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プロローグ「救世の英雄」






――世界は照らされていた。



――天上に輝く星の名は〈禍つ光〉。



――ただ人類を滅ぼすべくして在るもの。




 星空をかき消して、月光さえも覆い隠す七色の煌めきが、夜空を照らし出して幾星霜。

 光輝の星より降り注ぐ流星雨は、その一つ一つが滅びの飛沫、侵略の尖兵たる異星の獣ども。


 それは美しい終末だった。

 何者も差別せず、区別せず、慈悲もなく、ただ殺戮の嵐をもたらすだけの輝けるもの。生命あるものすべての敵とさえ言われる怪物の群れが、地表に降り注いでからもう一〇〇年以上の歳月が経とうとしていた。

 人類は破滅した。文明は衰退した。文化は破壊された。

 ああ、けれど――滅亡にはほど遠い。そのような成れの果ての世界を、彼は生きている。


 流石に一〇〇年も生きていると、いろいろなことが曖昧になる。

 例えば鮮烈だったはずの初恋の相手の顔と名前もぼんやりしてきて、自分が元々は普通の少年だったことすら、白昼夢だったように思えてしまう。


 彼は少年の姿形をしていて、灰色の髪と灰色の瞳をしていた。あどけないという形容詞がつくような十代半ばの姿は、着込んでいる地球軍支給のコートにまるで釣り合っていなくて、出来の悪いコスプレのようだった。


 かつて少年だったものの名は東雲(しののめ)ツルギ。

 地球の東アジアと呼ばれた地域の弧状列島、この戦争が始まるまでは日本と呼ばれていた場所で産まれて、生物学上は人間だった。


 遠い昔の話だった。

 一人、夜空を見上げる。ツルギはどうしようもなく、天上の星を美しいと思った。人類の天敵を美しいなどと評しているのを聞かれたら、一兵士ならば銃殺刑ものかもしれない。


 だが、自分にその心配はあるまい、と思う。これでも一〇〇年間、人類のために戦ってきた英雄ということになっているのだから。

 冬の夜空は空気が澄んでいて心地よい。体温が下がって風邪を引くような器用さを失った肉体は、一〇〇年という時間が経過してなお、彼の時間を止めてしまっている。


 すり鉢状のクレーターは湖になっていて、そのふちを歩くツルギは、端から見ていると気軽に散歩しているようだった。夜の冷えた大気が、彼の呼吸を白い吐息にして夜闇に溶け込ませた。

 ここはかつて埼玉県と呼ばれた土地で、記憶が正しければ、東雲ツルギの生まれ故郷だった。かつて地方都市があった場所には、〈禍つ光〉から落ちてきた流星雨が直撃し、今では馬鹿でかいクレーターだけが残っている。


 いくつかの山脈が地形ごと消滅してしまったせいか、日本の気候もすっかり変わったと聞いているが――冬の凍えるような大気だけは変わらない気がした。

 ふと、足音がした。

 規則正しいその歩き方には覚えがあったので、ツルギは慌てずに振り返った。


「こちらにお出ででしたか、東雲ツルギ大佐」


「まだ作戦時間じゃないだろう?」


「地球防衛の任に就くものとして、あなたの身の安全は最大の懸念事項ですよ」


「よしてくれ、生憎、僕を殺せるような武器はここにはないよ」


「形だけでも警護しないと我々も立つ瀬がありませんよ、大佐殿」


 そう軽口を叩く青年士官とは、そこそこ長い付き合いだった。

 確かカオシュン出身だという彼は、故郷で起きた殺戮の敵討ちのため地球軍に志願し、士官学校を卒業してきた今時珍しい本物のエリートだった。促成栽培の軍隊教育しか受けておらず、長く戦場にいるだけで今の階級を授かった自分よりよほど知見は優れている、とツルギは思う。


