表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第4話

「ふぁ~あ」


太陽がゆっくりと沈んでいく。

夢なのに時間まで実装されているとは。

不思議でもあるし、日が沈んでまた昇れば夢から覚めるのではないかという気もする。


その前に覚める可能性もあるが、この状況が面白い今、夢から覚めたくない。


「何より、大学の講義開始が目前だからな…」


勉強とHoWのどちらかを選べと言われれば、当然HoWだろう。


「まあ、夢の外のことは夢の外で考えるとして!」


玉座に座った俺は、頬杖をつきながら目の前に浮かんだ情報ウィンドウを眺めた。


俺の前に浮かんでいるのは二つの情報ウィンドウ。

一つは俺のもので、もう一つはレモトリアのものだ。


今、レモトリアにはこの森にいるクリープをすべて倒すよう命じている状態なので、どんどんレベルが上がっている。

俺のレベルは56。

しかし、不思議なことに実際にクリープを倒したレモトリアのレベルは30だ。

なぜこれほど差が開いたのか、まだ理解できない。


レベルの高いプレイヤーが低いプレイヤーを代わりに育ててやることを、俗に「パワレベ」と呼ぶ。

今の俺の状況で言えば、レモトリアが俺の代わりにクリープを倒してくれているのだから、俺がパワレベされていると言っても過言ではない。

だが、高レベルが低レベルをパワレベ?

そもそも、なぜ俺の方がレモトリアよりレベルが高いのだろうか。


クリープを倒したのは俺ではなく、レモトリアなのに。

経験値を多くもらえるとしたら、当然レモトリアがもらうべきなのに、今の経験値の上昇具合を見ると、経験値を100と仮定すれば、俺が70、レモトトリアが30%の経験値を得ている。


「何か設定でもされてるのか?」


これについては特にティップやチュートリアルが出てこないところを見ると、どうやらこのまま進めるしかないようだが…。


「英雄のレベル上げ、大変そうだな…」


俺が70%も持っていくのでは、スキルを4つ覚える100レベルまでは、レベルアップがかなりきつそうだ。


「それはさておき…。このステータス…」


俺の情報にあるステータスには、上げ下げできる矢印ボタンがある。

しかし、レモトリアのステータスには、上げ下げできる矢印ボタンがない。


ゲームの中では、英雄がレベルアップすると基礎的なステータスはレベルに応じて上がるが、分配可能なステータスがあり、どの能力値を集中的に上げるか選べるようになっていた。


レモトリアのスキルは魔法ダメージが中心なので、魔法使いのように知力に全てのステータスを注ぎ込むつもりだったが、どうやらレベルアップすると基礎ステータスだけでなく、分配可能なステータスもランダムに上がっていくようだ。


「ステータスの振り方を間違えて、ゴミキャラになるんじゃないだろうな…」


少し心配だ。

レベルが上がった英雄が死んで、再び召喚することになると、召喚した英雄の数に応じて追加される資源だけでなく、上げたレベルによっても追加資源が消費されるため、高レベルの英雄が死んだ場合、そのゲーム内で再び召喚できなくなることもある。


まだレモトリアが30レベルだから大丈夫だが、レベルが100を超えた瞬間、幾何級数的に資源が必要になるので、それが心配だ。


「まあ、あんな奴が死ぬとは思えないけどな…」


目の前に見えるレモトリアの視界。

冗談じゃない。

1レベルで使った最初のスキル「ジャッジメント・スピア」だけでなく、新しいスキル「ウィングス・オブ・レトリビューション(懲罰の翼)」を覚えたのだが、強力な突風と共に竜巻がクリープを襲うと、クリープたちは攻撃もできずにそのまま地面に叩きつけられて死んでいく。


