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第16話 運命の舞踏会

 チース公爵一家も舞踏会に招待されていた。城に向かう道中、ダリウス率いる騎士達の護衛付きだった。


 馬車は二台あり、前方にチース公爵とパルジャーナ公爵婦人、後方は私とジュリアーノお嬢様が乗っていた。


「まだ着かないの。スカーレット」


 お嬢様は舞踏会が待ち遠しくてたまらないらしく、貧乏ゆすりしながら畳んだ扇を振り回していた。お嬢様のドレスは紫を基調としたゴージャスな仕上がりだった。胸元に光るルビーのネックレスが今の自分の地位を表しているかのように輝いていた。


 唇に紅を塗っただけの軽い化粧だが、普段見ているよりも何倍も綺麗だった。思わず見とれてしまいそうだが、再び胸騒ぎがしてきたので、警戒心を緩めることなく外の様子を伺った。


 私はお嬢様より目立ってはいけないので控えめな黒にした。ポケットの中には万が一に備えてナイフやメリケンサックなどの武器も忍ばせておいた。


 それにしてもこの胸騒ぎは一体何だろう。もしかして『恋敵に刺される』という死の予言が実現されるのだろうか。


 もし舞踏会で行われるのだとしたら、用心しないといけない。恐らく会場は密集しているから、通り魔的にナイフで殺す可能性がある。


 あるいは私の中に眠る殺し屋の私が――いや、考えては駄目だ。私はこれ以上変な妄想に取り憑かれる前にお嬢様に話しかける事にした。


「お目当てはもちろんルーリ王子ですか?」

「もちろん! 絶対に一緒に踊ってみせるわ!」

「あわよくば、キスとかも?」

「そうね〜! それもいいかも! あぁ、待ち遠しい! ルーリ王子は絶対に誰にも渡さないから!」


 お嬢様は独り言のようにどうやって王子と踊る機会を作ろうかと楽しげに呟いていた。確かさり気なくぶつかって挨拶を交わし、自然な流れで誘おうとするプランだったっけ。


 うまくいくかどうかは分からないけど、できれば一緒に踊ってほしくない。王子だけではない。他の誰でも。できることなら私と――。


「スカーレット!」

「……は、はいっ! なんでしょうか?」


 自分の心情を頭の中で呟いていたらお嬢様に呼びかけられてしまった。私の反応にお嬢様は妙に険しい顔をしていた。


「そんなボゥとして、いざとなったらちゃんと守ってくれるんでしょうね」


 お嬢様のルビーにきらめく瞳が濁って見えた。どうやら薄々死の予言の舞台となってしまう事を危惧しているのかもしれない。


 私はお嬢様に余計な心配はかけないように微笑んだ。


「ご安心ください。この身に変えてもお守り致します」

「ふんっ、どうだか」


 お嬢様は私に殺されかけた件があるからか、素っ気ない態度を取って窓を見ていた。僅かに口角が上がっているのを私は見逃さなかった。



 舞踏会はダンスホールで行われた。ただホールはお城の中にある部屋ではなく、一つの建物だった。東洋風の丸みを帯びた屋根と神殿風の外観が特徴の建物の前に続々と馬車が停まっていた。


 どの人もきらびやかな格好をしていた。綺麗ではあるが、やはりお嬢様に勝てる者は存在しなかった。


「ふんっ、私より劣っているわね」

「全くです」


 お嬢様の蔑みにも素直な気持ちで応えると、チース公爵とパルジャーナ公爵婦人がやってきた。どちらも金銀細工が目立つ格好をしていた。


「ジュリアーノ、大丈夫?」

「えぇ、お母様。今日の馬は機嫌が良くて吐かずに済んだわ」


 お嬢様も機嫌が良いのか、普段絶対にやらないであろう御者(ぎょしゃ)に金貨を渡していた。


「では、我々はホール周辺を厳重に監視しますので、奴らのことは気にせずに楽しんできてください」


 ダリウスはチース公爵に恭しく敬礼すると、部下に声高らかに警戒を呼びかけていた。


 私もいつもの十倍くらい神経を研ぎ済ませながらお嬢様に付き添った。周りにいる者達の行動に目を光らせた。そのせいで、くしゃみを聞いただけで襲いかかりそうになった。


 そんなこんなで、無事にホールに入る事ができた。予想以上に天井が高かった。数メートルはありそうなシャンデリアの上には絵が描かれていて、女神らしき人が片手に太陽、もう片方に月を乗せていた。全知全能を意味しているのだろうか。