 流石に東アジア地域の出身者は戦意が旺盛だ。

 地球外敵性存在〈禍つ光〉との第一次衝突時、壊滅的な被害を被ったおかげだろう。

 どうやら人間というのは、地獄を極めると逆に仲良くなれるらしい。


 あらゆる利害が入り込む余地がないほど悲惨な境遇と、諸悪の元凶たる共通の敵――民族や宗教や言語や国境を越えた紐帯というのはそうやって育まれるらしい。宇宙からやってきた敵のもたらした破滅的惨禍は、人類の築き上げたあらゆる規範を打ち砕き、その生命と尊厳を奪い尽くして、まったく新しい共同を強制的に成立させた。


 曰く、地球統一軍。

 その憤怒と憎悪の熱狂を、ツルギは他人事のように見つめていた。

 熱く燃えたぎるような感情も意思も、限られた時間を生きる人間の特権なのかもしれなかった。


 もう東雲ツルギはそういう生き方ができないのだ、と思う。

 燃え尽きた灰の中に混ざってしまった何かが、かつて少年が守りたかったものなのだから。

 自分が、とうの昔に人間を同胞と見なしていないことに気づいたのはいつだったろうか。


 痛みも苦しみも悲しみも、それが日常になってしまえば劇的な感情ではなくなる。好きになれるものが何もなくなっても、彼を突き動かすのは遠い日に覚えた感傷だ。


「ここが、大佐殿の故郷なのですね」


「ああ、もう何も残ってはいない……いや、感傷だけが残った土地だよ」


「……感傷こそが、我々を人間たらしめるのだと思います」


 青年士官の気遣うような声に、ツルギは微笑んだ。彼のそういう人間性を好ましく思う程度に、自分もまだまだ甘いらしい。


「そうだな。その通りだ」


 腕時計を見やり、もうすぐ作戦開始の時刻だと気づいた。感傷に浸る時間は十分に取れた。

 思い残すことは特になかった。特別な計らいで、見送りも最小限――連絡係である青年士官の彼以外、ほぼいないに等しい。それが心地よかった。


「そろそろ行ってくるよ」


「……ご武運を」


 東雲ツルギはまるで散歩に出かけるような気安い口調で、ここ数年、ずっと共に戦ってきた青年に見送られて――死地へ向かうのだ。

 一歩、前に踏み出して。クレーター湖の傾斜面を滑り落ちながら、ぽつりと呟いた。


「――変身」


 ぱぁっと夜闇が照らされた。

 頭上に光り輝く天使の輪が浮かび、バチバチと火花が散るような異音が鳴って。

 彼をこの一〇〇年間、戦い続ける不死の戦士たらしめる超常能力が、その肉体を創り変えていく。肉体が拡張され、拡大され、体積と質量を加速度的に増大させていく。

 異形であった。異能であった。異様であった。


――それは巨神であった。


 大きい。それは身長二〇メートルもの巨体で、クレーター湖の水面に水飛沫を上げて立っていた。

 夜闇の黒よりもなお黒い漆黒のボディに、肉体に走った青く輝く血管のようなエネルギーライン。筋肉質で引き締まった外骨格の腕の先端には、重厚で太いガントレットが付属している。まるで二足歩行する恐竜のような脚部は、力強く大地を踏みしめていた。


 複眼を持った頭部が、天上のまばゆい輝き――〈禍つ光〉を見据える。

 次の瞬間、巨神の肉体がふわりと宙に浮かび上がった。二〇メートルの体躯を感じさせない、異様なまでに軽快な浮遊。重力制御による飛翔である。


 その背後には光背(ヘイロー)。重力制御を司る体外器官がうなりを上げていく。

 この程度のことは、この巨神にとっては呼吸にも似て容易く、児戯に等しい。

 巨神の名は〈ケルベノク〉。


 二一世紀前半の出現から一〇〇年間、人類の敵と戦い続けてきた英雄である。

 重力を振り切って、ただ天上へ向けて飛翔する。遠く、遠く、星々の光を求めるように。雲の海を突き破って、青く輝く黒の巨神は空の彼方を目がけて飛行する。ロケットの打ち上げ風景にも似た景色――だが、ここに推進炎はない。第二宇宙速度も必要ない。重力の呪縛を打ち消して加速し続ける〈ケルベノク〉にとって、人類の科学の常識など無用の長物であった。


