第34話 お嬢様がいる場所
「……生徒会長。今までどこに行っていたんですか?」
「奴らが学園内に侵入してきてもスムーズに移動できるように隠し通路を用意していたんです」
カッサンドラはそう言ってランタンの灯りを頼りに、私をトイレに案内した。彼女は個室の一番端に向かい灯りを私に託すと、便器の上に跨がって天井の板を数回突いた。するとガコッと隙間が出来て、細身の人間一人分くらいは行けそうなスペースが出来た。
「さぁ、早くしないと奴らに見つかってしまいます」
彼女は暗闇の穴にヒョイと中に入ると、手を差し伸べてきた。私は先に灯りを渡してから手を握って中に入った。
隠し通路は幅は狭いが、天井はしゃがめるくらいの高さだった。
「どこに向かうんですか?」
「ジュリアーノさんを探しているんですよね? ここから探した方が一番いいと思います」
なるほど。下手に学園内を走って奴らに追いかけられながら探すよりも見えない場所で見下ろしながら探した方が効率がいいのか。
「分かりました。行きましょう。えっと、お嬢様が行く場所……」
私は前の記憶を必死に思い返そうとしたが、下の方で荒々しい物音が聞こえてきた。
「とりあえずここに留まるとマズイです。歩きながら行きましょう」
生徒会長の提案に私は賛成し、空けていた天井の板をピッタリと塞ぐとしゃがみながら忍び足で進んだ。
私は周囲に注意を向けながらお嬢様の居場所を予想した。えっと前の記憶ではお嬢様はマリーと一緒に行動していたような気がする。
「結婚式の会場が今どうなっているか、見られます?」
「えぇ、そこまでのルートも確保してありますよ」
「じゃあ、そこに向かってください」
「ジュリアーノさんはそこにいるんですか?」
「いえ、マリーさんがいるかどうかを確認したいんです」
「あぁ、なるほど……もしマリーさんが会場にいなければジュリアーノさんが呼び出されている可能性が高いと」
「はい。確かこの場面はお嬢様がマリーさんを虐め……嫌味なことを言っていたような気がします」
お互い前世の記憶を持っているからか、他の人には不可思議な内容でも伝わった。生徒会長は頷くと、私を結婚式の会場に連れて行ってくれた。
※
向かっている間、悲鳴や怒号がひっきりなしに響きわたっていた。隠し通路では空気を確保するのと今どこに向かっているのか分かるように格子みたいに下から現在地を確認することができた。
ミーティングルームらしき場所を通過している時だった。
「うわあああああああ!!!」
「ひひひぃいいいい!!!」
聞き覚えのある声が聞こえたので覗き込んでみると、レッドベーカーとグリナールが暴徒達に追いかけられていた。
暴徒は全部で三人いてピッチフォークと松明と棍棒を持っていた。
「げへへへ、追いついたぜ」
「どういたぶってやろうかなぁ?」
奴らは殺すというよりは別の目的を考えていそうだった。私はこのまま見過ごそうか迷ったが、お嬢様の悪友なので見殺しするのは抵抗があった。立ち止まっている私を不審に思ったのか、カッサンドラが声を掛けてきた。
「何をしているんですか? 早く行かないと」
「お嬢様の悪友達が襲われているんです」
「悪友……あぁ、あの二人ですか。でも、今は関係ないでしょう。ジュリアーノさんの命と彼女達の命、どっちを優先するんですか?」
生徒会長の選択に私はたじろいだ。が、怯える二人を見ていると居ても立ってもいられなくなり、格子を蹴っ飛ばしてスルリと着地した。
「なっ?!」
暴徒達は突然現れた私に戸惑っていた。その隙を狙って殴り蹴って倒した。
「大丈夫ですか?」
レッドベーカーとグリナールの方を見ると、二人の顔が涙で溢れていた。
「す、スカーレット〜!!」
「うひひひひひぃ〜!!」
抱きついてきたかと思えば、シクシクと号泣してしまった。すると、生徒会長も降りてきた。
「まさか本当に助けるなんて……らしくないですね」
「味方は多いほうがいいです……ねぇ、二人とも」
