-1- ●魔王様の心情(1)
「お、覚えてろーっ!」
「あー、はいはい。覚えといてやるから」
悪役もどきなセリフをはく私。
いや悪役なんだけどね。
対するは勇者。でも全然勇者らしくない発言。
そこがまた悔しい。
こんなやつに負けた!
「くぅー!次こそは絶対に負かしてやる・・・!」
今日のは悔しかった。
あとちょっとで『玲心の珠』が取れたのに!
ぞくにいうテレポートで帰った先は魔のお城。勿論そこはただの人間以外がたくさんいるところ。
「頑張るのもほどほどにしてくださいね。魔王のあなたが戦う前からばててしまっては話になりませんから」
「大丈夫、次なる作戦はもう思いついてるから!しかも今度のは戦わないしっ」
私の言葉に侍女のシャニアさんが不安そうな顔をした。
「ちなみにどのような・・・?」
「勇者がお風呂に入っている間にこっそり「いけません!!」」
・・・本気で怒られたよ。
「まだ最後まで言ってない・・・」
「言わなくてもわかります。敵の、それも殿方である者の入浴に忍びこむなんてっ!それでも魔王様は乙女ですか?」
「彼氏いない歴17年だから一応乙女といえるかも・・・」
「そうではなくて!」
はぁーっと重いため息をつくシャニアさん。
何もそこまで否定しなくてもいいのに。
「勇者の心の部分にしばらく手をあてればいいんだよね?それだけで魔にとって最大の力であり、勇者の中に宿っている『玲心の珠』が手に入り、私は元の世界に帰って高校生活を再びエンジョイできる。簡単な話じゃない」
「簡単な話のはずなのに魔王様が召喚されてからだいぶたちますけど、いまだに『玲心の珠』が手にいれてらっしゃいませんが」
「うっ・・・」
「だいいち、魔王様は殿方の体に数秒間ばれずに触れられますか?その根拠は?」
な、何も言えない・・・。
よくよく考えてみれば歳の数だけ彼氏がいないうえに、理由あって男の人とキスはおろか手をつなぐことさえしたことがない私に裸の勇者様に触るなんてできないかも・・・。
・・・できないな、うん。というか絶対すぐにばれるし。
思わず彼の裸姿を想像してしまった。
・・・たくましいんだろうなぁ、きっと。顔だってモロ、私のタイプだし。
勇者という呼び名にふさわしい金髪に碧眼。
ちょっと放置気味の髪は少しだけ後で縛っているが、顔は比較できないくらい誰よりも整っている。
王子様みたいな勇者様はまさしく美形、もしくは美青年。
まだ本気で戦ったことはないけどきっと強いんだよね・・・。
・・・何なのよ、あの完璧な勇者ッぷりは。
出会ってからというもの、いつも、いつも・・・。
「・・・勝てそうに、ない、かも・・・」
彼の顔を思い出すだけで頬が熱く、胸のドキドキがとまらない。
「・・・魔王様がそんな調子では困ります。私たち魔の者のためにも頑張っていただかなくては。勇者に宿る『玲心の珠』をとれるのは魔王であるあなただけなのだから」
・・・そう、だよね。こんなのだめだよね。
私、西野未緒はこの世界の住人じゃない。
私は地球で何故か『紅心の珠』を宿してしまったらしく、このファグアラネルという世界に召喚され、現在、魔王をやっている。
つまり、いつかは向こうに帰る人間。
たとえ『珠』を宿しているから魔力が使えるのだとしても私の体は人間であって魔の者ではないから、『玲心の珠』を手に入れても寿命も身体のできも違う彼らとずっと一緒にいることは出来ない。
さらにいえば勇者から『玲心の珠』をとれるのは魔王だけ。
私はそれを手に入れない限り帰れない。
それは困るのだ。
・・・帰らなきゃいけないのに、勇者様のこと考えちゃ駄目だよね。
「うん。よし、みんなのためにもがんばって『玲心の珠』をとってみせる。だからポジティブにいく!」
「ありがとうございます、魔王様。ですが気をつけてくださいね。向こうも魔王様の『紅心の珠』を狙ってきているのですから。くれぐれも・・・」
「はい、わかってます!とられないよう気をつけまっす!」
なにごとにも元気にいかなきゃ、気が落ちそうだった。
地球育ちの彼女がテレポートなどの魔力を使うことができるのは、
『紅心の珠』を身体に宿しているからです。
ちなみに地球に帰ったら使えません。