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ひらめきで勝つ天才と、時間で指す棋士―同門公式戦を境に成長した日向と、静かにタイトルだけを見続けた恒一  作者: 夜明けの語り手
第二章 一年後

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21話 盤を閉じるだけの夜

夜は静かだった。

窓の外では、車の音がときどき遠くを通り過ぎる。


日向は部屋の灯りを一つだけつけ、

押し入れから盤を出した。


畳の上に置く。

駒袋をほどく。


並べる前に、一瞬だけ手が止まった。


――終わらせられない将棋は、教えることもできない。


佐伯師匠の声が、

思い出したというより、そこにあった。


日向は何も答えなかった。

答える必要がないことを、もう知っていた。


駒を並べる。

初形ではない。

自然と、あの同門公式戦の局面になる。


序盤。

中盤。

指は迷わない。


自分の手も、相手の手も、

もう何度もなぞった道だった。


盤の中央に、例の形が現れる。

意味が生まれる直前で、

すべてが止まった場所。


日向は、駒を一枚持ち上げた。


指せる。

今なら、確実に。


だが、そのまま、盤に戻した。


――盤の外に立つのも、ひとつの打ち方だ。


佐伯の言葉が、

逃げ道ではなく、支えとしてそこにある。


日向は、深く息を吸った。

そして、駒袋を閉じる。


盤をたたみ、立てかける。


音は、ほとんどしなかった。


部屋に残ったのは、

指さなかったという事実だけ。


それでよかった。


まだ終わっていない。

だが、もう止まってもいない。


日向は灯りを消した。


暗闇の中で、

あの局面だけが、静かに息をしていた。


終わらせる日は、来る。

今夜ではないだけだ。


日向は、何も決めないまま、布団に入った。

それで、この夜は十分だった。

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