第5話 暗殺者がやってきた
今日はいつになく静かな夜だった。屋敷の全ての窓の戸締まりを確認した私は召使い達に普段以上に警戒するよう武器を持たせた。
私はある一室のベッドに入った。毛布を頭にすっぽり覆うぐらいまで被せて息を潜めた。
普段なら夜の到来を告げるフクロウが知らせてくれるが、今日は居留守を使っているのかのように鳴かなかった。
時計の振り子が等間隔で揺れる音だけが響きわたった。張り詰めた緊迫感には慣れていたので、冷静に周囲の音を集約していた。
すると、僅かにドアが開く音がした。虫でも歩いているくらい衣服が擦れる音がした。私は布団の中でディナー時にこっそり取っておいたフォークを持ってかまえた。
神経を研ぎ澄ましていると、足音の遅れ具合から察する限り、侵入してきた奴らは数人いた。さらに集中させると目を閉じているはずなのに部屋がはっきりと見えていた。その中に私以外のシルエットが何人か映っていた。全部で四人だった。
いや、部屋の中に四人いるだけで、外にも何人かいる可能性がある。だが、相手が何人であろうと関係ない。私は私のやるべき事をやるだけだ。
そのうちの一人が布団の中に標的がいることを確認しようと手を伸ばしていた。私はここを逃したら命はないと思い、布団をめくったと同時に起き上がって奴の腕にフォークを刺した。
数秒以下で見た相手は黒ずくめの格好に蝶の仮面を付けていた。やはり、『夜の蝶』は暗殺者のグループだったか。
腕を刺した事により持っていたボウガンを落とした。予想した通り仲間の三人が私めがけて発射した。すぐさま負傷した暗殺者を盾にすると矢が全部刺さった。盾にした暗殺者はウッと軽い悲鳴を上げて絶命した。私は死体を暗殺者達に投げつけた後、サッとボウガンと矢を回収してしゃがんだ。
他の三人は仲間の死体をどかすと、次の矢の装填をしだした。二発目が発射されるまでの僅かな時間で私は敵の一人の頭部に一発入れておいた。矢を入れてすぐに発射できる状態だったが、攻撃に移る前に撃沈した。
残りの二人も屈んで落ちた矢を両手で持ってふくらはぎに刺した。悶絶してしゃがみこんだタイミングで拳をぶつけて仮面を破壊し、暗殺者は絨毯の上で寝そべった。最後の一人は脚を抑えながら構えたが、私は片脚を上げてボウガンを取り上げると、右頬に一発殴り、髪を掴んでもう一度私の方に引き寄せてから鼻を折った。何回か殴っていくと、全く動く気配がなかった。こいつも死んでしまったらしい。
四人の無残な姿に鼻で笑っていると、外から「どうした?!」と誰かが駆け寄ってきた。私はドアの近くで待機した。
蝶の仮面が姿を現した時、彼は私がすぐ近くにいることに気づいていなかった。
「なっ、なんだごふっ?!」
動揺する彼に私はボウガンで顔面を激突させ、目眩を起こさせた後、脚を踏んで腹に矢を突き刺した。屈み込んで来たタイミングで蹴っ飛ばして廊下に追い返した。
「うわっ!」
「誰かいるぞっ!」
叫び声が二人聞こえてきた。ドアから二本の矢が飛び出し、壁に突き刺さった。私は颯爽と廊下に出ると予想通りボウガンを持った二人の暗殺者が矢を装填していた。もう終えたらしく私の頭部を狙っていた。
「動くなっ! 大人しくしろ」
「お前、ジュリアーノではないな? あいつはどこだ!」
この発言から考えると、まだ見つかっていないらしい。それもそうだ。お嬢様が寝かせた部屋は自室ではなく私の魔法で隠した厳重なシェルターだからな。
「お前らには永遠に見つからない。命が惜しかったらさっさと帰れ」
「おいおい、これを見てよく言えるな」
二人はボウガンを小刻みに動かしながら嘲笑していた。仲間が大量に犠牲になっているのによく余裕ぶっていられる。
私は一瞬しゃがみ込んで射程距離をずらした後、足払いして二人を転ばした。この隙を逃さず一人の顔面を踏みつけた。もう一人が私を撃ってこようとしたので発射する前にかわして腹を踏みつけた。フギュというカエルの潰れたような声を出して伸びてしまった。
矢をいくつか回収して先を進んだ。まだ暗殺者が屋敷に蔓延っているかもしれないので周囲の警戒を怠らずに忍び足で歩いた。