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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
新しい風

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50話 過去

夜の薄暗い部屋。

カーテンの隙間から、街灯の光が細く差し込む。


黒田律は一枚の棋譜を前に、無造作に椅子に腰かけていた。

ペットボトルの水は隣に置かれ、手にはビール缶。


――今日も負けたか。


思わず、吐き出すように息を漏らす。

天才の日と凡才の日の差は、まるで水と油。

棋譜を見返すたびに、悔しさがじわじわと染み込む。


律は缶を傾け、ひと口。

次にタバコを取り出す。

火をつけ、煙をゆっくり口に含む。

吐き出す。

赤い火の先が揺れる。

その灯りだけが、静かな部屋で生きているように見えた。


「……俺は、何をしてるんだ」


誰に言うでもなく呟く。

勝負は波だ。

今日は凡才の日。

だが、昨日までの自分の勝ちは忘れられない。

この揺れが、律の天才と凡才を分けているのだ。


部屋の壁には、昔の対局写真や手書きの棋譜。

祖父から受け継いだ染色の道具も、片隅にある。

勝てば勝ち誇る日も、負ければ無力を噛みしめる夜も、すべて律の一部だった。


年齢制限の噂が耳に届く。

――もうすぐ、奨励会を去らなければならないかもしれない。


頭では分かっている。

だが、胸の奥で湧き上がる悔しさが、足を止めさせる。

逃げたくない、終わりたくない。


律はタバコの煙を吸い込む。

ビールを傾ける。

そしてまた、棋譜に目を落とした。


負けた夜の、ただ一人の習慣。

煙と泡の中で、黒田律はまだ、将棋の未来を夢見ていた。

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