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第1話

かつて全世界を熱狂させたゲームがある。


「Heros of WowCraft magic」


リアルタイムストラテジー、通称RTSゲーム。

最初に与えられる開拓者ユニットでメイン基地を建て、周辺にある資源を集めて兵士を生産し、生産した兵士で敵を攻撃して占領する、1vs1vs1vs1のゲームだ。


何故だか分からないが、俺は今、そのゲームの中に閉じ込められている。

それも、RTSゲームの能力を持ったまま。


***


「うーん…」


記憶がよく思い出せない。

確かに俺は「Heros of Wowcraft」(通称HoW<ハウ>)をプレイしていた。

大学の休み期間中、一日も欠かさず。

数日後には講義が始まるから、残りの時間は後悔のないHoW休みにしようと、5日前から一睡もせずにプレイし続けていた。

眠気に襲われても耐え、エナジードリンクを1日に4、5本も飲みながら持ちこたえていたのに。


「寝ちまったのか?」


多分、夢の中なんだろう。

でなければ、俺の家にこんなに広い森が見えるはずがない。


「痛っ!」


夢から覚めようと頬をつねってみたが、痛みが感じられる。


「最近の夢は覚めないどころか、痛みまで感じるのか?」


人によって夢は違うというが、感覚まで違うはずはないだろう。


そうして草むらに座り、考えに耽っていたその時。


ティリーン


目の前に小さなウィンドウがポップアップした。


`「チュートリアルを開始しますか?」`


チュートリアルといえば、ゲームを始めたばかりのプレイヤーにゲームの基礎を教えるシステムのこと。

俺は今までHoWを3年間プレイしている。

とっくの昔にチュートリアルは終えた状態だ。


これがもしHoWの夢なのだとしたら、どうして最初のチュートリアルから見ているのだろうか。

すでにビルドをすべて終えた状態で戦う夢のほうが、よっぽど面白かっただろうに。


「とりあえず、やってみるか」


ポチッ。


確認ボタンを押した途端、目の前に何かが現れる。


`「『開拓者』を召喚してください」`


一文と共に、開拓者の召喚方法が表示される。


「こうか…?」


ウィンドウに表示された通りに手を伸ばし、呪文を唱えた。


「開拓者召喚!」


その瞬間、目の前に現れたのは紛れもなく…。


「なんだこれ?」


人型の木偶<でく>人形のようなものが、荷車の前方を持ち上げたままじっと佇んでいる。


「おい…!」


人形を呼んでみると、人形の首がこちらを向く。

少し気味の悪い見た目の人形だ。


「これが開拓者…?」


俺の記憶では、荷車を引いているのはヒューマンの開拓者だった。しかし、ヒューマンの開拓者が荷車を持っていたとはいえ、それを動かしていたのはこんな人形ではなく、本物の人間だったはずだ。


