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第28話 王子の結婚

 お嬢様誘拐から半年が過ぎた日だった。またしてもマリーがやってきたのだ。当然お嬢様は逢う気は全くなかったので、私が応対するはめになった。


 あの時と同じく車寄せで待つように執事に命じ、あまり気の乗らない調子でゆっくりと歩いた。


 そして、無駄に時間を費やして車寄せまで来ると、前と見たよりも立派になっている馬車があった。カゴの四隅に金の細工が施されていたり、馬に繋がれている馬具にアラベスクの模様が彫られていたりと、ルリアーナ家の『豪奢なものには無関心』という思想は考えられないような装飾が目立った。


 ドアを開けると出てきたのはマリーだった。前よりも髪のボリュームが上がっていて、ソフトクリームみたいだった。ドレスもわたあめみたいにフワフワとした純白でそれを白い靴で軽やかな音色を奏でながら私に近づいてきた。


「スカーレットさん! お久しぶりです!」


 マリーの口調は変わらず礼儀正しかった。心までは欲に染まっていないらしい。彼女は恭しく頭を下げると「あ、大臣と申し上げた方がよろしいかしら」と皮肉なのか冗談なのかも分からない洒落を言った。


「変わらずスカーレットで構いません。ところで、また何の用ですか? 学園はお嬢様と共に退学したので戻るつもりは……」

「私、ルーリ王子とご婚約する事になったんです」


 マリーの口から予期せぬ吉報が告げられた。私は心底胸を撫で下ろした。これでもうお嬢様はルーリ王子に苦しめられなくて済む。彼女は学園を去ってからもたまにルーリ王子の事を気にかかっていた。まだ未練は少しだけ残っていたらしいが、これで完全に断ち切れるだろう。


「おめでとうございます。マリー様」


 私が微笑むと、マリーの顔が急に茹でられたみたいに赤くなった。酷暑でもないのに急にどうしたのかと尋ねると「何でもありません」と背を向けた。何度か深呼吸をしてから振り返った。ほんのり頬が赤くなるまで落ち着いていた。


「それで良かったらなんですけど……結婚式に来てくださらないかしら。良ければ、ジュリアーノさ……公爵と一緒に」


 私はマリーの提案に怪訝な顔をした。なぜ私達まで興味のない結婚式に参加しなければならないんだ。いや待てよ。王族との結婚だから行かなければならないのか。


 そうとなれば仕方ない。


「もちろん。お嬢様にもお伝えしておきます」


 私の返事にマリーは「良かった」と安堵した顔を見せた後、白い封筒を差し出しきた。


「これ、招待状です」

「手渡しせずに送ってくださればよかったのに」

「読まずに燃やしたり破ったりするでしょ?」

「あぁ、そうですね」


 私は受け取って中身を確認した。本当にマリーと王子は結婚するらしい。日時は今夜だった。


「急ですね」

「ごめんなさい。色々バタバタしていて」

「周りから酷く反対とかされていたんですか?」

「えぇ、まぁ、」


「そうですか。場所は……ん? 学園となっていますが、お間違えないですか?」

「えぇ、合っています」


 マリーは晴れやかな顔をして私を見ていた。


「もちろん教会も考えたんですけど、また赤い仮面みたいなのが襲いかかったら、せっかくの晴れ舞台が台無しですし、それに学園内は強力な結界で守られているので、もし襲撃されても突破される事はございません」


 彼女は自信満々に胸をトンッと叩いた。学園内に結界が張られているというのは初耳だった。恐らく度重なる事件により学園内でも警備がさらに厳重になったのだろう。


 ふとマリーは前と同じくローガを連れて来ていない事に気づいた。


「あなたの幼馴染はどうしたんですか?」

「幼馴染?……あぁ、彼ですか」


 マリーはまるで忘れていたかのような態度を取って腕を組んだ。


「彼はもう幼馴染でも何でもありません」

「でも、赤い仮面との選択では真っ先にあなたを生かす事を選びましたよ」

「ジュリアーノさんに罵詈雑言浴びせさせましたけど」


 彼女はあの日を思い出したのだろう、顔つきが険しくなった。あまり彼女が苛立っているのを見た事がなかった私は天使みたいな人でもあの無礼に怒りを覚えてくれた事に少しだけ嬉しかった。


「では、一週間後に」


 私は一礼して立ち去ろうとしたが、マリーは「あの!」と声を張り上げて呼びかけてきた。振り返ると、マリーはまた茹でられたカニのように赤くなった。


 が、「何でもありません!」とネズミのように走り去っていき、馬車に乗った。そして、さよならの挨拶もなしに行ってしまった。


 彼女が何を言いたかったのか気になったが、まだやるべき事を思い出したので屋敷に戻ろうとした。


 すると、また激しく馬が駆ける音と車輪の転がる音が聞こえきた。マリーが何か言い忘れた事があって戻って来たのかなと思い振り返ると、先程とは違う馬車だった。


 ワインレッドに塗られたカゴで黒い馬の馬車だった。一体誰だろうと思って待っていると、御者も待たずにドアが開かれた。


 現れたのは妖艶な姿に身を包んだカッサンドラだった。大胆に胸元があいた真紅のドレスに赤い靴――まるで舞踏会に行くかのような格好だった。とても清楚だった生徒会長とは思えない。


 片目は前と同じく隠れていて、今度は髪留めを付けていた。


「お久しぶりです。スカーレットさん」


 カッサンドラは艶っぽい笑顔で私に挨拶してきた。その面影は誰かに似ていたが、よく思い出せなかった。


「何のようですか?」

「あなたにお話したい事があって……その招待状について」


 生徒会長は私が手に持っている白い封筒を指差した。なぜ彼女がそれを知っているのだろう――なるほど。


「こっそり覗いていたんですか」

「えぇ、まぁ」

「それでこれがなんですか?」

「参加しないでください」

「は?」

「でないと――あなたのご主人様は死ぬ事になりますよ」


 カッサンドラは艷やかな笑みを浮かべた後、胸元から一枚の紙を拡げて差し出してきた。


『婚約の儀で死ぬ』


 この文字の雰囲気には見覚えがあった。あの死の予言書だった。


「なぜこの紙を?」

「母に渡されたんです」

「母? まさかあなたは……」

「そうです。ジュリアーノさんに死の予言を告げてきた占い師のムーラです」

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