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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
第一章 ライバル

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6話 追いつく評価

最初は、偶然だと思っていた。


 相川恒一の名前を、日向 湊は対局表で見つけたとき、ほんの一瞬だけ目を止めただけだった。

 派手な戦績でもなければ、話題性もない。


 ただ、負けていない。


 それだけだった。


 「また勝ってる……?」


 控室のモニターに映る結果を見て、日向は眉をひそめた。

 五連勝。

 しかも、相手は格下ではない。


 将棋内容を確認する。


 ――地味だ。


 切れ味がない。

 読みの深さも、表に出てこない。


 それなのに、終局図だけを見ると、必ず相川が立っている。


 「なんで?」


 日向は、無意識に呟いていた。


 自分なら、あの局面で踏み込む。

 勝ちに行く。

 観客を沸かせる一手を選ぶ。


 相川は、そうしない。


 なのに、勝つ。


 不快だった。


 対局場の後方、観戦席に座る佐伯の姿が目に入った。

 相川の師匠。

 表情は厳しい。


 佐伯は、盤面から目を離さない。

 勝っている局面でも、安心した様子を見せない。


 まるで、何かが起こるのを待っているようだった。


 その日の対局も、相川は勝った。


 終盤、相手が無理に仕掛け、形勢を崩した。

 相川は受け、逃げ、残った。


 詰ませてはいない。

 だが、相手は投了した。


 「……怖いな」


 日向は、はっきりとそう思った。


 鋭さがないのに、逃げ場がない。

 気づいたときには、もう遅い。


 感想戦で、解説者が言葉に詰まっている。


 「評価値は……五分を行ったり来たりですね」


 「しかし、結果は相川九段の勝ちです」


 その歯切れの悪さが、逆に目立った。


 数日後、ネット記事が出た。


 ――静かに勝ち続ける棋士・相川恒一

 ――評価されない将棋の正体


 ようやく、言葉が追いつき始めた。


 佐伯は、記事を読まずにスマートフォンを伏せた。


 「遅い」


 誰に向けた言葉でもない。


 彼は、ずっと前から知っていた。

 恒一が、勝ち方を隠していることを。


 いや、隠しているつもりすらないことを。


 ただ、出す必要がないだけ。


 勝てる局で、最短を選ばない。

 相手が壊れるまで、待つ。


 それは才能ではない。

 癖でもない。


 ――欲の形だ。


 盤の前で、相川恒一はいつも同じ顔をしている。


 欲がないように見える。

 だが、本当は誰よりも多くを欲し、

 誰よりも我慢できる。


 日向は、その背中を見ながら思った。


 「……追いついたのは、俺たちの方か」


 相川は、振り向かない。


 次の一局へ、もう意識は向いていた。


 世間の評価が追いついたことなど、

 彼自身は、まだ知らない。

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