第29話 生徒会長からの忠告
カッサンドラがムーラの娘だと分かったお嬢様は応接間に案内するように伝えた。お嬢様は相変わらず美しい装いをしてカッサンドラの前に現れた。
生徒会長は立ち上がると「公爵様、お会い出来て光栄です」とお世辞を述べた。無論、そんなお立てには一切乗らないお嬢様は「ムーラの母親なのは本当?」と無愛想な顔で聞いた。カッサンドラは「えぇ」と頷いた。
私とお嬢様は花柄のソファに腰を掛けると、生徒会長も続いて座った。タイミングよくメイドが紅茶とケーキを持ってきたので、お嬢様は皿を取って一口食べた。
私は先程カッサンドラから貰った予言の紙を全員に見えるように拡げた。確かに『婚約の儀で死ぬ』と書かれていた。
「どうやら本当らしいわね」
お嬢様は大きく溜め息を吐くと、頬杖をついた。
「なんであなたが持ってきたの? ムーラはどうしたの?」
「母は……その、大変な病気に罹ってしまって」
カッサンドラが珍しく間を空けてから答えた。私が聞こうとするとお嬢様が「嘘おっしゃい」と鼻を鳴らした。
「何か来られない事情があるんでしょ? 私の事を占ったのに未然に防げなかったら、会わせる顔がないんでしょ」
お嬢様の指摘に生徒会長は沈黙した後、「母は死にました」と告げた。
高笑いしていたお嬢様も占い師の突然の死に顔が強張っていた。
「死んだって……いつ?」
「半年前です。暗殺者に受けた傷が原因で」
私は生徒会長の話がにわかに信じ難かった。私が戻ってきた時、普通に話していた。確かにあれ以来姿を見ていないが、お嬢様と同様会いたくないからだと思っていた。まさか死んでいたとは。私はどうして死んだのか気になって聞いてみた。
「傷はそんなに深くはなかったはずですが」
「刃に毒が塗られていたんです。それが回って……詳しくはダリウス騎士団長に聞けばよろしいかと」
ダリウス――彼もしばらくは会っていない。恐らくルーリ王子との結婚の時に護衛として向かうだろう。その時に聞けばいいか。
お嬢様は「ムーラの死はビックリしたけど、問題は私が結婚式でどう死ぬかよ」と扇を出して扇いだ。
カッサンドラは「それは分かりません。ですが、行かない方が懸命かと」と参加の辞退を勧めてきた。
「私も同感です。王族の結婚式に参加しないのは公爵の立場としてはひんしゅくを買いますが、死ぬよりは遥かにマシだと思います」
私も参加の辞退を強く訴えると、お嬢様は「そうね。どうせ行ってもつまらないだろうし」と納得していた。
カッサンドラは「それが一番です」と微笑んだ後、静かに立ち上がった。
「では、私はこれで」
「あら、もういいの?」
「えぇ、話すことは話したので」
生徒会長は素っ気なく部屋を出ていこうとした。側に控えていた執事が玄関まで送ると言って付いていった。
「スカーレットさん」
すると、カッサンドラが私の方を向いた。何を話すのだろうと思っていると、「ごきげんよう」とだけ言って出ていってしまった。
「何よ。あれ……まぁ、いいわ。これで私が死ぬことはないのだから」
お嬢様は安心した様子でカッサンドラが残したケーキを食べ始めた。私はなぜか妙な胸騒ぎがした。本当にこれで良かったのだろうか。何か大事なことを忘れているような――しかし、前の記憶を振り返っても何も思い出せなかった。
あ、騎士団長にムーラの母の死について聞かないと。でも、結婚式には行けないし、でも、知っても知らなくても別にいいか。




