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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
第二章 一年後

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28話 ニュース速報

夜の川沿いは、人が少なかった。

 街灯の間隔に合わせて、日向の足音が規則的に跳ねる。


 呼吸は落ち着いている。

 考えは、落ち着いていない。


 佐伯師匠の声が、まだ耳の奥に残っている。


もう一度指せると思ってるうちは、指せん。


 言葉の意味は分かる。

 分かったまま、どうすればいいかは分からない。


 橋を越えた先、商業施設の前に大きなスクリーンがある。

 普段は広告かニュースが流れているだけの、ただの背景。


 今夜も、何気なく視界に入っただけだった。


 ――ニュース速報。


 赤い帯が画面の下を走る。


 日向は走りながら、無意識に視線を上げた。

 自分には関係ないはずの世界の文字。


 だが、そこで一つの名前が、画面の中央に大きく出た。


恒一、八段昇段。


 一瞬、足が止まった。


 スクリーンは淡々と続ける。

 対局映像。控室の写真。コメント。


『本日行われた公式戦で勝利し、規定勝ち数に到達――』


 音は届かない。

 それでも、文字だけで十分だった。


 ポン、と。

 ただ名前が置かれただけのように見えた。


 なのに、胸の奥で何かが弾ける。


 走る速度が、勝手に上がった。

 息が荒くなる。足が前へ出る。


 ――同じだ。

 同じ日に、同じように勝ち上がって、

 同じように名前だけがニュースに流れている。


 でも、恒一は前に行っている。

 段位が変わるという事実が、そう言っている。


 スクリーンの映像が切り替わる。

 別の話題。別の名前。


 恒一の文字は、もうどこにもない。


 日向は、しばらくその場に立っていた。

 汗が冷えて、背中に張りつく。


 追いかけたいわけじゃない。

 追いつきたいわけでもない。


 ただ、

 同じ場所に立っていたはずの人間が、もう別の地平にいる

 その事実だけが、やけに重かった。


 日向は、もう一度走り出す。

 今度は、さっきよりも速く。


 川の向こうに、街の光が流れていく。

 スクリーンは見えなくなった。


 それでも、

 恒一の名前だけが、

 暗闇の中で、くっきりと浮かんでいた。

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