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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
新しい風

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53話 対局前

都内対局室。


黒田律は廊下の窓際に立っていた。


ガラスに自分の顔がうっすら映る。


三十代後半。


若くはない。


だが、老けてもいない。


煙草は吸わない。


今日は吸わない。


肺を使いたくない。


代わりに、ゆっくり息を吐く。


――奨励会の頃の俺とは、全然違う。


あの頃は、天才を待っていた。


“今日は来るかもしれない”

そんな日を。


だが来なかった。


だから決めた。


天才を待つのをやめた。


俺は天才じゃない。


だったら、将棋一本でいく。


他を持たない。


逃げ道を消す。


それは努力じゃない。


努力だと思った瞬間、苦しくなる。


俺は夢中なだけだ。


頑張っている、と思っているうちはプロじゃない。


夢中で呼吸しているだけ。


将棋しかない。


将棋でしか、自分を表現できない。


それでいい。


廊下の奥から足音。


一定のリズム。


無駄がない。


振り返る。


相川恒一。


八段。


視線が合う。


恒一は軽く会釈する。


律も返す。


近づく。


距離は数歩。


律が先に口を開く。


「久しぶりだな、天才君」


恒一は眉をわずかに動かす。


「その呼び方、やめません?」


律は笑う。


「無理。お前は本物だから」


恒一は否定しない。


肯定もしない。


ただ言う。


「今日は煙草の匂いしませんね」


「気合い入れてんだよ」


「珍しい」


一瞬の沈黙。


律は真っ直ぐ見る。


「尊敬してるよ」


恒一の目がわずかに揺れる。


「俺が出来なかった生き方だ」


恒一は視線を外す。


「勝手に決めないでください」


「決めてねえよ。見てるだけだ」


係員が呼ぶ。


「お時間です」


二人は歩く。


並んで。


無言で。


だが空気は重くない。


張っている。

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