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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
最後の一手は、私のもの

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79話 優勝候補

対局室を出る。


廊下。


人の声。


駒音。


大会独特のざわめき。


遥はまだ少しだけ、ふわふわしていた。


勝った。


確かに勝った。


でも。


胸の奥が妙に静かだ。


浮かれていない。


むしろ――


落ち着いている。


その時。


奥の対局室の扉が開く。


ガラッ。


数人の棋士が出てくる。


その中の一人。


背が高い。


細い。


静かな目。


遥の足が止まる。


――渦間日向。


対局が終わったらしい。


日向は誰とも話さない。


静かに歩く。


ふと。


視線が遥に止まる。


ほんの一瞬。


それだけ。


でも。


遥の背筋が伸びる。


日向は何も言わない。


ただ。


遥の手首を見る。


ミサンガ。


それから。


ほんの少しだけ口元が緩む。


それだけで通り過ぎる。


遥は動けない。


高槻が小さく呟く。


「見られたな」


遥はまだ廊下を見ている。


「……うん」


高槻は腕を組む。


「お前、知らんやろ」


「何を」


「さっきの相手」


遥は振り向く。


「三段昇格戦の優勝候補や」


心臓が一拍遅れる。


「……は?」


高槻は笑う。


「その優勝候補、今日お前に負けた」


遥は言葉を失う。


高槻は続ける。


「つまりな」


少し真面目な顔になる。


「今日からお前、研究されるぞ」


遥の胸がドクンと鳴る。


研究。


つまり。


弱点を全部見られる。


全部狙われる。


高槻は軽く指で盤を打つ真似をする。


「次はもっと強いの来る」


一拍。


「逃げんなよ」


遥は廊下の奥を見る。


日向がもう見えない。


でも。


あの一瞬の視線。


それが胸に残っている。


遥は手首のミサンガを軽く握る。


「逃げへん」


高槻がニヤッと笑う。


「そらそうや」


遥は静かに言う。


「だって」


深呼吸。


そして。


「まだ、俺の将棋…始まったばっかやから」


高槻が笑う。


「ええ顔や」


遠くでアナウンス。


「次の対局者、対局室へ」


三段昇格戦。


地獄のリーグ。


ここで多くが壊れる。


でも。


遥はもう知っている。


真似じゃない。


借り物じゃない。


自分の手で戦える。


そして。


廊下の奥。


別の対局室。


そこでは――


黒田律が煙草を咥えながら


棋譜を見て


小さく笑っていた。


「へえ」


灰を落とす。


「浮いたまま、勝ったか」


盤面を見る。


そして呟く。


「面白くなってきたな」


その視線の先。


遥の名前。


そして。


もう一つの名前。


相川恒一。


三人の線が、


ゆっくりと


交わり始めていた。

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