第24話 屋敷に戻ると……
一心不乱に馬を駆け抜け、屋敷まで戻ると、王子の言っていた事が真実だと分かった。車寄せには大勢の騎士達が慌ただしく動いていた。負傷した執事やメイドを担架に運んでいたり、破損した銅像を調べて何か証拠は残っていないかを探したり、騎士団長に周囲の状況を報告したりしていた。
ダリウス騎士団長はいつになく険しい顔で指示を飛ばしていた。横一列に並べられた怪我人に治療魔法や薬品に詳しい者を寄越すように命じていた。
私は馬を留め、歪曲した柵を開けた。騎士の一人が「関係者以外は入らないでください」と駆け寄ってきたが、「ジュリアーノお嬢様の付き人です」と答えると顔色を変えて真っ先に騎士団長の方へ飛んでいった。
部下に私が来た事を知ったダリウス騎士団長は私の方を見るや否や、重い鎧を装備しているにも関わらず軽やかに私の方へ駆け行った。
「スカーレットさん……あの、何と申し上げてよいか」
「謝罪はいいです。お嬢様はどこにいるんですか?」
私はダリウスを睨むように尋ねた。王子の『お嬢様が攫われた』という事実が信じられなかった。できるので事なら負傷者でいてほしかった。騎士団長は「屋敷中を隈なく探しましたが、どこにもいません」と首を振った。ルーリ王子の言っていた恐れていた事態が起きた事に打ちのめされそうだったが、気を確かに持って質問を続けた。
「どうやって、その、この騒動を知ったんですか?」
「ムーラと名乗る占い師が突然本部に来たのです。かなり怪我を負っていたのでただ事ではないと思い治療して聞いてみた所、襲撃されたとだけ」
襲撃――まさか晒し首が予告したのは実現したのか。
「我々はムーラさんの力を借りてすぐに屋敷に向かいました。彼女の言っていた事は本当だとすぐに分かりました。車寄せには負傷者もいたり、屋敷の中は荒れ放題で……」
「もう見れば分かりますから。ムーラはどこにいるんですか?」
「えっと、屋敷に」
私はダリウスを横切り、急いで中に入った。騎士団長の言う通り、中は台風が起きたのかと思うくらい悲惨だった。絵画はズダボロにされ、コンソールテーブルに置かれた彫像などが地面に落ちて散乱している。窓ガラスも一枚残らず割られていた。
ある部屋のドアが開きっぱなしになっていた。ベッドの上にパルミジャーナ公爵婦人が全裸で横たわっていた。腹に『浅ましき淫乱』と血で彫られていた。その周りを騎士達が苦悶とした顔で調査していた。
その隣の部屋は――あまり見るのはよそう。大体予想できる。チース公爵の首なし死体だろう。頭は奴らが持っていったか、燃やしたかの二択だ。
食堂の方から話し声が聞こえてきたので、ドアを突き破る勢いで蹴飛ばした。騎士達が一斉に私の方を見た。その中にムーラがいた。
「スカーレット!」
ムーラが私の方に駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。私がいるのにこんな結果に……」
「いいんです。相手はどれくらいいるんですか? 晒し首の連中ですか?」
「いいえ。たぶん殺し屋よ」
「殺し屋――じゃあ、夜の蝶ですか?」
「その可能性が高いわ。襲い掛かってきた奴らの動きが素人じゃなかったし、少数精鋭だったからプロの殺し屋かもしれない」
「ムーラさん、お嬢様がどこにいるか、占ってください」
「……わかったわ」
ムーラは私がこれから何をするのか察したのだろう、すぐに紙を持って来てと兵士に命じると、手のひらをかざして目を閉じた。
すると、一部分が燃え出し、文字が出来上がった。『森の中の小屋』と書かれていた。
森の小屋――この言葉に私はピンと来た。
「ありがとう」
私は急いで食堂から自分の部屋に戻った。一目散に本棚に向かい、敷き詰められた本の中から数冊取り出した。本と本の間には手を突っ込むと、スイッチがあるのでそれを一つずつ入れた。すると、自動で本棚が横にスライドされ、隠し部屋が現れた。
その中に入ると、ボウガンやナイフ、剣、ダイナマイトなど――あらゆる武器が揃っていた。万が一の状況に備えて、給料で買って揃えておいたのだ。
私は持てる限りの武器も装着すると、玄関に急ぎ足で向かった。騎士達が私の武装姿に驚愕していた。が、気にせず馬に乗った。
「スカーレットさん!」
見ると、ルーリ王子が白馬に乗っていた。私は黙って馬を走らせた。
「待ってください! 僕も行きます!」
王子にそう言われたが、私は聞こえないフリをして走り続けた。背後から馬を駆ける音がする。たぶんマリーを選択した罪悪感を解消するためだろうが正直邪魔だ。今手に持っている爆弾の導火線に火を付けて、木っ端微塵にしてやりたい所だが、今はお嬢様の救出が最優先なので報復するのは控えた。
ムーラが占った森の小屋は確かお嬢様が幼少期に頻繁に訪れていた秘密基地のような場所だった。もしお嬢様を攫った人物がプロの殺し屋なら事前に周囲に何があるのかも把握しているはず。
(お嬢様、どうかご無事で)
私はお嬢様の安否が無事であることを祈りながら手綱を強く握った。