「勝手にうまくやってるようだし…」


ひとまず、上げられないレモトリアのステータスは無視して、俺のステータスを考えなければならない。


「俺のステータスはどう上げるか…」


1レベルあたり分配可能なステータスは5。

合計280という数の能力値を上げられる。


「何を重点的に上げるべきか…」


各ステータスごとに付加される能力値は全て違う。

筋力は力重視のスキルと体力、抵抗力が上がり、知力は魔法重視のスキルとマナ、魔法抵抗力が上がる。

敏捷は敏捷重視のスキルと回避力、攻撃速度が上がり、幸運は作業や交渉用の英雄のステータスで、資源の大量採集や集落の発見、交渉確率など、確率システムの全般的な確率上昇を保証する。

その他にも、体力や知恵など、HPとMPを大量に上げられるステータスもある。


「うーん…」


ゲームの中では、HPやMPだけが上がる体力や知恵は振らない。

そもそも筋力や知力を上げるだけで、二つが同時に上がるだけでなく抵抗力まで上がるのだから、それは当然のこと。

もちろん、タンカー型の英雄は上げることもあるが、タンカー型の英雄はあまり採用されないので、論外とする。


「結局、俺も四つのステータスのうち一つに全振りするしかないってことか…」


今の俺には使用可能なスキルもない。

そもそも、俺自身が英雄のようにステータスを持っているなんて。


「何を上げればいいのか、見当もつかないな」


しばらく悩んだ俺は、そのまま自分の情報を閉じて玉座の背もたれに寄りかかった。

どうせ目が覚めれば消える世界だ。

ここで悩んだところで、何になるというのか。


「しかし…夢の中でも悩めるもんだな」


明晰夢というやつだ。

夢の中で夢だと気づき、思ったことを自由にできるようになること。

だが、もしこれが明晰夢だとしたら、俺が知っているものとは少し違う。


まるで現実のような感覚と感触。

人々の表情も生き生きしているし、レモトリアが使うスキルのようなものも、まるで本物を見ているような感じがする。


「これが本当に夢じゃなくて、俺がHoWの世界に来たんだとしたら…?」


もしそうだとしたら、かなり頭が痛くなる。


「いや、考えるのはやめよう」


夢の中で眠れば、さらに深い眠りにつくだろう。

深い眠りにつけば、夢が消えるのは当然のこと。


「そのためにも!」


正面に手を伸ばした。

すると、ワインボトルが一本、俺の手に現れ、掴まれる。


「ワインでも飲んで、寝るか~」


ポンッ!


