけ頭悪いんだ。しかも自分で勝手に納得してやがる。
「勇者さん達はこのあとどちらに向かわれますか〜?」
長い話になりそうなので正直聞くのめんどくさいからフィアナとベルガの二人と合流し、今は村から少し離れた小さな小屋の中で話すことに。
なぜかって?理由は単純。…村全体が騒がしすぎるからだ。
たくっ、よく夜まで頑張れるよなあ。昼はくたくたに働いたってのに。
…そうさせる理由を思い出して俺は小さくいらついた。
「このあとは確か……山を越えて南東に向かう予定よ」
「あぁ、よかったです〜。実はですねぇ、僕はアスフォン国王の命で来ました〜。……え、っと、…〜…ちょっと、すみません〜………。………………???」
肝心のところを忘れててどうする。何しに来たんだよお前。
こいつを出す王も王だ。
「あぁっ!そうだそうだ〜!近くに勇者さん方がいることを知った王はぁ、もし東に行くなら是非寄って行ってほしいとのことなのです〜」
「…、まあどっちみち寄るかもしれなかったしな。わかった」
ベルガ。それ決めるのは本当は俺の役目。
「ではこれより僕は一行の案内役となります〜。ついでに言いますと王は僕たちが到着すると同時にパーティを開く予定ですのでぇ、いろいろと質問攻めになると思うので覚悟してくださいね〜」
ハア!?ちょっとまて!!
「それもし俺らが訪問を拒否してたらどうするつもりだったんだ?」
「拒否権はないですよ~?ダメでも無理矢理連れて行くだけです~」
無茶苦茶すぎる!めんどくせえ~………っ!!
どうも俺の見た目は女受けするらしい。あいつらしつこいったらありゃしねえ!
それにあれだろ?勇者として偉いやつらと堅っ苦しい話とかもすんだろ?
……めちゃくちゃ嫌だっ!!そんなのはベルガにでも頼みやがれよ!
「リッツェル!行け!許す!」
「よろしいのですか?では…」
「え、わっ、わあぁ!な、何ですかぁ、この人〜?何で目を光らせてるんですか〜!?」
「あなたが珍しい人種だからです。馬と人なんてみたことが…」
「え!?僕人の血なんてないですよ〜!それに馬じゃないです〜!」
「往生際の悪い。そのひづめはなんですか。ぜひ中身を…」
「ち、違いますぅ、違います〜!僕は、ラットとヤータです〜っ!」
そう言って頭を覆う分厚い布を自分で勢いよく剥ぎ取った。その先に小さな角がまるで鬼みたいにあった。
「…ちっさ!」
「ひどいぃ!…僕はぁ、稀にみる存在らしくてラットとヤータから産まれたただの動物なんです〜!それを国王がわざわざ私を人間の姿にして使者にだしただけなんですー!だから、だから、人間じゃありませんー!」
「なんですか、つまらない」
ちっ。興味をなくしたリッツェルはあっさり引き下がった。
涙ながらに布を巻き直すベタ。
声が妙に間延びしてるのも動物特有のやつかもしれない。
「…使者は動物の中からにしよう、と、決まっていたらしいのですがぁ……、王の婚約者のイル様が、まざりの僕を気に入ってくださるのです〜。ですから選ばれました〜。ただ、…王に何度も姿を変えてもらったんですけど、どれも不完全でぇ…。これでも1番ましなんですよ〜!」
涙ながらに蹄を振り回して訴えた。
子供なら喜んで近寄りそうだが、あいにくレイシューは近くにいない。
「でも普通、恋人の好きな動物を送り出すもの?」
フィアナは俺達の出発国であり出身国、トラウジェナに恋人がいるからな。
何か思うところがあるのか。
「…これは僕の勘に過ぎないんですけどぉ…、王は、嫉妬してたのかもで〜…。…イル様が動物時の僕に抱き着くだけでリイチ王は睨んでいましたし〜…」
「……………独占欲が強い方なのね」
俺としては仲良くやれそうなやつだと思うがな。
…ん?ということはまだ未婚?つまりは若いのかな?
「…王に、婚約者だと?ではまさか王とは」
「はいぃ、我がアスフォン国が誇れる少年王です〜。ちなみに17歳ですよぉ?お若いでしょう~」
この世界での世間一般で知られてる生き物は動物と人間のほかは
魔の者と人狼だけです。
数だけ言えば『魔の者>人間>人狼』なのでかなり少ないです。
『ラットとヤータ』は魔王的に言うなら『羊と山羊』です。