第37話 最終決戦
私は目の前にいる男が生きていることが信じられなかった。しかし、それを嘲笑うかのようにマッコフは話し始めた。
「どうした? えぇ? そんなに俺が生きていることがおかしいか? たかが頭に板がぶつかっただけで死にはしねぇんだよ!」
マッコフは声を荒げた。獣のように貪欲な眼差しが私に突き刺す。
「ここは何ですか?」
「そうだな……闇の世界と言ってもいいかな。俺の能力だ」
「能力? あなたまさか……」
「そうだ。俺もお前と同じ世界から来た人間だよ」
マッコフは口が裂けるほど笑った。
「俺は前の世界ではしがない運転手だった。早朝からひたすら働き詰めなのに給料も良くないただの社畜さ。ある日上司に死ぬほど怒られてムシャクシャしていた。だから、乗っていたトラックでひたすら人を轢きまくった……あいつらの叫びを聞いた瞬間、背筋がゾゾゾってしたよ。こんな快楽が味わえるなんて……だが、警察に撃たれて死んじまったがな。が、この世界に来たら素晴らしい能力を身に着けて甦った! 貴族に立ち向かう救世主としてな!」
マッコフは手を掲げて大声で笑っていた。私は心臓の奥まで身体を震えていた。まさかこいつが私やムーラ、カッサンドラを轢き殺した殺人鬼だったとは。許せない気持ちとこの世界で奴らの被害にあった人達のことを考えると胸が痛んだ。
「許せない」
私が怒りに燃えているのを察したのだろう。マッコフはニヤッと笑った。
「戦う気か? やってみろよ。言っておくが俺の能力は特定の相手を闇の世界に引きずりこむ……もちろん、誰もこの世界の存在を知らない。俺とお前だけ……これから何が起きるか、分かるか?」
奴は下衆な笑い声を上げると、ポケットからナイフを取り出した。私は身構えた。
「グッサグッサの殺戮ショーの始まりよぉっ!」
マッコフは血迷っているのか、私の腹を刺そうと攻めてきた。サッと機敏に交わすして体当たりしようとしたが、ナイフを振り回して来たので距離を取った。
「おいおい、どうした! こいよぉっ!」
天井の板を頭に打って気がおかしくなったのか、妙に好戦的になっていた。いや、こういう性格なのかもしれない。
「来ないのか? 来ないのなら……こっちからやってやるぜ!」
マッコフが突進してきたので、私はヒラリとかわして手をかざした。しまった。お守りのせいで能力を封じられていたんだった
が、マッコフはなぜか避けようとしていた。もしかしてこの空間にいる時はお守りの効果が無くなるのではないだろうか――あるいはもう切れているか。
私はタイミングを伺って攻めた。相手は避けながらナイフを振ったが私の力を恐れて距離を取っているみたいだった。
ならばと私は突進して急停止した後、脇腹を突いて相手を狼狽させた。その隙を狙って片手をマッコフの顔面に向けた。奴は『しまった』という表情を浮かべた。
「吸収」
私がそう唱えると奴の身体が吸い込まれるように手のひらにくっつき、四肢がバキバキと折れていった。
「ぐぎゃああああああ!!!」
マッコフは断末魔を上げながら球体になっった。
「放出!」
私はそれを暗闇の中へと放り込んだ。心臓が止まったかのように静まり返った後、爆発が起きた、血肉が飛び散る訳ではなく光の波動のようなものが飛んで、闇が消え去っていった。
私はたちまち光に飲み込まれてしまった。意識はあっという間に吹っ飛んでしまった。
※
誰かに頬を叩かれて目を開けると、お嬢様の顔が現れた。レッドベーカーとグリナールも心配そうに見ていた。
「スカーレット? 急に倒れたからどうしたのかと」
「お嬢様……あっ! あいつは?!」
私は起き上がってマッコフの方を見ると、白目に加えて大口を開けて倒れていた。胸に耳をあてると心臓の音は停止していた。どうやら闇の世界で私が放った技が現実世界のマッコフにも影響を及ぼしたらしい。
彼はもう死んでいた。これで脅威は無くなった。
「どうしたの、急に声を出して」
どうやら彼女達は奴の死に方が変わっている事に気づいていなかった。私は「いえ、行きましょう」とお嬢様達を連れて音楽室を出た。
これで長い戦いが終わったかと思うと胸がスッキリした。