 私の予想通り、大勢の招待客達がグラスや食べ物を片手に談話していた。どこからか、楽団の音楽が聞こえてくる。国王主催だけあってか、見慣れない格好をした異国人も見えた。


「ルーリ王子? 王子はどこ?」


 お嬢様は血眼になって王子を探していた。私は彼女を守りながら通り過ぎる人達の手元などを見ていた。


 チース公爵夫妻とはとっくに離れてしまった。たまに私かお嬢様に挨拶をしてくる不届き者がいたが、睨むだけで逃げていった。


 すると、ファンファーレが鳴り響いた。これを合図に皆話を止めて奥の方を見ていた。お嬢様も珍しく合図に従っていた。


「アクター国王とペリーナ王妃、ルーリ王子です! 盛大な拍手を!」


 老人の大臣らしき身分の人が叫ぶと、会場はたちまち万雷(まんらい)の拍手で満たされていった。


 まず、王冠を被った男が姿を現した。アクター国王だ。こめかみまで髭を蓄えていて、服がはちきれそうだった。その原因となったパイを片手に頬張りながら招待客達の拍手に応じていた。


 次にティアラを付けた女性が現れた。ペリーナ王妃だろう。彼女はアクター国王とは対象的な体型をしていて、華奢な身体と真珠のように眩い瞳をしていた。ルーリ王子は完全に母親の血を色濃く受け継いでいるらしい。


 最後にルーリ王子が現れた。一部の女性達が黄色い声援を上げていた。どうやら社交界でも彼が人気らしい。お嬢様も負けじと甘い声で彼の名前を呼んでいたが、内心複雑だった。


 王族三人が登場し、アクター国王が舞踏会に参加してくれた他国の王族や自国の貴族達に感謝の言葉を述べ、祝杯を上げた。


 再び談話モードに入ると、若い女性の貴族や王族達が我こそ先にとルーリ王子の元へ駆け寄っていた。あっという間に囲まれて、王子は戸惑っている様子だった。


「スカーレット! あの蝿達を蹴散らして来なさい!」


 出遅れたお嬢様は先を越された事に腹がたっているのか、彼女達を指差して命じた。


「お嬢様。出来なくはないですが、ルーリ王子に嫌われてしまいますよ」

「バレなければいいのよ」

「駄目です。これだけ人数が多い中で騒動を起こしたら、それこそ死の予言の通りになってしまいますよ」


 私が予言の事を口にしたからか、お嬢様は「分かったわよ」と扇を広げて仰いだ。


「さぁ、美味しいプティングでも食べましょう」


 私はお嬢様の腕を引いて人混みの中を掻き分けていった。若干もみくちゃになりながら通り抜けると美味しい料理が並べられているテーブルに出た。


 高貴な身なりをした老若男女が自分の食べたい物を選ぶ中、見覚えのある二人がいた。


「レッドベーカー! グリナール!」


 お嬢様が先に気づくと、二人は一斉に私達の方を向いた。


「おぉっ! ジュリアーノ様!」

「ひひひひひっ!」


 レッドベーカーとグリナールは皿に盛られた料理を運びながら私達の方に向かった。もうすでに頂いているのか、口元に食べかすが付いていた。そういえば二人も貴族の娘だっけ。お嬢様よりは位が下だけど。


 お嬢様はいつもの二人にガッカリしている様子だった。が、彼女達は嬉しそうに駆け寄ってドレスを褒めたりしていた。


「なぁ、ジュリアーノ様。ダンスの相手は誰にするの?」

「当然ルーリ王子よ。あなた達は?」

「んー、相手がいたらね。ねぇ、グリナール」

「ひひひっ!」


 レッドベーカーとグリナールは特にお目当ての人はいないらしい。すると、まつで彼女達の会話が聞こえたかのように二人の貴公子が現れた。顔はごく普通だが身なりは高価な素材を使っていそうだった。


「あの、すみません。」

「僕達でよければ踊りませんか?」


 貴公子達はレッドベーカーとグリナールにダンスを申し込まれていた。二人ともまさか自分達だとは思ってもみなかっただろう。顔を赤らんで慌てた様子で口を拭っていた。グリナールに至っては珍しく真顔だった。


「じゃあ、私達はこれから踊るから、これ食べていーよ!」

「ふふふふっ♡」


 二人はお嬢様と私にビュッフェで取った皿を押し付けると、満面の笑みで人混みの中に消えていった。


「あいつら、私を差し置いて……絶交よ」


 お嬢様は悪友達が先に幸せを手に入れた事に腹が立っているようで、フォークでチキンの照り焼きを刺したあと、獣みたいにかぶり付いていた。

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