コルク栓を力を込めて抜くと、軽快な音が響く。

そして中から流れ出る、この爽やかで甘い香り。


「はぁ~」


本来、こういう赤ワインには肉を合わせるのがいいのだが、今の俺の食糧に肉はない。


「出でよ、肉!」


夢なら当然、俺が望む肉が出てくるべきだが、出てこない。


「俺はまた何を考えてるんだか…もういい」


パンを取り出して玉座の肘掛けに置き、ワインをゴクゴクと飲み干した。

甘く、そして口の中を包むほろ苦いアルコールの味。


「名品だな!」


パンはまたどうだ。

傷んだところ一つなく、柔らかくて香ばしく、そして良質なパン特有の甘美な香りまで。

つまみとして、決して悪くない選択だ。


「明日になれば起きるだろう…明日になれば…」


おそらく、そうだろう。

だが、起きてほしくない。

HoWの世界で、ずっと…。


***


「んっ!」


眠りから覚め、上半身を起こして周りを見回した。

寝ている間に転がり落ちたのか、玉座から降りている。


「ふぁ~あ」


伸びをしながら上半身を起こした。

すると、俺を覆っていた布団が…。


「いや、違うな?」


俺の体を覆っていたのは布団ではなく、布だった。

そして、すぐ隣からすーすーという寝息が聞こえる。

首を向けると、すぐ隣でレモトリアが寝ている。


「これ…どうなってるんだ…?」


俺は確かに酒を飲んで寝た。

寝たということは、より深い眠りに落ちたということ。

深い眠りに落ちて、途中で再びレム睡眠に入ったのなら、同じ夢が続くのではなく、新しい夢が現れるはずだった。

なのに今、昨日の夢と繋がっているということは。


これが現実…だということではないか。


「マジで…?」


今まで夢だと思っていたことが、現実だった。

誰かはパニックに陥り、誰かは恐怖を感じるだろう。

だが、俺が夢ではないと気づいた瞬間、真っ先に感じたのは幸福だ。


「これが夢じゃないだと?!」


昨日の出来事も本物で、目の前にいるレモトリアも夢ではなく本物。


「は…!」


本当に、呆れて物が言えない。


「よし、落ち着け、落ち着け…」


ひとまずこれが現実なら、今まで軽く考えていたことを全て改めなければならない。

考えてみれば、昨日ステータスを上げなかったのは千万の幸いだった。

どうせリセットされるものだと、ステータスをめちゃくちゃに上げていたら、ゴミキャラになってしまっていたかもしれない。


「うーん…」


俺が騒ぎを起こしたからか、レモトリアが目を開けて起き上がり、上半身を起こして目をこする。


「イカロス様…?」

「おはよう、レモトリア」

「よくお休みになられましたか?」


俺は再び玉座へ歩いて上がり、腰を下ろした。


「この辺りのクリープは全部片付けたのか?」


レモトリアは片膝をつき、頭を垂れる。


「はい、昨日ご命令いただいた通り、この一帯のクリープは全て排除いたしました」


俺の情報を確認すると、俺のレベルは77、レモトリアは43だ。


「ご苦労だったな。かなり多かったようだ」

「これはイカロス様がご命令されたこと。この程度、苦労のうちにも入りません」

「やはり頼りになるな。俺の懲罰の女神様」

「わ…私の懲罰の女神様だなんて…!」


俺が何か言い間違えたのか、突然レモトリアが顔を赤らめ、身をよじり始めた。


「そりゃ、私はイカロス様のものですけれども…そう直接おっしゃられると、身の置き場がございません…!」

「あ…」


何か勘違いしているようだが、どうせ俺への忠誠心だろうから、放っておいても大丈夫そうだ。


「さて、と…」


レベルも上げるだけ上げた。次にやるべきことは一つだ。

マップを開き、地形を確かめる。


「ふむ…」


ここでは本来、兵士を連れてダンジョンに入り、アイテムをファーミングするのが定石だが、どうやらこの辺りにダンジョンはないようだ。


「ダンジョンがないと、装備のファーミングはどこですればいいんだ…」


能力値を上げてくれる学習の書もダンジョンでドロップするため、ダンジョンのファーミングはかなり重要なゲームなのに、近くにダンジョンがないというのは、かなり致命的な状況ではある。


「装備と申しますと…これを仰っているのですか?」


俺の呟きを聞いたレモトリアが、玉座の下で手を振る。

その瞬間。


「え…?レモトリア…?」


数多くの装備が、レモトリアの手から溢れ出す。


「昨日、クリープを狩りながらドロップした品々を、もしやご入用かと思い、集めておいたのですが…」


あぁ…。

俺の英雄がこんな行動をしてくれるなんて、どうして愛おしくないことがあろうか!


「よくやった、レモトリア!」

「あ…ありがとうございます!」


俺の言葉に、厳めしかったレモトリアの顔が、瞬く間ににやけ顔に変わる。


「まあ、雑多な装備が多いが、これらは全部、分解して強化素材にするか、他の都市の店に売ってもいいからな」


おそらく今は、強化よりも店に売ってゴールドを稼ぐ方が得だろう。

それによって、より良い装備を購入したり、あるいは必要な素材を買ったりできる。


ひとまず、金があれば何でもできる。


「これは俺が預かっておく」

「私のものは、当然イカロス様のものです。ご自由にお使いください。いえ、どうぞご自由にお使いください!それが私の喜びですので!」


`「インベントリを開いてください」`


装備を吸収すると、ちょうどいいタイミングでチュートリアルも現れる。

こうなれば、インベントリを開く方法に、報酬まで。


序盤の運営にしては、かなりいい流れで進んでいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