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第15話 なんだろう。胸騒ぎがする

 授業が一通り終わりお嬢様と一緒に馬車に乗って帰ろうとすると、マリーに呼び止められてしまった。側にはローガがムスッとした顔で私達を睨んでいた。


「何なの。せっかく我が家に帰ろうとしていた時に……夕飯に間に合わなかったら承知しないわよ」


 お嬢様は怒り顔で彼らを睨んでいた。今日の夜はお嬢様の大好きなとろけるビーフシチューなのでそれを余程楽しみにしているらしい。


「お前じゃない。こいつに用があるんだ」


 ローガは私の方を指差して言った。どうやらあの庭園の事で何か物申したいらしい。チラッとマリーの方を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。どうやらあの騒動を起こしたのは私だと話してしまったのだろうか。


「お嬢様。先にお帰りください。私は歩いて帰るので大丈夫です」

「分かったわ」


 お嬢様は呼び止める様子もなく馬車に乗り込み、馬を走らせた。帰宅道中で刺されないかと一瞬不安に駆られたが、その最重要人物であるマリーとローガが目の前にいるので、ひとまずは大丈夫だろうと思う事にした。


「それで何の用ですか?」

「お前、よくも俺の顔面を殴ってくれたな」


 ローガは今にも拳を突き出そうと言わんばかりに殺気を出していた。なるほど。その件か。


「あの時は気が動転してしまいました。申し訳ございません」

「いくら焦ったからといって俺の顔を殴るのはおかしいんじゃないのか? あぁ?」

「やめなよ。スカーレットさんだって反省しているんだし」


 ローガは詰め寄ろうとしたが、マリーが制したことで一戦を交えることはなかった。彼はやる気満々だったが乱暴な姿は見せたくないのだろう。舌打ちして睨みつけていた。


「用件はそれだけですか?」

「なっ、お前……」

「ローガ! もう話したいことは話したでしょ? スカーレットさんと二人きりで話したいからもう行って!」

「なっ、マリー! 大丈夫か? もしこいつが何かしたら……」

「するわけないでしょ。早く行って! これ以上言うことを聞かないと絶交するから!」


 絶交という二文字が効いたのか、ローガは急に萎縮してしまい、「分かったよ」と力ない声を出して歩いて行った。一回立ち止まって振り返ると、「マリーに何かしたら許さないからな」と私の方を指差して去っていった。


 ふとマリーとローガの関係性が私とお嬢様に似ているような気がした。特にマリーがローガを注意している様子は私が普段お嬢様からの文句を受け流したり説き伏せたりする光景と似ていた。立場は違えど似た者同士かもしれない。


 マリーは指先を弄りながら上目遣いで私を見た。


「あの、ごめんなさい」

「謝るのは私の方です。マリーさんを危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございません」

「い、いえっ! 承諾したのは私の方ですから……でも、無駄ではなかったんです。あの、明日の舞踏会にお呼ばれする事になったんです」


 舞踏会――その言葉に聞き覚えがあった。単語そのもののではなく、何かイベントがあったような気がしたのだ。


 私の脳内にある記憶の引き出しをこれでもかとあさって探した。そして、前の記憶を思い出した。


 マリーが言う舞踏会は国王が主催している大規模なものだ。世界各国だけではなく多くの貴族達も来賓(らいひん)する。ルーリ王子はもちろんのこと、マリーも招かれていた。


「あの、スカーレットさん? いかがなされましたか?」

「あ、いえ……良かったですね。楽しんできてください」

「えぇ……」


 マリーは微笑んだが、何か言いたげな様子だった。何かあるのかと聞いてみるが、彼女は何でもないと言って立ち去ろうとした。


 そういえば、お嬢様は招待されているのだろうか多くの貴族が招かれるのなら、チース公爵一家も招待されるはずなのだが。


「マリーさん」

「はい?」


 私が呼びかけると、マリーはすぐに振り向いた。


「明日、私達も向かいますので、どうかご安心を」


 そう言うと、マリーは晴れやかな顔になって数回頭を下げた後、スキップするように去っていった。どうやら私も一緒に舞踏会に来るかどうか不安だったらしい。


 マリーは私の事を友人だと思っているのだろうか。でも、味方ができるのは良いことだ。少しでもお嬢様の魔の手から逃れられるのだったら、あまり気の進まない他者との交流もしようじゃない。


 でも、何だろう。凄く嫌な予感がする。胸の奥がざわざわする。一体何にそんな感情を抱いているのか分からないが、ひとまず屋敷に向かう事にした。

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