ゆらぎ始める“いつもの2人”
春の光が校庭の桜を淡く染める頃、真哉はいつものように凛音と並んで登校していた。二人は小学校からずっと一緒で、道の角を曲がるたびに、自然と肩が触れ合う距離になる。
「ねぇ、真哉。昨日の夜って、雨降ったんだっけ?」凛音が聞く。
「えっと、少し降ったみたい。でもすぐやんだよ」真哉は答え、手に持った鞄のベルトをぎゅっと握る。
凛音は笑いながら肩をすくめる。「相変わらず、天気の話も地味ね」
二人にとって、こうした何気ない会話は当たり前だった。だが最近、真哉の胸の奥には、言葉にできないもどかしさが広がる。凛音の笑顔を見るたびに、なぜか心がざわつく。これは、友情なのか、それとも……。
教室に入ると、早速クラスメイトが声をかけてきた。
「お、今日も二人セットで登場か!」
「ほんと、お似合いカップルだな!」
真哉は軽く会釈して笑う。凛音は顔を赤くしながらも、ふざけて「うるさい!」と返す。二人の間に、いつもの空気が流れる。しかし、その“いつもの空気”の中で、真哉だけが少しだけ違和感を覚えていた。
昼休み、二人は教室の隅で弁当を広げる。
「ねぇ、真哉。最近なんか変じゃない?」凛音の声は真剣だ。
真哉は箸を止め、弁当箱の中を見つめる。
「変なことは……ないと思うけど」
「ふーん、そう……?」凛音は口元をゆがめ、少し寂しそうな目をする。
その時、友達の佐藤が近づいてきて、凛音に向かって声をかける。
「凛音、今日の体育、楽しみだな!」
凛音は元気よく返す。「うん、楽しみ!」
真哉は横で静かに見守る。友達と笑う凛音を見ると、安心する反面、自分の気持ちに戸惑いを覚える。
放課後、校門の外で二人は立ち止まる。春風が吹き、桜の花びらが舞う。
「明日からクラス替えだね」凛音が言う。
「うん……」真哉は小さく頷く。
その瞬間、校門の向こうから、背筋を伸ばした転校生が歩いてくる。凛音は目を見開く。
「……あの子、誰?」
真哉も自然と視線を向ける。都会的な雰囲気で、歩く姿に自信がある。何かが、これまでの“いつもの日常”を少しずつ変えていく予感がした。
二人は無意識に少し距離を詰める。凛音の手が真哉の腕に触れる。真哉は一瞬ドキリとするが、それが何の感情かはまだ分からなかった。
桜の花びらが舞い、夕日に照らされた校庭は、これまでの安心感と、これから起こる変化への不安が混ざり合った微妙な色をしていた。




