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異世界介護士 スキル恩返しで生きていく  作者: くりょ


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5/11

五話 介護士とはなんですか?

食堂の空気は、再び凍りついたように静まり返っていた。

その沈黙を破ったのは、カルネの震える息だった。


彼女はゆっくりと息を吸い込み、やわらかながらも力のこもった声で言った。


「リオン……介護士とは、その……どういうお仕事なのですか?」


俺は姿勢を正し、母の瞳をまっすぐに見据えて答えた。


「介護士とは――弱き者のそばに立ち、日々の暮らしを支える者です。

剣も魔法も使いません。

けれど、心と手で人を助けます。


食事を手伝い、体を清め、眠るまで寄り添う。

倒れた者には手を差し伸べ、

涙する者には笑顔を返す。


それは、人の命を延ばす術ではなく、

“人が生きる意味”を取り戻すための術です。


――それが、介護士です。お母様。」


その言葉が落ちた瞬間、食堂の空気がわずかに揺れた。

カルネの瞳が細かく震え、唇がかすかに動いた。

だが最初に声を上げたのは、兄レオンだった。


「……立派なことを言うな。

だが、貴族のおまえがやるような仕事じゃないだろう。」


俺はすぐに返した。


「貴族も庶民も関係ありません。

人の生き方を決めるのは身分ではなく、心です。

身分で人を見下す――それこそ“生き方の恥”です。」


その言葉に、父の眉がぴくりと動いた。

そして静かな怒気が、一気に爆発する。


「よかろう!! よくぞ言った!!

ならば出ていけ!!」


父は立ち上がり、テーブルを拳で叩きつけた。


「今日からおまえはデアハートの一族ではない!!

好きにするがいい! その“介護士”とやらを、思う存分やってみろ!!」


その言葉は宣告のように響き、

食堂の空気は一瞬で凍りついた。


――それでも俺は、背筋を伸ばしていた。

静かに、だが確かな決意を胸に。


最初に反応したのは、カルネだった。


「あなた!! 今なんとおっしゃいました!?

そんなこと、私は絶対に許しません!!」


しかし、レオンが静かに口を開く。


「母上。ここまで言ったのです。

彼のやりたいことをやらせてあげるのも、親の務めでしょう。

父上は間違っておられません。」


その言葉にカルネは顔を青ざめさせる。

ニルネは腕を組み、俺を見つめながら微笑んだ。


「ふぅん……少しは男らしいことを言えるようになったのね。」


そして、なぜか一番怯えたように震えていたのは妹のリリナだった。


「そ……そんな……冗談ですよね?

お父様……レオンお兄様……

リオン……あなた、本気なの……?」


俺は静かに微笑んで答えた。


「……すまなかった。

こんな出来損ないで。

でも、もう大丈夫だ。

リリナ……おまえも、きっとせいせいするだろう。

だから、笑ってくれ。」


その言葉を聞いた瞬間、カルネは崩れ落ちた。


「やめて……リオン!!

あなたまでそんなことを言わないで!!」


父は嘲るように笑った。


「よかろう。

それなら遠く離れた場所でやれ。

二度とこの屋敷には戻るな!!」


カルネは必死に叫ぶ。


「無理よ!!

リオンをひとりでなんて行かせない!!

せめて、私だけでも――!」


だが、その会話に割って入ったのは意外な人物だった。


低く落ち着いた声が響く。


「――では、皆様。

わたくしがリオンお坊っちゃまにお供いたします。」


全員が一斉に声の主を見る。

それは――執事ギュスターだった。


「よろしいですね?」


その言葉に、父とカルネを除いた全員が息をのむ。

ギュスター――

彼はただの執事ではなかった。

デアハート家の中でも、誰も逆らえぬほどの権威と力を持つ人物だった。


「じいや……いや、ギュスター……ありがとう。

でも、じいやはここに残らないと……」


ギュスターは首を横に振り、穏やかに言った。


「いいえ。

わたくしは、どこまでもリオンお坊っちゃまの執事です。

必ずおそばに仕えます。」


「……好きにしろ。」

父は短く言い放った。


カルネは少しだけ安堵の表情を浮かべ、涙を拭った。


「ギュスター……

あなたなら……リオンを守ってくれるでしょう……お願いです……」


ギュスターは深く一礼し、静かに答えた。


「――必ず、お守りいたします。」


その言葉は、

家を追われた少年の心に、

再び小さな光を灯した。荷造りを終え、

俺はゆっくりと屋敷の玄関へと向かった。


重い扉の前に立つと、

そこには思いもよらぬ二人の姿があった――

母カルネ、そして妹リリナ。


カルネはハンカチを握りしめながら、

涙をこらえるように微笑んでいた。


「リオン……こんなに急に行ってしまうなんて……

いいのよ、すぐに帰ってきて。

帰りたいときは、いつでも帰ってきなさい……ね?」


その声が胸の奥を締めつける。

何も言えずに立ち尽くす俺の前で、

リリナが頬をふくらませ、目に涙をためながら叫んだ。


「リオンのばか!!

ちょっとからかっただけなのに!!

ほんとに出ていくなんて!!」


「え……? リリナ……君、僕のこと嫌いなんじゃ……」


リリナは涙をぬぐい、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「嫌いよ!! でも――遠くに行かないでよ!!」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が温かくなった。

ああ、彼女はただ――かまってほしかっただけなのだと。


俺はそっと手を伸ばし、

リリナの頭をやさしく撫でた。


「リリナ……ごめんね。

ろくでもないお兄ちゃんで。

でも……そう言ってくれて、嬉しいよ。」


そのまま手を離すと、

リリナは声を上げて泣き出し、

母カルネの胸にしがみついた。


泣きながら叫ぶ彼女の声が、

背を向けた俺の耳に、いつまでも残っていた。「お母様……!

リオンを止めてよ……うぅ、うううう……!」


リリナは泣きじゃくりながら、カルネの服の裾をぎゅっと握りしめていた。

その小さな手が震えている。


カルネはそんな娘の頭を、やさしく撫でた。

そして、静かに微笑む。


「リオンは……きっと立派になって帰ってきます。

だって――あの子は、とても優しい子ですもの……」


その言葉には、母としての祈りと信じる強さが込められていた。

リリナは涙に濡れた顔でうつむき、

母の胸に顔を埋めた。


その少し後ろで、ギュスターが一歩前へ出て、

深く、深く頭を下げた。


「どうかご安心ください。

このじいやが――お坊っちゃまを必ずお守りいたします。」


その低く静かな声に、

カルネとリリナの肩の震えが、ほんの少しだけ止まる。


ふたりは、涙ににじむ視界の中で、

去りゆくリオンとギュスターの背中を――

ただ、静かに見送った。

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