 成層圏を突破する。極超音速に達した巨神は、衝撃波と共に天上の世界を目指す。

 目の前には、怖いぐらいに深い青と黒の中間色。

 目指す先は地球から距離にして四五万キロメートルの彼方、月よりも遠い宇宙空間に在るもの。

 頭上に輝く〈禍つ光〉。


 天に座す光輝――レイディアント・ディザスター。


 それこそが人類の仇敵。

 一〇〇年前、突如として月周辺の宙域に現れて、何のメッセージも警告もなく地球各地に向けて爆撃を開始した天体の名である。観測した限りでは直径三〇〇キロメートルの光り輝く球体は、まるで恒星のように輝きながら、滅びの流星雨を降らせて、都市という都市を一瞬でクレーターに変えた。


 そして生存者たちは、さらに恐るべきものを、おぞましい怪物の群れを知った。

 RB――レイディアント・ビースト。〈禍つ光〉より放たれた流星雨の正体、未知の異星の物質で構築された肉体を持つ、異形の獣たち。

 怪獣としか言いようがない化け物どもが、壊滅した都市の生き残りを蹂躙していった。


 殺戮があった。破壊があった。すべてを吹き飛ばす熱核兵器の洗礼があった。人が人を殺しながら、諸共に怪物を殺そうとする地獄が地上に現出した。人類が築き上げてきた文明も、文化も、理性も、未知の敵に対する恐怖に勝るものではなかった。


 そのような地獄の真っ只中で、かつて東雲ツルギという名前だった少年は、戦うための存在に生まれ変わっていた。

 故郷が滅んだ。家族が死んだ。友達が死んだ。その後にできた知己もまた、全世界に吹き荒れた戦禍の中で死んでいった。そうして彼は、世界というものに執着が持てなくなりながら――燃え尽きた灰の中に、尊いものを探すようにして戦い続けてきた。


 空が尽きる。

 天涯を超えて、重力を完全に振り切って、眼下の青い星を置き去りにして〈ケルベノク〉は宇宙空間に躍り出る。

 見える。まばゆい輝きを放つ滅びの星。


 これから彼が行うのは、戦闘行為ではない。市民を守護する任務でもない。

 オペレーション・バルドル。

 人類唯一の超越者、巨神〈ケルベノク〉を弾頭として〈禍つ光〉へ運動エネルギー攻撃を仕掛ける。


 要するに、片道切符の特攻作戦だった。こんなものは作戦とすら言えない自殺行為だと、今の軍部ですら批判の声が上がるような代物だ。

 だが実際問題、もう人類には宇宙空間の彼方にある敵へ仕掛けられるような兵器は残っていない。


 〈禍つ光〉への熱核攻撃は、まだ人類に余力があった二一世紀の頃、何度か実行されている。地球上の人類を殺し尽くしても飽き足らない量の水爆は、同胞を殺すための大陸間弾道ミサイルではなくロケットに載せ替えられ、宇宙空間に浮かぶ〈禍つ光〉へと射出された。直撃した核ミサイルの爆心地では、数億度の火球が生まれては消えて。



――ただ無傷の〈禍つ光〉だけが残った。



 かくして人類は自らの無力さに震えながら、〈禍つ光〉から定期的に送り込まれてくるRBを迎撃し続けた。先の見えない日々だった。手段を選ばなければRBと十分以上に殺し合えてしまうから、敵の元凶に何の手も打てないまま、ずるずると月日だけが経っていった。


 そしてRB――レイディアント・ビーストとの戦争状態が恒常化してしまえば、それが日常になって、問題の根本的な解決策がないという最悪の現実から目を逸らしてしまえるのだ。

〈ケルベノク〉――東雲ツルギがいる現在は、そういう問題の先送りの果てのどん詰まりだった。


 今日という日まで、ツルギがしてきた戦いはすべてが火消しだった。天上から降り注いだ厄災の落着地点に駆けつけて、現地の軍隊の助けを借りながら、一人でも多くの生存者を助けるため敵を駆除してきた。


