第12話 私が恋のキューピッドに
前世の私はこの遊戯の世界をかなり知り尽くしていると思った。が、今の私はそれがうまく引き出せないでいる。まだ記憶が掘り起こされたばかりだから、時間をかければ解決できるかもしれない。
さて、ジュリアーノお嬢様が倒れたという事件は学園内で瞬く間に広まっていった。彼女に同情する者は全くおらず、むしろ生き延びた事を嘆いている様子だった。
お嬢様はそんな黒い声には屈さず、前を見続けていた。その後ろ姿に私は深く感銘を受けた。恐らく前世の私はお嬢様の貴族らしい堂々とした一面にも惹かれたのだろう。
「ねぇ、スカーレット」
「何でしょうか。お嬢様」
「その、『食事に毒を盛られる』っていう予言は的中したのよね」
「はい。誠に残念ながら」
「じゃあ、次の予言をあの占い師から聞きましょう。早くしないと次の死の危険が襲い掛かってくるわ」
お嬢様はもうすでに先に進んでいるらしい。私もウジウジしないで「では、すぐに」と頭を下げた。
※
「次の予言はこれね」
占い師のムーラは手をかざして文字を浮かび上がらせた紙を私達に見せてきた。
『恋敵に刺される』と書かれていた。
「恋敵って……ルーリ王子を好きな人が他にもいるってこと?!」
「そうなるわね」
ムーラは近くに置いている水晶を撫でながら言った。お嬢様の言う通り、『恋敵』は王子を陰ながら慕っている者だろう。だが、問題はその人数がどれくらいいるのかが分からない。彼の人気ぶりから察するに、お嬢様は不特定多数の人達から妬まれて刺されると推測できる。
じゃあ、どうすれば回避できるか――考えられるのは一つ。お嬢様がわざとルーリ王子に冷たい態度をとることだ。この提案にお嬢様は当然反論した。
「なんで私がそんなことをしないといけないの?! 嫌われたらどうするのよ!」
「お嬢様。ご心配なく。できるだけ二人きりの時に甘えた顔をして接してください。そうすればイチコロだと思いますよ」
「イチコロ……?」
お嬢様はキョトンとした顔をしていた。私はハッと今言った言葉を思い出した。どうやら『イチコロ』はお嬢様の世界には存在しないらしい。
「む、胸がときめいてくれると思いますよ」
「そう。ルーリ王子と結ばれるのなら非情にでもなってあげるわよ」
私は小さく頷いた。実は彼女には言えないもう一つの計画を考えていた。さっきは不特定多数の女子がルーリ王子を狙っていると言ったが、よくよく考えているとここは創作の世界。メインとなる女子が関係してくるはずだ。
となると、あてはまるとしたらマリーしかいない。彼女はルーリ王子のことを密かに思っていた。前世の記憶を持つまでは分からなかったがさっき廊下で隠れながら見ていたのは、お嬢様ではなくルーリ王子を見ていたのだと思う。
そして、私はルーリ王子とマリーを付き合う計画を立てた。もし二人が付き合えば、彼らの妬みの視線は彼女に向けられる。お嬢様には悪いが、全てはあなたの命を守るため。だから、心を鬼にしないといけない。
でも、一番はルーリ王子とお嬢様を結ばれないようにするためだけど。
※
お嬢様を友人レッドベーカーとグリナールの二人に預けて、私はマリーを探す事にした。彼女は屋上の隅っこで一人寂しくサンドイッチを食べていた。
彼女は私を見かけるとすぐに立ち上がって逃げようとした。
「待ってください。お嬢様の件でお話したいことが」
「……何でしょうか?」
マリーは立ち止まって、怯えた眼差しを向けていた。お嬢様達とのイジメや私とローガとの件で関わらないようにしているのだろう。
「この前はお嬢様が大変な無礼を犯してしまい、申し訳ございません。私が代わりに謝罪いたします」
深々と頭を下げると、マリーの声色が変わった。
「あの、その、急にどうしたんですか? まさか病気のことで……」
病気は恐らく毒を盛られたことを差しているのだろう。私は「えぇ、そのこともありますが、ローガさんのことも」と彼女の幼馴染に挑発したことも謝った。
マリーは「彼のことは私の方から謝るべきです。正義感が強いのが魅力なんですけど、たまに余計な問題も起こすのがたまに傷なんです」とようやく微笑んでくれた。ローガに対してはくだけたような言い方になっていた。
「ところで、あの時、こっそり見たのはルーリ王子を見ていたんじゃないですか?」
「え? いや、その……」
マリーは明らかに狼狽していた。私の記憶に間違いはなかった。
「好きなんですよね? 彼のこと」
「す、すきなわけ、ないです」
「手伝ってあげます」
「え?」
「私がルーリ王子とマリーさんをカップルにして差し上げます」
私がそう言うと、マリーは大きな眼をパチクリさせた後、「どうしてですか?」と聞いて来た。それもそうだ。そんな親しくない相手に恋のキューピッドを名乗り出したら不審に思うのは当然だ。
もちろん、本当のことは言えないので、「趣味です」と答えた。
「しゅ、趣味ですか?」
「えぇ、片想いの男女が晴れて結ばれるのを見るのがたまらなく好きなんです」
「か、変わってますね」
「よく言われます」
頭の中で適当に思いついたことを話すと、マリーは「でも、どうやって私と彼を結びつけるんですか?」と首を傾げた。どうやら前向きに検討してくれるらしい。
「まずはどうしてルーリ王子のことが好きなのか、教えてください」
私は制服の内ポケットからメモ帳を取り出した。ペンを取り出そうとしたが、包帯で巻かれているせいか、うまく取り出せなかった。なので、頭の中で書く事にした。
「包帯? どこか怪我されているんですか?」
「えぇ、少しドアを挟んでしまって」
とっさに嘘をつくと、マリーは「うわぁ、痛そう」と憐れむような目線で私の手を向けてきた。