私はレッドベーカー達に声をかけると、二人は泣き止んで「……え?」と戸惑っていた。
※
お嬢様の行方を探す手伝いをして欲しいと頼むと、レッドベーカーとグリナールは喜んで仲間に加わった。まだ暴徒が来ていないので、再び隠し通路に戻ると結婚式の会場へと進んだ。
「着いたわ」
生徒会長がそういったので覗こんでみると、かなりめちゃくちゃにされていた。大きなテーブルはひっくり返り、オードブルはグシャグシャになっていた。カーテンは引き裂かれ、シャンデリアも落ちて厄災が起きたかのようだった。
会場の脇で大勢の貴族や王族達が集まっていた。その中には傷だらけの騎士や護衛たちの姿もあった。皆、怯えたような顔で取り囲む暴徒達を見ていた。
「お前達、私を誰だと思っている?! この国の王だぞ!」
手を縛られた国王が暴徒達に向かって叫んでいた。が、彼らはまるで子供の戯言でも聞いたかのように大笑いしていた。
「何が国王だ。貴族ばかり優遇しやがって」
「こんな贅沢をする暇があったら俺達の暮らしを楽にさせろ」
「全員に平等な食事と衣服と金さえあれば俺達の暮らしは良くなるんだ」
「貧富の差反対! 貴族を滅ぼせ!」
誰かがそう叫ぶと、暴徒の一人が貴族の男を引っ張りだした。そのついでに女性も無理やり連れ出された。どうやらカップルみたいだ。
「な、何をする?!」
「いや、止めて!」
暴徒達は彼らを囲うと、憎しみのこもった眼差しで睨んでいた。
「袋叩きだ!」
「うぉおおおおおおお!!!!」
誰かが叫んだと同時に一斉に襲い掛かった。若い貴族の二人は抵抗する暇もなく暴行を受けてしまった。そして、誰かが彼らの首を切り、その頭を槍の先に突き刺して掲げた。平民達は祭りのように喜んでいたが、王族や貴族達は葬式みたいに血の気が引いていた。
「……酷すぎる」
生徒会長の身体が震えていた。覗き込んでいたレッドベーカーとグリナールも顔色が悪かった。私は冷静にこの空間にいる人達の顔を見ながら知っている人間を探した。
だが、国王と王妃以外は見当たらなかった。
すぐにいない人物を頭の中でメモした。
お嬢様、マリー、ルーリ王子、ダリウス騎士団長……彼らはまだ暴徒達に捕まっていないのだろう。それを知れただけでもホッとした。
私が頭のメモを生徒会長に伝えると、彼女は青ざめた顔で「じゃあ、ここに居てもしょうがないですね。行きましょう」と立ち去ろうとした。
「ねぇ、これを率いているボスって誰なの?」
レッドベーカーにそう聞かれたので、私は目視で確認した。
が、どこにもいなかった。
「マッコフもいない」
私がそう呟くと、カッサンドラは「え?!」とギリギリ抑えた声で叫んだ。
「本当なんですか?」
「えぇ、無精髭を生やした目つきの鋭い男ですよね?」
「そうです。まさか、そんな……」
生徒会長は慌てた様子で会場内をのぞき込んだ。私は出来れば見落としがあったと思い込みたかった。マッコフを最後に会ったのは貴族の一家を公開処刑した集会以来だからだ。比較的最近会っている彼女なら今の奴の顔が分かるかもしれない。
が、生徒会長も「本当だ。いない」と目を大きくさせていた。
「なぁ、その……マッコフというボスがこの会場にいないことが何かマズイことでもあるの?」
レッドベーカーはまだ事の重大さを理解していなかった。生徒会長は「マッコフは学園内を彷徨っている……もしかしたら殺そうとしているかもしれない」とうわ言のように呟いた。
レッドベーカーはまだポカンとしていた。
「えっと……誰を?」
「忘れたんですか?! 彼らが襲ってきた日はルーリ王子とマリーの結婚式なんですよ?! 仮に王子がマリーと一緒に逃げていると仮定するなら、マッコフはあの二人を捕まえに行っているのかもしれない。国王夫妻に精神的なダメージを追わせるために」
こうも考えられる。お嬢様がマリーを連れ出して嫌味を言っている時にルーリ王子が乱入して修羅場と化す。そのタイミングでマッコフがやってきたら――それも最悪な展開だ。