 まるでフィクションの中のヒーローのような彼の活躍を、マスメディアは英雄譚として語り継いだ。しかし実際のところ、自分がそのような人間でないことをツルギは知っている。

 〈ケルベノク〉の重力制御器官がうなりを上げ、巨神をさらに加速させていく。

 もっと速く。弾丸のように。光の速さに至るまで、この身を加速させていく。


――もっと早くこうしていればよかった。


 だが、こうして捨て身の特攻作戦に彼が納得したのは、今になってようやく、ためらいがなくなったからに過ぎない。一〇〇年間という時間が、死への恐れという人間が持つべき本能すら摩耗させた果てに、東雲ツルギは自分の死と引き換えに成し遂げられるかもしれない奇跡にすがった。


 これはそういう行いであって、英雄的自己犠牲とはほど遠い何かだった。

 太陽の光とも波長の異なる、虹色の可視光線――光り輝く異形の厄災〈禍つ光〉が見えた。


 加速に伴って、あらゆる景色が高速で遠ざかっていく。

 速く、速く、速く。

 そんな彼の存在を恐れたかのように、〈禍つ光〉が妖しく煌めいて。

 無数の光点が、妖星から吐き出される。


 その一つ一つが、体長三〇メートル以上もあるRBだった。結晶状の甲殻組織と無数の眼球を持ち、摂食器官を持たず、その命失われればガラスのごとく砕け散る――食物連鎖の輪から外れて殺戮だけを繰り広げる異形の怪物ども。

 無数の怪獣――レイディアント・ビーストの群れが、〈ケルベノク〉目がけて押し寄せてくる。


 視界を埋め尽くすほどの大群だった。

 だが、遅い。

 〈ケルベノク〉は加速を続けている。それは天文学的量のエネルギーを重力制御器官に注ぎ込み、限りなく光の速さに近づくことを意味していた。

 彼の高速化された思考では永遠に等しく感じられた時間は、実際のところ、外部からの観測では三〇秒にも満たない時間だった。


 やがて、何も見えなくなった。高速で過ぎ去る景色を景色と認識できなくなったのだ。

 亜光速での質量投射――自らを弾丸とした運動エネルギー兵器。

 その一撃の結果を、彼は覚えていない。

 ただ最後の刹那、こう思った。





――正義の味方ごっこの末路にしては、上出来じゃないか。


















――どうすれば、わたしは報われるだろう。





――どうすれば、わたしは救われるだろう。






――間違えて、間違えて、間違い続けた最果てで。






――運命にようやく巡り会えたような気がした。













 あの世にしてはやけに身体が重かった。

 夢でも見ているかのような気分のまま、まぶたを開く。

 目の前に琥珀色の瞳があった。文字通り、目と鼻の先にある瞳。まるで宝石のように綺麗なそれの持ち主は、端整に整った白皙(はくせき)をツルギから離して。


「おや、目が覚めましたか」


 突然、涼やかな少女の声が聞こえてきた。

 さらり、と青みのかかった銀髪をツルギの額につけて、とぼけた表情で少女が顔を離していく。

 状況を辛うじて理解する――目の前に恐ろしく美しい女の子がいて、何故か自分の顔を覗き込んでいた。


 意味不明である。

 そして真っ先にこう思った。


「こわい……」


 かすれた声でうめくと、ツルギの顔を覗き込んでいた少女――青銀の髪と琥珀色の瞳を持った浮世離れした容姿――はこうのたまった。

 微笑みを浮かべて。


「わたしのような美少女に対して丁寧な挨拶ありがとうございます」


「皮肉……?」


「皮肉です」


 一つわかったことがある。自分で自分のことを美少女とのたまうやつは、たぶんろくな性格をしていない。

 東雲ツルギはそこでようやく、自分がベッドの上に寝かしつけられていること、パジャマのような寝間着を着ていること、照明の明るい白い部屋にいること、ベッドの脇に立っている少女の側頭部から四本の角が生えていることに気づいた。


