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     ◇日記(8)

  <令蝶の月   **日>



ついに亡くなってしまった。私の敬愛していた…シウリィ様が。

名前で呼ぶことを願っていたあの方に私は最後まで目の前で呼ぶことはなかった。

彼女が魔王では無くなった今だからこそ、名前で呼びたい。


周りの奴らはシウリィ様が亡くなったことで新たな魔王様を捜索する準備を始めている。

彼らにとって必要なのは出来たばかりの新米魔王という弱い存在なのであって強い威厳や魔力の量などは必要としていない。無知なだけ自分達の良い手駒になるためらしい。

だからこそ誰もがシウリィ様の存在を忘れようと……いや、多分もう忘れてしまっているだろう。


あなたが醸し出した美しさを

あなたが発した無邪気な声を

あなたがだした恐ろしいほどの威圧を

あなたからにじみでた優しさを

私は絶対に忘れない。シウリィ様、貴女が私に下さったことを…





  <寒帯の月   **日>



あれから一月がたち、そろそろ外は暖かくなる頃だが城の外は魔の者の巣窟のため、空は曇りに曇り、いつだって寒い。寒さに寒さが募る。


…未だにシウリィ様の陰を追ってしまう。

忘れはしない。だが、いつまでも考えていてはしょうがない。さらにそれが仕事に支障が出るとなれば。

そろそろ『紅心の珠』を宿した新魔王が見つかるというのにこんなことではいけない。シウリィ様が亡くなってしまったために、次の魔王が今度こそ『玲心の珠』を奪ってくれるはずだ。


次は魔の赤子か、次は微生物の老いぼれか。はたまたただの獣かもしれない。

『紅心の珠』は宿主を失うと次の者にうつるので、誰もが魔王になれる素質があるのではない。珠に気に入られた者だけが魔王になれる。それは人間側の『玲心の珠』でも同じこと。

シウリィ様は人型の魔の者、現勇者は獣であった。もっとも、もう生命を終えるみたいだが。

意外なことにこの勇者、話せはしないが言葉は分かるというので人狼の血が流れているのかもしれない。

二人…いや、一人と一匹?もしくは二匹…まあともかく彼、彼女らはお互いに宿敵などではなく、最愛の敵といった感じだったが、ついに最後まで決着はつかなかった…。


シウリィ様は死後の世界でどう思っているだろうか?勇者はこの結果に喜んでいるのだろうか?

これは本人でなければまったくわからないが、私にはなんとなく想像はつく。


次の魔王様はどんな方だろう?次の相手はどんな人間だろう?

双方ともシウリィ様達に似ることを願う反面、やりにくい事になりそうなので似てない事も願う心持ちだ。





  <初秀の月   *日>



新魔王様の居所が分かった。なんでも、このファグアラネルとは別の次元にいるというのだ。

こんなことは歴代初で、呼び寄せるなど初めての試み。

どのような姿で現れるのか分からないものほど怖いものはない。もしも屈強な異形な者やドラゴンなんかが現れたら、私にどうしろというのだ。

私には骨のいる毎日になりそうだ…。


あぁ書き忘れていたのでここに報告する。

私はまたしても魔王様の世話係に任命されてしまったのだ。





  <初秀の月   **日>



…なんだったんだ今日は、わけがわからない。

あれほど見た目からしてもお人よしで無防備で注意力が皆無でどじでおばかで弱いのに、魔王なんてできるのだろうか。

ましてや『人間』。

そう、召喚された新魔王は人間の少女だったのだ。

人間の上に子ども。なぜ『紅心の珠』はこれを選んだんだろう?

今まで魔王は人間以外、勇者は魔の者以外がなってきたのに。


この予想外な結果に魔の者達の中から半分以上が魔王利用計画から手をひいた。

魔王とはいえ人間の下につく。人間なんぞに頭を下げなければならない。私は別に気にしないが、彼らにはプライドが許さないのだという。

人間だから殺せばいいのだが、彼女の中に『紅心の珠』がある以上手も足も出ない。

すでに彼女は魔王。魔王殺しは大罪、万死に値する。


そんなこんなな新魔王だが、……とにかく甘すぎる。

別に食べたわけではない。そんなことしたら私はすでにいない。

彼女は彼らが待ち望んでいたとおりの、無知で、お人よしで、純粋な人間だったのだ。

急な要望や突飛な行動をするシウリィ様の世話にもてこずったが、これからはもっと大変なことになりそうだ…。




  <暑織の月   *日>



今日も魔王様は勇者の元へ向かう。そのような方なのだろうか。

魔王様が初めて勇者に対面した日に私は尋ねてみたが顔を赤くしたまま「たいしたことはないから!」「き、聞かないで…」の一点張りで何も教えてはくれなかった。

なぜ?そうまで言われたら気になってしまう


…まさか。いやそんなはずはないか。

だってシウリィ様は、仲の良かった私にさえそんなこと一言も言わなかった。つまり魔王は恋はしないということなのではないのだろうか?

『珠』争奪の発端である”あの事件”が起こってからは子を産んだ魔王はいないことだし。

むしろ私にはシウリィ様が想うお方が想像すら出来ない。


まあともかく、断片的にだが勇者のことがわかった。

男、金髪、ものぐさ、…これだけだが。

それにしてもいつ『玲心の珠』が手に入るんだろうか?

いつまでも遊んでいてはどうにもならないのに。

どうせ後で後悔するのは彼女自身なのだから、とりあえず今は放っておこう。

そしたらいつかはシウリィ様そっくりの支配が出来上がっていることだろうから…。

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