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     □その時その頃(4)

俺たち兄弟は血が繋がっているが兄貴はいわゆる<まざりもの>だ。

<まざりもの>は人間と魔の者の間に産まれてしまった者のことでその数はかなり少ないし希で珍しく、人間にも魔の者にも嫌われている。

だって人間と魔の者が結ばれるなんてありえないし、どちらの血も混ざり合っているやつなんて好かれるほうがおかしい。



人間は差別をする。

店は客が金を持たないと知るとすぐにそいつの存在を視界から消去し、貴族は相手の身分が低いと知ると急に見下し始める。

それと同様に相手が魔の者と分かるとその場で敵とみなし、恐怖で倒そうとするか逃げ出すかの始末で恋愛なんてするどころかそんな感情さえ起きないだろう。



対して魔の者は自身を高く評価する。

人間や動物など口ほどにもなく、食えるもんは喰うし、気に入らないやつはすぐ襲い、気に入ったやつはどちらにしても飽きると逃がさずに襲う。中には人の形をした魔だっているんだ。

俺は出くわしたことがないからこれは母ちゃんの母ちゃん、つまり婆ちゃんから聞いた話なんだけどな。

だから人間なんて同等なんて思ってもいないから当然恋愛感情も沸き起こらない。


まぁこんな感じで人間と魔の者で恋愛なんかする已然の問題なんだ。


だが、父ちゃんと母ちゃんは違う。

二人はちゃんと恋をして、駆け落ち結婚して、俺たちを産んで、数日後に二人仲良く逝っちまった。


ついさっき人と魔の例を出したが、あれは九割の話だ。

残りの一割はもちろん、何者にも誠実で恐れない人間、強いのに人を襲ったり人に嫌われることを恐れる魔の者。

いや、もしかしたら一割以下かもしれない。

そして、その中に含まれる父ちゃんと母ちゃんの二人が出会えたのは奇跡に近いこと。


この一割にはいるものはとても良いことかもしれないがそれは逆に危ういことなんだ。

恐れることがなく強く勇敢でも所詮は人間。魔の者に負けてしまうものが多い。

強くても人を襲わない魔の者は人間達に簡単にやられてしまう。


何度も言うが、だからこそ二人が出会ったのは本当の本当に凄いことなんだ。






*****






「…クリュウ、どうした?」

「…、昔のこと、考えてた」


兄貴もその一割の中の人間だ。いや半人間かな?兄貴の血には1/4だけ魔力がある。父ちゃんも「まざりもの」だったから。魔力はかなり弱いかもしれないがそれでも使えば効果は抜群だ。

…兄貴は気絶しちまうけど。

兄貴がもっと好戦的な性格だったらなぁ。

そんなことになったら人間である弟の自分は殺されてしまっているのかもしれないがそう思わずにはいられない。


ちなみに俺は人間の母ちゃんと父ちゃんの人間としての血を受け継いだから魔力無しのれっきとした人間だ。


「なあクリュウ、なんで父ちゃんは人間の母ちゃんを好きになったんだろうな?母ちゃんも…」

「わからない、知らない。…何度も言ったはずだ」

「俺たちを嫌わないやつ、いるのか…?」

「だからわからないって。…でも、いるんじゃねえの?かなり少ない極小のちょっとの小さくありえない確率で」

「…それは、つまり、いないってことか?」


めずらしく兄貴はくいついてくる。…子どもを前に何か思うことがあったのか?


「だから、いるんじゃねえの?って。しつこいな。まあいてもいなくても俺たちは変わらねえよ。魔の者にも人間にも好かれない兄貴に弟の俺は味方する。…これだけは絶対に変わらない」

「あぁ…。だからこそ俺はお前だけを信用する。これで、おあいこ」


そうさ、たとえ他に味方が出来たとしても、これだけは




「ち、ちちちちょっと、待ったぁー!そこの、そこのふたたたふたふたぎぎゅぁっ!」




…人の思考を邪魔しやがって、何だこの騒がしい姿を隠した正体不明のやからは。

顔はマントを被っていてよく見えないので人間か魔の者かはわからないが声からして女だろう。

いきなり出てきたくせに声は震えているし、あんなに短い言葉なのに勝手に舌を噛んで一人悶絶してやがる。わけわからん。


…まあ多分敵だなこいつは、馬鹿野郎だけど。

痛みが少しひいたらしい馬鹿女の表情はみえないけど絶対涙目だな、ありゃぁ。


「うぅ、そ、そこのお二人さん。き、聞きました、よ。あなたたちのしてることっ…」

「そんな痛そうに話されると、なんか俺らが悪もんみたいじゃん。あんたにはまだ何にもしてねえぞ」

「えっ…。ぅあぅ…」


とりあえずこいつは撒くとするか。

つーか、これだけで怯えるとかおかしいだろ。どんだけびびりなんだよ。

あんた俺らを止めに来たんじゃないのか?


「そ、それはそうなんだけど…。でも!私はもうだいじょ」

「あぁ、喋るな喋るな。これ以上噛むと舌噛み切って死ぬぞ。これは聞いた話なんだが舌を噛み切っちまうと切れた舌は喉に戻ろうとしてさらにその時の血だらけの舌はま」

「ふむうーーっ!?」


これしきの恐怖で両手で耳を塞ぎ、顔は見えにくかったがはっきりと目を瞑り歯を食い縛りはじめた大馬鹿女。

女なのにみっともないしまるであのラギデキザルみたいだ。


ラギデキザルって臆病な性格で、薄赤い甲羅で覆われていて穏やかな感じなのに、食用にされてしまう上にかなり美味しいという生き物。

さて、今のうちに逃げるとするか。


「うわっ、く、クリュウ、ま、待ってくれ!」


俺はでかい兄貴と比べて小さく小柄だからかなり足が速いほうで、一人で逃げるのなら容易いことだった。

だが、突然走りだした俺に大声をあげながら、それでも人質を大切そうに持ち、大きな音を立てながら追いかけてくる愚か者の兄貴。これじゃあ逃げてもすぐばれちまうじゃないか!


…まあ、おっちょこちょいで臆病で怖がりで馬鹿で単純なラギデキザル女にそんな心配はなしか。

顔や体つきはよく判らなかったけど足の速さは俺よりも遅いとみた。

兄貴という荷物があるがそれでも逃げ切れるはずだった……なのに。


「ま、待って!その子、知ってる子なの!いや、知らない子ならどうでもいいわけじゃないけど…。お、お願い、返して!」

「…何で目の前にいんだよ馬鹿ザル」

ちなみに勇者様、いまだに叱られ中

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