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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
新しい風

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64話 研究会

パチン。


恒一の初手。


日向がわずかに目を上げる。


違う。


いつもの鋭さがない。


いや、違う。


削いでいる。


無駄を。


色気を。


読みの深さを誇るような指し回しを。


恒一は静かに言う。


「今日、変える」


日向は何も言わない。


盤面が進む。


恒一はいつもなら踏み込む局面で踏み込まない。


評価値がどうとか、

勝率がどうとか、

そんな発想を切り落としている。


ただ、


「この一手は、美しいか?」


それだけで選んでいる。


日向は気づく。


これは迷いではない。


実験だ。


十数手。


日向がわずかに優勢になる。


恒一は焦らない。


むしろ楽しそうだ。


「へえ」


小さく笑う。


「こんな形になるのか」


まるで初めて将棋を触った少年のように。


日向が言う。


「勝ちにいかないのか」


恒一は首を振る。


「勝つためにやってる」


「でも方法を変える」


一手ごとに確かめるように置く。


「俺、ちょっと賢くなりすぎた」


日向の手が止まる。


恒一は続ける。


「効率とか、最善とか」


「読み切れる範囲で組み立ててた」


「それ、強いけど」


少し間。


「息が詰まる」


日向は静かに駒を置く。


「律のせいか」


「うん」


即答。


「削られて気づいた」


「俺、完成形を守ろうとしてた」


盤を見つめる。


「完成形なんてないのにな」


日向はわずかに笑う。


「ゼロからか」


「うん」


恒一は言う。


「一回、弱くなる」


その言葉に迷いはない。


「読みの量も減らす」


「直感でいく」


「おじいちゃんと指してた頃みたいに」


その瞬間。


日向は初めて恒一の“人間らしさ”を見た気がした。


盤上は荒れ始める。


形が崩れる。


互いに精度が落ちる。


でも――


恒一は楽しそうだ。


パチン。


大胆な飛車。


日向が眉を動かす。


「それは甘い」


「知ってる」


笑う。


「でも今はそれでいい」


数手後。


日向が寄せ切る。


「負け」


恒一が言う。


すぐに。


悔しさはある。


でも、どこか軽い。


「どうだ」


日向が聞く。


恒一は少し考える。


それから言う。


「楽しい」


静かに。


本当に。


「負けても、楽しい」


日向は何も言わない。


恒一は駒を集めながら言う。


「たぶんな」


「ここから、もう一段上に行く」


目が澄んでいる。


以前の鋭さとは違う。


少し柔らかい光。


「完成した天才じゃなくて」


「壊れ続ける天才になる」


部屋の空気が少し変わる。


日向は盤をもう一度整える。


「じゃあ、もう一局」


恒一は笑う。


「うん」


パチン。


新しい音。


ゼロからの将棋が、始まる。

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