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第13話 二人をくっつけさせるには

 マリーはルーリ王子のルックスと優しい性格に惹かれたらしい。さらに好きになったきっかけは彼女が図書館で一番上の棚の本を取ろうと脚立を使用した時に足を踏み外して落ちそうになった。その時、たまたま近くにいた王子が颯爽と駆け寄って抱きとめてくれた。


 大丈夫かと聞かれた時の彼の顔があまりにもかっこよすぎて、うぶな彼女の心に恋の矢が突き刺さった――と前の世界で覚えている出来事と同じだった。確認できてよかった。


「彼、好きな人いるのでしょうか」


 話を一通り終えたマリーは建物へと続く階段の途中で腰を降ろして(うつむ)いていた。


「今はいないと思いますよ。ですが、早くしないと他の誰かに取られてしまいます」


 ひとまず焦られてみる。マリーは「でも、告白する勇気がありません」と首を振った。ということは、チャンスと場所があれば自分の想いを打ち明けられるかもしれない。


「ご心配なく。私に手立てがあります」


 私はそう言うと、マリーにある作戦を告げた。



 結論から先に言うと、遊戯の世界ではマリーとルーリ王子は付き合うことになる。その決定打となるのは、学園内にある庭園だ。

 

 あそこは迷路みたいに複雑で一度入ると中々出られない。だからこそ、よく学生達の逢引や出会いの場として使われることが多い。下見をした時は何人かの男子生徒が私に話しかけてきたり(当然睨みつけて追い払ってやった)、カップルが度を越えたイチャつきをしたりしているのを目撃した。


 確か遊戯の世界ではマリーは男子生徒に絡まれた時にルーリ王子が助けに来てくれたのをきっかけに二人の距離は縮まった――という展開だったと思う。


 もしこの世界が遊戯のシナリオ通りに進行してくれるのであれば、そのシチュエーションをすれば晴れて結ばれるの可能性が高い。


 マリーには庭園の中に入って待機してほしいとだけ告げる。可愛らしい彼女の事だからあっという間に男達に言い寄られるだろう。私はすぐにルーリ王子の所に行って「彼女が庭園を散歩していたら男達に絡まれている」と告げる。


 心優しい王子はすぐに駆けつけて、マリーを助ける。そして、晴れて二人は――うん、デモンストレーションは完璧だ。


 私とマリーは庭園の前までやってきた。二メートルはありそうな生け垣が城壁みたいに並んでいる。私なら余裕で登れそうだが、普通の人は飛び越えるのは困難を極めるだろう。


「す、スカーレットさん。こ、ここ怖いです」


 マリーはお嬢様達にいじめられた時のように身体を震わせていた。私は「もし本当に危なかったら声を上げてください」と彼女の手を握って話しかけた。マリーは「ありがとうございます」とぎこちない笑みを浮べて、庭園の中に入っていった。


 姿が見えなくなる事を確認した私は一目散にある場所に向かった。遊戯の世界とリンクしているのなら、イベント時と同じ場所にいるはずだ。庭園のイベントの際、王子がいた場所は教室。確か友達と談笑してはず。


 私は彼がいる教室までやってきた。庭園からここまで五分もかかっていない。これだったら、何かされる前に助けに行ける。


 教室のドアが開いていたので覗いてみると、王子はシナリオ通り友人と話していた。が、ある問題が起きた。話している相手がローガだったのだ。


 もし私がここで助けを求めたら、間違いなくローガがマリーを助けるだろう。そしたらマリーはルーリ王子ではなくローガと結ばれる可能性が高い。だが、迷っている暇はない。早くしないと今頃マリーは男達に追いかけられているかもしれない。


 私は覚悟を決めてドアを開け、一目散に王子の元へ駆けた。


「あ、おま、何しにふぶしゅっ?!」


 当然喧嘩を振ってきたローガに渾身の顔面パンチを繰り出して気絶させた。ローガは机をなぎ倒しながら伸びていた。


 さて、このまま腕を引っ張って連れて行こうとしたが、王子は「急に何のようですか?! ローガくんの顔にパンチを食らわせるなんて正気じゃないですよ!」と当然の反応を見せた。


