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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
第四章 虚しさと物足りなさ

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49話 黒田律登場

遠く。


都内の対局室。


控室の長机。


新聞が、無造作に広げられている。


その中央。


相川恒一 八段。


盤面の検討を終え、ペットボトルの水を一口飲む。


誰かが言う。


「見ました? 渦間六段」


軽い声。


恒一は新聞をめくる。


見出し。


【渦間日向、復帰白星】


ふ、と鼻で息を漏らす。


驚きはない。


予想外でもない。


「終わってなかったか」


独り言のように。


誰も拾わない。


記者が近づく。


小さな囲み。


マイクもない。


「相川八段、渦間六段の復帰について一言お願いします」


恒一は少しだけ考える。


盤面を見るときの顔。


冷静。


だがその目の奥に、わずかな熱。


「そうですね」


間。


「最近やたら静かで、タバコ臭い人いますよね」


記者が一瞬固まる。


「え?」


恒一は笑わない。


「面白くなりそうです」


それだけ。


それ以上は言わない。



場面が変わる。


薄暗い喫煙所。


蛍光灯が一つ、ちらつく。


煙が、ゆっくりと天井に溶けていく。


火の赤。


指先。


深く吸わない。


煙を口の中で転がすだけ。


吐き出す。


目は遠く。


盤面を見ている。


今日の対局の、まだ来ていない終盤。


誰もいない。


だが、気配はある。


足音。


若手棋士がちらりと覗く。


「あ……」


声をかけない。


今日は違う。


普段の律じゃない。


煙草を灰皿に押し付ける。


最後まで吸わない。


立ち上がる。


ポケットに手。


廊下を歩く。


誰かが小声で言う。


「今日、来てるな」


画面が切り替わる。


対局カード。


【相川恒一 八段 vs 黒田律 八段】


静かな嵐の予感。


そして遠く別の場所。


日向は、ネット中継の一覧を眺める。


そのカードに目が止まる。


一瞬。


視線が動かない。


小さく息を吐く。


「なるほど」


将棋界は、もう二人だけの世界じゃない。


静かに、風が吹き始めている。

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