「角……?」


「……ふむ」


 青銀の髪の少女――どこか宝石を思わせる質感のクリアブルー、二対四本の角がにょきっと側頭部から後ろ側へと生えている――は、しばらく考え込んだあと、ぴっと人差し指を立てて。


「わたしの話している言語がわかりますか? 六月二四日は何の日かご存じですか? 世界を支配している暗黒秘密結社の支配者の名前はわかりますか? ちなみにあなたは発見時、全裸でした」


 わけがわからない単語が飛び交っているので、本気で困惑した。


「待ってくれないか、言葉の洪水で答えきれない……いや、待ってくれ全裸!?」


「服なら着せましたよ、わたしが」


「いきなり僕の尊厳が蹂躙されたようだな……」


 見たところ少女はツルギの肉体年齢――高校生程度――よりも何歳か幼いようだった。そんな年頃の女の子に全裸で発見され、挙げ句に服を着せられたなどあまりにも恥ずかしい体験である。

 そのように感じるだけの情緒が自分に残っていることに驚きつつ、ツルギは大事なことを思い出した。


「……そうだ、〈禍つ光〉はどうなったのか知っているかい?」


「…………はい?」


 いきなりわけのわからない話題を切り出された、とでも言いたげに少女は首をかしげて。


「…………ああ、歴史の話ですね!」


 ぱちん、と掌を合わせて納得したように頷いた。


「そうそう、歴史といえば――トクガワ・イエヤスとダグラス・マッカーサーの会談は歴史的快挙でしたね」


「……僕の知ってる日本史とズレてる……」


 頭痛がしてきた。

 目も覚めるような青銀の長髪――染めているとも思えない、見事な銀糸のような髪の毛。身にまとった純白の衣装は舞踏会のドレスのように優雅で、袖口からしてひらひらとして、なんというかおしゃれな気がした。ツルギの語彙(ごい)ではそれ以上、どう表現すればいいかわからないが――かなりメルヘンな印象を受ける。


 まさか西暦二一二〇年にもなって、こんなにも優雅な衣装の文化が残っているとは思わなかった。

 一目で見惚れてしまうような容姿の少女は、しかしながら、口を開くと残念を超えて胡乱であった。


「失敬な。わたしは日本史の専門家と言っていい知識があります。あなたが第一次世界大戦の情勢下で生まれたのも把握しています」


「ズレてる、一〇〇年以上ズレてる! 確かに僕は一〇〇年以上生きてるけど生まれたのは二一世紀だ!」


「二一世紀……ええ、知っていますよ。トクガワ幕府による鎖国体制から日本が解放され、スマートフォンとソーシャルゲームが解禁されガシャで破産する人民が続出したという暗黒時代ですね」


「いい加減な上に失礼だな君!?」


 時系列とテクノロジーの発展がぐちゃぐちゃすぎて、聞いているとどこから突っ込んでいいのかわからなくなる。ひょっとして自分はわけのわからない異世界に迷い込んだんじゃないかと怖くなって、思わず尋ねた。


「すまない……これだけは聞かせて欲しい。ここは地球なのか?」


「あんな陰険ガッデム星系なわけないじゃないですか、まあここも田舎といえば田舎ですが――アンドロメダ銀河ですよ」


「へえ、アンドロメダ銀河……うん?」


「どうかしましたか?」


 遠い昔、〈禍つ光〉が現れて人類の文明がめちゃくちゃになる前――まだ宇宙開発なんかに憧れがあった時分、聞いたことがある名前であった。

 アンドロメダ銀河。


 確か地球から二五〇万光年――光の速さで進んでも二五〇万年はかかる天文学スケールの距離にある銀河系の名前である。


「…………え、宇宙?」


「少なくとも天の川銀河ではありませんね。ちなみにここは、わたしの所有する船の中です」


「船?」


「つまり宇宙船です」


 ツルギはどうしていいかわからなくなったので、三〇秒ほど虚空を見上げて放心した。








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