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第31話 いざ、学園へ

 カッサンドラは食堂の方へと向かった。彼女は入って早々「遅かったようですね」と言っていた。嫌な予感がして押し退けるように中に入ると、いるはずの人がいなくなっていた。


「お嬢様……? お嬢様!」


 私は血眼になって辺りを見渡した。カッサンドラは「無理ですよ。彼女は行ってしまったです」と話しかけてきた。


「行ってしまったって……まさか学園へ?」

「えぇ、その可能性が高いです」

「早くしないと……」


 私は急いで出ようとしたが、カッサンドラが通せんぼするように前に立ちはだかってきた。


「通してください」

「駄目と言ったら?」

「どうして止めようとするんですか?」

「あなたが行けば間違いなく死にます。今回の相手は今までとは違うんです」

「戦闘も素人な平民の集まりに私が負ける訳ないでしょ」

「数が今までと桁が違います。たとえどんなに強力な力を持っていたとしてもいずれ隙を突かれてしまいます」

「お嬢様のためなら、この命惜しくないです」

「あなたはマッコフの恐ろしさを何も知らない!」


 カッサンドラはさっきまでの冷静さを失い、感情的に叫んでいた。彼女の唇が震えていた。


「あなたのお母さん……ムーラは殺されたんですね。奴らに」


 私が指摘すると、生徒会長の瞳が大きくなった。過剰に呼吸を繰り返した後、「そうです」とかすれた声で話し出した。


「酒場に行くと、マスターが殺されていました。何か異常事態が起きたと思った私は急いで地下に行くと、母が奴らに拘束されていました。そこにはもちろんマッコフもいました。

 屈強な男二人がナイフを持って母の首にあてていました。私は力を使おうとしましたが、マッコフは『もし使ったら母を殺す』脅してきました。奴は私の力を知っていました。恐らく母から知ったのでしょう。

 母は『逃げなさい!』と私を外に行かせようとしていました。が、出入り口を塞がれました。

 マッコフは『学園の地図が欲しい』と言ってきました。何が目的だと聞きましたが、大男がピッチホークを構えて黙って言う事を聞けと脅迫されました。

 母を守るために私は鞄からノートを取り出して、学園の地図を書きました。

 マッコフはそれを受け取ると……母の首を斬りました。最初から殺すつもりだったんです。私も殺そうと襲いかかりましたが力を駆使して脱出しました。

 今は学校の宿舎に身を寄せています。奴らはその事も知っていたようで、母の首が箱に送られてきましたけど……」


 カッサンドラは嫌な記憶を呼び起こしたからか、口を(つぐ)んでしまった。私は彼女は話した内容を整理した。


「つまり、奴らは学園を襲うんですね」

「その可能性が高いでしょう」

「ですが、何も王族との結婚式の日に……もし暴動を仕掛ければ国家への反逆罪として処刑されますよ」

「マッコフは革命を起こすつもりなんです」

「革命……」


 私はマッコフの今後の行動について考えた。確かにあの学園には大勢の貴族の子供が通っている。だが、少ないが平民もいる。もし奇襲を仕掛けたら、彼らにも被害が及ぶ可能性がある。もし王子の結婚式に実行したら尚更自分達にもダメージが来るのは確実だ。


 マッコフはそれを理解しているのだろうか。あるいは、それも理解した上で学園の地図を手に入れようとしていたのだろうか。


「参加者は生徒以外にも来るんですか?」

「えぇ、マリーの両親はもちろん、大勢の貴族達が集まってきます」


 なるほど。そうなると今夜奇襲される可能性が高い。


「だったら、こうしてはいけません。急いで学園に向かいましょう」

「だから、マッコフに勝てる見込みは……」

「相手がどんなに強敵であろうと、私はお嬢様を見殺しにしたくありません。自分の命惜しくて主を置いて逃げる付き人がどこにいるんですか。あなたは憎くないんですか? 実の母親を殺した相手を復讐する勇気はないんですか?」


 そう突き詰めると、カッサンドラは黙ってしまった。


「この臆病者」


 彼女を押し退けるように食堂から出ていき、急いで馬を探した。


 馬小屋に向かうと、普通に草を食べていた。どうやら人だけを消して行ってしまったらしい。私は一頭だけ馬小屋から連れ出して駆けて行った。今夜は月が明るいから迷わずに学園まで辿りつけそうだった。



 しかし、学園に到着しても問題が起きているようには見えなかった。マッコフどころか平民達が集まっている様子も見られなかった。


 校門前では騎士と魔法使いが目を光らせていた。私が近づくと、真っ先に飛んできて何者だと尋問してきた。


 ジュリアーノ公爵の付き人で伝言があると伝えるが、騎士は口先だけでは通さないと言ってきた。付き人である証を持っていこうと思ったが、そういえばそんなものは無かったと愕然した。


 そうだ。招待状――あ、もう行かないと思って破り捨ててしまったんだ。


 どうしようと頭を悩ませていた時、「こんばんは、騎士さん」と背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ると、カッサンドラが制服姿で騎士の方へ向かってきた。


「生徒会長のカッサンドラです。通してくれますか? あと彼女も友人なので良いですよね?」


 彼女が生徒手帳を騎士に見せると、騎士は「失礼しました。どうぞ中ヘ」と一礼して通してくれた。


 私は軽く会釈してカッサンドラと並列して中に入った。少し距離が出来たタイミングで話しかけた。


「やる気になったんですね」

「えぇ、臆病者ではありませんので」


 どうやらあの去り際に放った一言が彼女に響いてくれたらしい。だけど、来てくれてよかった。そうお礼を言うと「どうも」と素っ気な返した。


「まだ奴らは来ていないみたいですね」

「そうですね。ですが、油断しないでください」

「まずはお嬢様を見つけたいです。あわよくば、ここから連れ出さないと」

「では、二手に分かれて行動しましょう。私は奴らに対抗できる方法がないか探します」

「そうしましょう」


 校舎の中に入ると、巡回中の騎士に出くわした。その中にダリウス騎士団長がいた。


「スカーレットさん」


 彼は駆け足で近づてきた。


「今日はどうされたんですか? いつもジュリアーノさんの側をくっついて離れないのに」

「ちょっと野暮用があったので。お嬢様はどちらに?」

「大広間にいますよ。もう王子様とマリー様の誓いのキスは終わって、今は披露宴の真っ最中です」

「案内してください」


 私が頼むと、騎士団長は部下に巡回を続けるように命じ「どうぞ」と歩き出した。


 カッサンドラは「私は他にやることがあるので失礼します」と言って反対の方角へ歩き出した。


 私は騎士団長のガッシリした鎧を見ながらお嬢様の無事を祈った。

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