第35話 最悪のシナリオを回避しないと
一刻も早くお嬢様(ついでにマリーとルーリ王子)を探すべく、例の場所を探した。
例の場所――私の前の記憶が正しければ、お嬢様がマリーをこっそり呼び出して悪質に戯れる場所を差す。
しかし、それがどこだったか――頭の中を必死に掻き乱した。お嬢様がマリーに罵詈雑言している痛快な場面の背景は何だったか――捻りに捻った時、お嬢様の背景に鍵盤が見えた。
「ピアノがある場所は?」
私がそう尋ねると、カッサンドラは「ピアノがあるのは音楽室しかないですね」と返した。
「ジュリアーノさんは音楽室にいるんですか?」
「えぇ、背景にピアノが映っていたので」
「なるほど……人目に触れない事をするなら防音の方がいいですよね」
カッサンドラは頷くと「では、音楽室に行ってみましょう」と言って再び狭い通路を進んだ。レッドベーカーとグリナールは私達の話に付いてきていないのか、ポカンとしていた。
結婚式の会場に来るまでの間、いくつかの分岐点があった。例えば左右の分かれ道があり、最初生徒会長は右を選んだが、今回は左に進んだ。そういった具合でさっき進んできた道とは違う方向へと進んでいくと、人気のない暗い場所まで来た。
まだ奴らが来ていないのか、物が崩壊している様子はなかった。私はレッドベーカーとグリナールに静かにするように圧をかけると、耳を澄ましてみた。
反響しているのか、誰かの話し声が聞こえてきた。
「この先に音楽室があります……行きましょう」
カッサンドラはそう言って周囲を見て誰もいない事を確認すると格子の蓋を開けて廊下に着地した。私の方を見て手招きしていた。
「あなた達はここで待機してください」
「えー?! なんで?! 私達もジュリアーノを助けたいよ!」
「むむむっ!!」
私の提案に二人は不満そうだった。私は「二手に別れるんです。あなた達にはやってもらいたいことがあります」と言ってある役目を二人に告げた。レッドベーカーとグリナールは「オッケー! 分かった!」「いひひひ!」と快諾してくれた。
私は二人に護身用のためのナイフと包丁を渡すと、廊下に飛び降りた。
私はジェスチャーで二人に格子を締めさせた。レッドベーカーとグリナールは親指を立てるとサッと視界から消えた。
「二人に何を話したんですか?」
カッサンドラは不思議そうに聞くが、私は「秘密です」と微笑んだ。
さて、慎重に廊下を進んでいくと、音楽室が見えてきた。ドアは半開きになっていて、そこから声が漏れていた。
耳を澄ましてみると、「この人でなし!」とジュリアーノお嬢様の叫ぶ声が聞こえてきた。彼女の声を聞いた時、まだ生きていることに安堵した。が、その余韻に浸っている場合ではない。
私は隙間からこっそり覗いてみた。マリーの後ろ姿の向こうにお嬢様が立っていた。その近くにはピアノもあった。どうやら原作忠実らしい。
王子の姿はどこにも見えなかったが、声は聞こえていた。マリーの隣にいるのだろう。
「君こそおかしいんじゃないのか? どうしてマリーばかり虐めるんだ!」
「あなたの方こそ、なんでこんな奴と結婚するなんて……見損なったわ!」
「ジュリアーノさん、私の何が行けないんですか? 私があなたに何をしたって言うんですか?」
この台詞には聞き覚えがあった。えっと、確か前の記憶だった。この台詞の後、ジュリアーノお嬢様はナイフを持ってマリーを殺そうとして襲い掛かった。ルーリ王子はそれを守ろうとしてマリーを庇ってナイフを刺される。マリーは涙を流しながら王子を抱きかかえる。王子は血まみれの手でマリーの頬を撫でて息絶える。
そこへダリウス騎士団長が現れる。王子の殺害現場を目撃した騎士団長は真っ先にお嬢様を犯人だと思い逮捕しようとする。が、お嬢様が抵抗しようとしてきたため、やむを得ず斬りかかってお嬢様は――。
死の予言に書かれていた『婚約の儀で死ぬ』は実現されることになる。カッサンドラも思い出したらしく「止めますか? それとも……」と聞いてきた。
「もちろん止めます。お嬢様を死なせたくありませんので」
「でも、騎士団長が捕まえようとしてきたたら?」
「マリーを殺していないので、殺人にはならないでしょう。それよりも捕まえる相手はこの学園に山ほどいます」
「確かに」
私は中の様子を伺った。まだ三人は話していた。するとお嬢様がナイフを持っていた。悲鳴を上げるマリー。
(まずい。このままだと……)
私はカッサンドラと目を合わせた。指で三つ出してから二つ、一つと減っていき、ゼロになったタイミングで飛び出した。
「お嬢様、行けませ――」
私は急いでお嬢様に駆け寄ろうとした。が、突然光沢感のある身体が目の前に現れたかと思うと、頭が激しく揺れた。ガーンと響き渡り、視界が歪んだ。背後からカッサンドラらしき悲鳴も聞こえていた。
私の目の前には水面に揺れたかのような騎士団長が立っていた。その後ろではマッコフが生徒会長を無理やり連れていた。
視界が薄れていく中、私はルーリ王子とマリーを見た。王子は青ざめた顔で見ていたがマリーは彼の胸の中で震えていた。
「スカーレット!」
お嬢様が私の元に駆け寄り、何度も謝っていた。どうやらお嬢様は奴らのために演じられていたらしい。
私と生徒会長を誘き寄せるために。