「夢の中だから変わったのか?」


夢でゲームそのものの姿がそのまま出てくることもあるだろうが、色々な記憶と混ざり合って変化することもあるだろう。


`「報酬:食糧 100、木材 300、石材 300」`


「おっ!」


俺の視界に突如として様々なUI<ユーアイ>が現れる。

食糧、木材、石材、鉄鉱石など、数多くの素材が見える。


`「開拓者を利用してタウンホールを建設してください」`


今度はタウンホールを建設せよという指示が現れる。

タウンホールもまた、ヒューマンのメインの建物だ。

タウンホールがなければ資源の蓄積はもちろん、兵士を生産する建物すら建てることができない。


「さてと…」


RTSゲームを始める時、最も重要なのはメインの建物をどこに建てるかだった。

各マップには資源が豊富な場所がいくつか存在する。

その場所は固定ではなくマップ全体にランダムで適用されるため、運が良ければ近いが、運が悪ければ時間だけを無駄にしてまともな場所を見つけられずに終わることもあった。


「マップでも見られればな…」


ゲームの中にはマップがあったのに、どうしてここにはマップがないんだろう。

そう考えていたその時、目の前にもう一つウィンドウがポップアップした。


`「TIP:マップの確認」`


ウィンドウにはマップを開く方法と、各アイコンに関する内容が詳細に書かれている。


「ないわけないよな」


夢の中だというのに、そんなもの一つ実装されていないなんてことがあるもんか。

アイコンはどのみち全部知っているから、俺はウィンドウに書かれている通りに操作してマップを開いてみた。


かなり大きなウィンドウに表示されたマップ。

それと同時に、俺の視界の片隅に小さなミニマップが見える。


「ここは…」


今俺がいるマップはフォレスト・サイドウォーク。

俺がよくプレイしていたマップの一つだ。

しかし、全体マップを見るとフォレスト・サイドウォークだけではない。

デザート・ヘルグラウンドや平野マップであるヘルピオン・グロウも存在する。

本来なら一つのゲームにつきマップは一つだけなのが普通だ。

どうして全てのマップが繋がっているというのか。


そして。


「なんだよ? なんで既に建ってんだ?」


各マップごとに国家がある。


最も大きな国家は二つ。

神聖国アクチュレシア。

魔界国オクタス。


そしてそのほかにも、小さな領土を持つルーペス公国やズロット王国など。

数多くの国家が各地域に存在している。


「マジで…夢なのか…?」


こんな国家はゲームの中ですら存在しない。

特に神聖国アクチュレシアと魔界国オクタス。

この二つはAIとプレイしても現れない。


「はぁ…何が何だか分かんねえな…」


何が何だか確認する方法は、今のところない。

とりあえずマップを見ながら、どこがいいか場所を探すこと数分。


「はぁ…」


どうやら近場にはないようだ。

おそらく、あの巨大な国家がすべて占領してしまったのだろうか。

このゲームに勝つためには全ての国家を占領するしかないのだが。

だとすれば、勝つのは相当難しくなる。


「とりあえず、近くの良さげな場所に建ててみるか…」


最初のスタート地点が森なのは悪くない。

HoWは地形ごとに特殊な機能があるからだ。

森に基地を建てることで得られる特殊能力は『隠蔽』。

村の規模が中規模になるまでは、実際に偵察を送って確認しない限りマップに表示されない。

これのおかげで、森に定住するユーザーは安定して資源を採取し、発展することができる。


しばらく歩いて到着したこの場所。

水源である湖と建築材料である木材、そして近くに小さいながらも野原があるここは、初期の定住地として悪くない選択のはずだ。


「幸い、クリープには会わなかったな…」


ゲーム開始後5分まではクリープは出現しない。

だから、みんなが同じスタート地点から始めていれば、クリープの心配はしなかっただろう。

しかし、すでに巨大な国家や複数の弱小国が存在する以上、クリープが現れないという保証はなかったので、ここに来るまではかなり不安だった。


もちろんマップを見ながらクリープを避けて通ることもできるが、HoWならではの特殊システムの一つであるランダムエンカウンターがあるせいで、突然クリープに遭遇することもあり得るから安心はできなかった。


「さて、じゃあ広げてみるか…」


ついてきていた開拓者に向かって手を伸ばした。


「建国」


俺がそう呟いた瞬間、荷車を引いてついてきていた人形の目から光が放たれる。

しばらくして現れたのは建物…ではなく、玉座が一つ。

そして、以前と全く同じ報酬が俺のもとに入ってくる。


「ふむ…」


本来、建国をすると玉座ではなくメインの建物が現れるはずだ。

それなのに、なぜメインの建物は現れず、玉座だけがぽつんと現れるのだろうか。


「夢だから仕様が変わったのか…?」


その可能性は濃厚だと言えるが、奇妙といえば奇妙な状況だ。


ひとまず玉座に座って休むことにして、玉座へ歩み寄り腰を下ろした。


`「『建築』を進めてください」`


玉座に座った途端、建築を進めろというチュートリアルが現れる。

チュートリアルの通りに建築ウィンドウを開くと、見慣れたUIが姿を現した。


「ヒューマン…か?」


建築物自体はヒューマンの建築物と名前が同じだった。

しかし、UIの中にある建築物のアイコンは、ヒューマンの建築物の姿とは少し違う。

メインの建築物といえるタウンホールから始まり、騎士養成所や魔法使い養成所などの姿が見えるだけでなく、エルフのウッドタウンやウィスプの泉など、エルフの建築物も見える。

