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蒐集家という名の棋士について  作者: 夜明けの語り手
第一章 ライバル

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10話 避けられない名前

対局表が貼り出されたのは、朝だった。


 まだ人の少ない会館の廊下で、紙の前に立ち止まる者がいる。


 相川恒一。

 日向 湊。


 二つの名前が、同じ列に並んでいた。


 「……来たか」


 誰かが、そう呟いた。


 驚きはない。

 むしろ、遅かったくらいだ。


 二人は、勝っていた。


 派手さは違う。

 注目のされ方も違う。


 だが、結果だけは同じ方向に積み上がっていた。


 同門対決――

 そう呼ばれるのは、自然な流れだった。


 控室で、日向は深く息を吐く。


 「やっとだな」


 誰に言うでもない。


 負けて、崩れて、道場に立った日から、

 この瞬間だけを見てきた。


 相川恒一。


 追いつきたい名前。

 越えたい背中。


 一方、恒一は静かだった。


 対局表を見ても、表情は変わらない。


 相手が誰であれ、

 一局であることに違いはない。


 だが――


 心の奥で、微かな波が立つ。


 日向の将棋は、変わった。


 速さと長考。

 リズムを奪う戦法。


 道場で、何度も体感している。


 避けられない。


 それを、恒一は知っていた。


 佐伯は、二人を同時に見ていた。


 「勝ったな、お前たちは」


 賞賛ではない。


 事実確認だ。


 「勝っている限り、当たる」


 逃げ道はない。


 同門だからこそ、手の内は知っている。

 知っているからこそ、怖い。


 メディアが騒ぎ始める。


 ――静と動の対決

 ――同じ師に学んだ二人の現在地


 だが、本質は違う。


 これは因縁ではない。

 ドラマでもない。


 勝ち続けた者同士が、同じ場所に立っただけ。


 対局前夜、日向は眠れなかった。


 何度も盤を並べる。


 あの一手。

 あの間。


 崩せる。

 今なら。


 恒一は、眠った。


 深く、何も考えずに。


 朝になれば、

 盤の前で、すべてが揃うと知っているからだ。


 二人は、同じ場所へ向かう。


 互いが勝ってきたからこそ、

 この一局は生まれた。


 そして――

 どちらかが、止まる。

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