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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
新しい風

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71話 熱と煽り

フラッシュが焚かれる。


無数のカメラ。


マイクが並ぶ。


「渦間新タイトル、おめでとうございます」


日向は一礼する。


表情は穏やか。


だが、目は少しだけ違う。



「今回の勝因は?」


「特にありません」


淡々と答える。


会場が少し笑う。


記者が続ける。


「黒田八段との決勝、かなりの激戦でした。何を感じましたか?」


日向は、ほんの少し考える。


そして言う。


「楽しかったです」


空気が変わる。


今までの日向は、


“削る将棋”


“静かな殺気”


そう評されてきた。


だが今の言葉は違う。



「楽しい、というのは?」


別の記者が食いつく。


日向は視線を少し上げる。


「やっと、将棋が楽しくなってきました」


ざわめき。


タイトルを取って、


ようやく楽しくなった?


傲慢にも聞こえる。


だが日向の声は静かだ。


嘘がない。



「今後の目標は?」


日向は、ほんの一瞬だけ視線を外す。


誰かを探すように。


記者席の奥。


別室のモニターの先。


見ているはずの誰か。


そして言う。


「まだ強くなります」


間。


「後ろにいる人たちが、追いついてくるので」


記者が反応する。


「後輩棋士のことですか?」


日向は少しだけ笑う。


「はい」


それだけ。


だが十分だ。



別室。


モニターを見ている恒一。


その言葉を聞いて、


わずかに口元が動く。


「煽るな」


小さく。


でも目は熱い。


余裕も、自信も削られない。


削られるのは――


甘さだけ。



遥は固まっている。


「……追いつくって」


胸が熱い。


自分はまだ弟子ごっこだ。


未完成。


でも。


追いつく前提で話している。


日向は。


自分を。


その事実が、恐ろしくて、嬉しい。



記者会見は続く。


最後の質問。


「タイトルホルダーとして、若手に一言ありますか?」


日向は即答しない。


少し考える。


そして言う。


「楽しくなってからが、本番です」


静まり返る。


意味が分からない記者もいる。


だが、


ある二人には、刺さる。



会見終了。


立ち上がる日向。


袖口を整えながら、


小さく呟く。


「さあ、ここからだ」



その夜。


恒一は盤を並べる。


ゼロから。


もう一度。


遥も棋譜を開く。


真似ではなく、


問いとして。


律は煙草に火をつける。


煙の向こうで笑う。


「ええ煽りや」

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