その他にもドワーフやドラゴニア、獣人など、数多くの種族の建物がすべて見えている。


全ての種族の建物を建てられるだと。

これはチートキーじゃないか。


もちろん、今すぐ全部建てられるわけではない。

各建物には制約が存在する。


`「ヒューマンの人口10以上」`


ヒューマンのタウンホールを建てるには、ヒューマンの人口が10以上必要だ。

人口というのは、俺の国の国民を指すのだろうが…。


「できたての国に国民がどこにいるんだよ…」


他の種族の建物も同様だ。

現時点で建てられる建物は一つだけ。


`「召喚の祭壇」`


「そういや、これには制約がなかったな…」


召喚の祭壇。

生贄を捧げて、望む英雄を一人召喚できる祭壇だ。

召喚するたびに、かなり多くの必要資源が追加される。


しかし、最初の召喚にかかる費用は無料だ。


「とりあえず建ててみるか…」


チュートリアルの案内に従って召喚の祭壇を選択し、湖の隣に建てた。


`「チュートリアルの特典として、機械人形が代わりに建築を行います」`


「チュ…チュートリアルの特典だったのか…?」


さっき、俺の荷車を引いてきた人形と同じ人形が現れ、召喚の祭壇を素早く建て始める。

そして、ほどなくして召喚の祭壇が完全に完成した。


「これが…召喚の祭壇…?」


ゲームで見たものとは違い、かなり巨大な祭壇だ。

まるでストーンヘンジのように複数の巨大な岩を配置して作られた建物は、中央に巨大な祭壇があり、その周りには円形の魔法陣のようなものが描かれている。


建物が完成すると、今回も同じ報酬が入り、


`「英雄を召喚してください」`


次のチュートリアルが始まる。


「英雄召喚、か」


ずんずんと祭壇へ歩いていくと、目の前に数多くの英雄たちの顔が現れる。


「これが全部、俺が召喚できる英雄たちか…」


種族に関係なく、数多くの英雄の顔が現れる。

だが、不思議なことにゲームのイラストの顔ではなく、本物の人間のような姿の顔ばかりだ。


なんだか、どんどん夢ではないような不安な気持ちになってくるが、こんな状況が夢でなかったとしたら、一体どうして俺はここにいるというのだろう。


「いやいや、夢だろ…ハハハ!」


そうだ、夢だ。

夢に決まってる。

夢だよな…?


`「英雄を召喚してください」`


早くしろと言わんばかりに揺れるウィンドウ。

ひとまず召喚を優先した方がよさそうだ。


「まあ、召喚となれば決まってるけどな」


自分がよく使う種族を短く呼んで「メイン種族」という。

俺のメイン種族は本来ヒューマン…だが。


「全ての種族から選べるっていうなら、当然こいつだろ」


今の俺は、チートを使ったかのように全ての種族の英雄を召喚できる。

ならば俺が召喚する英雄は決まっている。


ピロッ


「英雄召喚!」


俺がそう言った瞬間、祭壇から光が溢れ出す。

祭壇から白色の波動と黒色の波動が交互に広がっていく。


バサッ


右には白色、左には黒色の翼。

右は黒色、左は白色の長い髪。

まるで天界にいる美の女神が舞い降りたかのような美しい顔立ちと、胸や臀部など体の一部だけを隠した女性。


「来たか…!」


召喚された。

HoWのストーリーでしか見られない、AI専用種族である天界人。

その天界人の英雄の一人。


懲罰の女神、レモトリア。

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