●疑問(9)
…さて、どうしようか?
城に戻ろうと思っていたんだけど、予想外の出来事に急遽転移先を変更したのはいいんだけど…。
−−…ここ、どこ?
薄暗い中、私とレイシュー君は古い神社みたいな所の敷居に足をぶらつかせている。…長い沈黙。
ちなみに暗いから私の魔力でライト代わりにしてるから辺りがそこそこ見える。ほんと便利。
よく明かり付けてると獣が寄ってくるっていうけど、これは魔力だから獣は来ないし、魔の者も『あれは人間じゃない』ってわかってくれるから少し安全。
で、レイシュー君だけど勇者様達のところに送ってあげたほうがいいんだろうけど…、…今はできれば行きたくない。
あの謎の声について考えたいし、しかも逃げ去ったはずの魔王が、仲間を返しに来ました、って…。
…カッコ悪いっ!
とりあえずここで一応"捕虜"になってます。
でもキリュウ君と兄貴さんは周辺の探索に出たため、実質逃げられる状態なんだけど。
あ、二人にも魔力のライトを分けてあげたよ。兄貴さん、魔の者なのにそんなには魔力使えないんだって。本当に珍しい。…じゃああの爆発はいったい何だったんだろう。あんな強いの…。
…なんでだろう、二人を憎むことができない。嫌いじゃないからこそ、脱走するという気分になれないの。
<…お人よしなのね>
…誰なの?どこから聞こえるの?何で私だけ聞こえるの?
<まぁ、とりあえず、それは置いといて。いくら聞かれても今は答えてあげないから>
納得がいかないなぁ…。
「どうしたの?」
「いや…。何でもないっす!」
「…?」
<…不自然>
…やりにくいなぁ。
「あ、そうだレイシュー君。おだんご食べる?」
持っていたのをすっかり忘れていた。
ぞんざいに扱っちゃったけど多分大丈夫、…だとおもう。少なくともあのおいしさを失ってはいないはず!
「…、…食べる!」
子供とはいえ、流石は勇者様の仲間。敵からの産物に多少は悩んだみたい。
…食欲には負けたみたいだけど。
「あ、あと、君、つけないでいいんだよ?れいしゅーでいい」
ポリシーでもあるのかな?なぜか本当に嫌そうな顔してる。良いならいいけど。
<私も食べたいんだけど…、今は無理だから。仕方ないから黙って眺めてるわ…>
…今度、他の街に探しに行こう
あの村にはもう売ってないどころか店がないだろうから。
「というか会えるの?」
「?」
<う〜ん…、そろそろなのは確かなんだけど、もうちょっと先、かな?>
そんな曖昧な。
それにしてもどうやら私が考えていることがすべて伝わるのではなく、彼女に尋ねるように聞いたことだけが伝わるみたいだ。
今はレイシューがいるからさすがに無理だけど、やりずらいし出来ることなら口で話したいなぁ…。
「…ねぇ、魔王」
目をつむれば男の子とも女の子とも聞こえる声でレイシューが私を呼んだ。
淡い金髪やふっくらした頬や口にだんごのカスがべとべとにくっついているのが可愛い。
持っていたハンカチで拭いてあげたあと、一言、
「魔王はなんでいつも魔の者にたすけてもらわないの?そうしたらかんたんに人間をたおせるよ?」
…。
…この場合、正直に答えてもいいのかな?人間の方に知られると…、う〜ん………。
…子供だし、いいよねっ。
私は普通の子供はここまで聡くはないし、普通は魔王とまともに話すことすらできないということには気付かなかった。
勇者の仲間というだけあって、子供だけどほんの少しだけ頭がいいのかも…。
「えっと、レイシューは人間でしょ?もしも自分より下の子が虐められてたりしたらどうする?」
「えっとぉ…。とりあえずその子を守る。で、二人の話を聞くかなぁ」
「うん。それが人間の答えだよね」
「魔王は?」
「私は…、わかんないや!」
というか考えたくない、かな。
人間であり、魔の者である私。
私の本心はどっちの答えになっちゃうのかな…。
「例外はいくつかあるけど、助けたり話し合いしたり守ったりする。それが人間だと私は思う」
私の言葉に黙って聞くレイシュー。
彼はやっぱり他の子より頭がよくて優しいいい子だ。
「でも、魔はね…。これも例外はあるけど、手下や仲間が危機に陥っても、人間と真逆のことをしちゃうんだよね。…だから、つまり…」
「…魔の者は魔王を助けないってこと?」
「っ!」
…まさか、そんなに、ズバッと言われるとはさすがに思わなかった。
「で、でも、魔は悪くないの!私がちゃんとしないから!…人間、だから。だから魔の者にとって、当たり前のことを…」
「魔王は人間なの!?」
あ、そっか。人間に魔力は探知できないんだった。
「なぜか半分人間半分魔なの。とにかく私は」
バサバサガサッ!
と、茂みからの怪しい音にびっくりして私たちの会話は中途半端に途切れてしまった。
何?獣?魔の者?このあたりに人はいないと思うけど…。
…でも、かなり怖いけど、何があってもなんとしてもレイシューを守らなきゃ…。
「ほら!いつまでも怖がんじゃねえよ兄貴!情けねえなぁ…」
「だ、だってよぉ〜…」
「おいっ!女じゃねえんだから内股で震えんな!」
…完璧に二人を忘れてた。
さっきといい、今といい、二人の存在はなんて忘れやすいんだ。
それともただ私が忘れっぽいだけ?