「マリーが庭園で襲われている」

「え?」

「さぁ、早く来て!」


 私は腕を掴んだが、ルーリ王子は「ちょっと待ってください! 急にそんなことを言われても訳が分からないです!」と戸惑っていた。一から説明してあげたいが、時間があまりにも足りない。こうなったら強行手段だ。


 私はサッとルーリ王子をお姫様抱っこした。包帯巻かれた手が痛むが、グッと我慢した。


「え? え?」

「頭を抱えて」


 困惑するルーリ王子を他所に私は全速力で窓の方に突進した。王子は女性みたいに甲高い悲鳴を上げていた。彼がいる教室から地上までの高さは五メートル。複雑骨折せずにそのまま走ることができた。


 周囲の視線が私達に向けられていたが、私は気にせず走り続けた。風を切るように走ったおかげか、一分で庭園まで辿り着いた。


「さぁ、入って」

「え? でも」

「いいから! 入りなさい!」


 私がそう叫んだ時、空を突き抜けるような甲高い悲鳴が響きわたった。私はすぐにマリーだと分かったので、彼を生け垣の頂上までのぼらせて、上から見下ろしながら彼女を探した。


 さすがにあの悲鳴が聞こえたら、私の言葉を信じたらしく黙って足場の悪い生け垣の狭い道を進んでいった。歩いている途中、イチャイチャ中だったカップルの悲鳴が聞こえたりしたが、マリー捜索に集中した。


 私は隅から隅まで見渡すと、少し開いた広場に数人の男に囲まれているマリーがいた。彼女は怯えていた。


「ほらっ! あそこっ!」


 私が指差すと、王子の顔色が分かった。私より先に向かい、生け垣から飛び降りた。


「お前らっ! 何をしているんだ?!」

「お、お前はルーリ王子?! なぜここに?!」

「その子を離せ! 離さないと痛い目にあうぞ!」


 私は身体をしゃがんでこっそりと様子を伺った。マリーを守るようにルーリ王子が立っていた。彼らを囲うようにモテなさそうな雰囲気が漂う男達と対峙していた。


「ちくしょう。いい思いができると思ったのに」

「こいつをぶちのめせばマリーは俺達のものだ!」

「そうだ! やっちまえ!」


 男達はルーリ王子を打倒しよう共闘して挑んだ。震えるマリーに王子は優しく微笑んだ。


 よしよし、順調に事が進んでいるな。確かこの後はルーリ王子がバッタバッタと倒す。逃げる男達。マリーはお礼を言って愛の告白。王子も自分の想いを伝えてゴールイン。


 私はホッと一安心して王子の大立ち回りを観賞することにした。


「マリぃいいいいいいいい!!!」


 しかし、予期せぬ出来事が起きた。どこからともなく、狼の獣みたいな咆哮が聞こえたかと思えば生け垣を突き破る勢いでローガが現れたのだ。


「ローガ?!」

「ローガさん?!」


 思わぬ乱入者に私もルーリ王子も戸惑っていた。一番驚いたのは私だった。気絶させるほど一撃をぶつけたにも関わらずすぐに回復したのも驚きたが、シナリオ通りの展開ではないことが起きていることに目を丸くした。


「な、なんでこいつが?!」

「えぇぃい! なんでもいいやっ! やっちまえっ!」


 男達は果敢にローガに襲い掛かったが、獣のような俊敏さと馬鹿力で瞬殺されてしまった。


「マリー! 無事か?!」

「え? あ? うん、ありがとう」


 ローガはマリーに駆け寄って様態を伺った。マリーはぎこちない話し方でお礼を言った。何もかも計算外だ。王子様は彼女の戸惑いに気づいている様子もなく「怪我がなくて良かったよ」と安堵していた。


 私はこっそりその場を後にした。頭の中が真っ白になりそうだった。最短でルーリ王子マリーが結ばれるというシナリオは彼女の幼馴染によって白紙になってしまった。

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