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蒐集家という名の棋士について  作者: 夜明けの語り手
第二章 一年後

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19/39

18話 もう、そこにはいない

テレビはつけっぱなしだった。

音量は小さく、画面の明るさだけが部屋に残っている。


朝の将棋ニュースは、だいたい決まった順番で流れる。

タイトル戦の結果、次局の予定、そして若手の連勝記録。


「――昨日行われたB級順位戦で、恒一七段が勝利し、これで今期七連勝です」


名前が出た瞬間、日向の指が止まった。

リモコンを握ったまま、押すでもなく、離すでもない。


画面には、盤を前にした恒一の写真が映る。

いつも通りの表情だった。

勝った顔でも、負けた顔でもない。

ただ、そこにいるだけの顔。


「安定感がありますね。派手さはありませんが、内容がいい」


解説者の声は軽い。

褒めているのに、どこか通り過ぎていく。


安定感。

その言葉が、日向の胸に引っかかる。


――違う。


あの将棋は、安定なんかじゃなかった。

崩れもしなかったが、固まりもしなかった。

ただ、こちらの足場だけを、静かに削ってきた。


ニュースは次の話題へ移る。

恒一の名前は、もう出てこない。


日向はテレビを消さなかった。

消せなかった、が正しい。


テーブルの端に置かれたノートには、

一年前の同門公式戦のメモが挟まっている。

何度も見返し、何度も書き直した跡。


あの一局以来、

日向は負けていないわけではなかったし、

勝てていないわけでもなかった。


結果は出ている。

評価も落ちていない。


それでも、

あの対局を超える将棋だけが、指せない。


「……まだ、終わってない」


誰に言うでもなく、日向は呟いた。


画面が暗転し、部屋が静かになる。

だが、頭の中では、あの盤面だけが続いている。


あの数手前。

決着がつく、ほんの少し前で止まった時間。


日向は知っている。

恒一はもう、そこにいない。

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